表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
88/115

77 プディング

 

 木のスプーンに掬われた乳白色のプルリとした艶やかさがヨダレを誘う。

 他のものには目もくれず、ただひたすらに舌の感覚─味覚に意識を集中させる者たち。

 目をつぶり小さく咀嚼する。

 驚くほど軽く、歯の力がその柔らかさをフワリと磨りつぶす。

 舌先がその甘味に震える。

 そして、喉を通って冷たさが消えたような感覚。


「──美味しぃ」


 小さく呟かれた感想は思いもせず口衝いたものだろう。

 それは一人ではなく──


「うまぁぁいいい!!」


「信じられない──ッ」


「うぴゃあああああぁぁ!!」


 広場は甘味による歓喜に包まれ、瞬時に食べ尽くした子どもたちが絶叫をあげながらオレにこぞっておかわりを要求する修羅場になった。

 って、ちょ! ちょっと待て!!

 そこまでオレの作ったプリンを欲しがってくれて嬉しいんだが、勝手に取ろうとしたり、発狂したり、威嚇しあって、殴り合いの喧嘩に発展するのはやめてほしい!


 オレが大声で制止してもガキンチョ共が暴走を止めることはない。

 前世の弟にも言われた癇癪起こしだったオレだが、ガルゥシュと生まれ変わったことで今は温和であると自負しているオレも流石に腹が立った。


「あ~やめだやめ。レシピを教えようと思ってたけどもういいや。そこにあるのが全部だからこれから一生食えなくなるものだと思えよ?」


 敢えてぶっきらぼうな言い方をしてみる。

 それだけで効果は抜群だったみたいだ。

 聞こえた者のリス耳がピクリと動いた。

 子どもたちは皆一様に口を噤み、首から上だけを動かしてオレの顔とプリンの寸胴鍋に視線をいったり来たりさせる。

 中には皿を見て涙を浮かべる小さな子もいるし──あちゃあ…これちょっとキツすぎたかな…?

 さっきまで満面の笑みだったからなギャップがオレの胸に刺さる。


「ホラみたことかい! あんたらが貰ったものに感謝もせずに取り合いなんかするからだよ。アタシゃ絶対にレシピを聞きたいんだからね!? 折角作ってくれたお婿さんを怒らすんじゃないよ!バカ坊主ども!」


「いっで! やめろよ! アハタのおばちゃん!」


「ぐぇっ! 俺も?」


 これまた恰幅のいい女性が喧嘩をしていたガキどもを拳骨で小突く。

 料理関係はこの人が一手に担っているのか知らないが、お残しはゆるしまへんでー!と言ったオバチャンのように木ベラを手に握っている。

 いや、あの人はしゃもじだったか。

 拳骨を落とされた二人は頭を押さえて二人仲良くしゃがみ込む。

 イヤーいい気味…なんだが…お婿さんはマジでやめてほしい。

 オレはセーベとアレコレするつもりは無いから。


「ホラ散った散った! これからお婿さんと交渉するんだからね! 邪魔するんじゃないよっ!」


 そのアハタと言ったか?

 アハタのおばちゃんは手を雑に振って子どもたちを遠ざける。

 どの子も名残惜しそうに寸胴鍋を見つめたが仁王立ちをしたアハタさんにビビったのか親の元へ戻っていく。


「…さて、教えてもらおうか。この“ぷりん”という甘くて冷たい物のことを、さ!」


「う~ん、元々は教えるつもりだったんですけどねー。どうしても材料費は高いし、作るのに手間がかかるんで止めとこうかな、と」


 半分は本当だが、半分は嘘だ。

 魔法が上手く使えればそこまで手間はかからないだろう。

 あ、でも冷やす作業がな~難しいかもしれない。

 けれども、そんなことで諦めるつもりは毛頭ないのかアハタさんは目をギラギラに輝かせて顔を近づけてくる──って近い近い!


「どぉーしても、ダメなのかい!? 無料(タダ)でとはいわないよっ!」


「まぁ、教えてもいいですが。そちらは何か出せるのですか?」


「そうだね、何がほしい? お婿さんや」


 欲しいものか…何があるんだろう。

 そもそもオレが今欲しい物って何だ?

 パソコンとか? 無いか、あったらいいのに。

 だとするならば──


「そうだなー、しいて言うなら…旨いものだな」


 ニヤリと口の端をあげて言ってみる。

 そうするとギラギラとした目をキラキラに変えてアハタのおばちゃんはまたも顔を近づけてきた。


「そんなことでいいのかい!? 分かったよ! ワタシが腕によりを掛けて最高に旨いものを作ってあげよう! 満足のいく品だったら、ぷりんのレシピ頼むよ!」


「あぁ。いいぜ! 楽しみにしてる!」


 お互いに笑いあって、その場をあとにする。

 周りはちょっと呆然としているが、旨いものには旨いものを返してもらおうと思っただけだ。

 それに食べ物は幸福をもたらしてくれるものだ。

 オレは今飢えているからな、それに空腹だ!

 最高に旨いものが食えるんだ、それだけで腹が鳴るぜ!


「呆れた…そんな物で釣り合いのとれるような食べ物じゃないでしょうに…」


「う~ん、私もそう思うけど、それもガルゥの良いところだよね!」


 メルネーちゃんに呆れられたがソフィには褒められた。

 呆れられても今のオレには特に欲しいようなものも浮かばなかったんだよな。

 確かに、空腹に任せて言っちゃった感は否めないけど。


 さぁて、アハタさんは何を作ってくれるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ