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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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76 皆で


 少し離れたところでも微かに笛の音と太鼓の音が聞こえる。


 クラメとクラベは多分夜が深くなるまで話を続けるだろう。

 二人のために祭りのご飯を分けておいてあげるか?

 プリンだって食べてもらいたいしな。


 オレは久しぶりに上手いものが食べられるかもしれないということで、ワクワクしてる。

 自分の作ったものじゃあ、そこまで旨くないからなぁ。

 常に料理してる訳じゃないし、パクリ作品だからどうしても三歩ぐらい劣るんだよな。

 それでも食べなれてないこの世界の住民からすれば相当美味しいらしいんだけど。

 オレとしてはどうしても、低次元な我慢して食べれるレベルであってマシというだけなんだよ…難しい問題なんだよな。


 いずれ腕のいい料理人にレシピを渡して作ってもらえるようにしたい。

 趣味程度で作るのはいいんだけど設備も技術も足りてないにもほどがあるからなぁ。



 まぁ、料理の話はいいとして、ひとつ重大なことを考えておこうと思う。

 あの事の全てにオレは関わったから。


 ──あの事とは、ベゼック教官が殺されたこと、ゴルチェラードという吸血鬼が生きていたことだ。

 この二つに関して、オレが持つ情報を冒険者学校、冒険者ギルド、領主クレハーロ辺境伯、ひいてはエイゲニア王国に伝えなくてはならないだろう。

 その情報を流すことによって、多大な影響が広く拡がっていくことは間違いない。

 教官のことは流石に国全土まで拡がるとは思えないが、奴は… 吸血鬼は個体数こそ少ないはずだったが一国を亡ぼしたとされるほどその戦闘力は高かったと聞いた。

 その後滅んだとされる吸血鬼が生きており、少なくともまだヴァンパイアクイーンが生きて…ん?


 この情報…確定では無いな。

 ゴルチェラードと接したオレから見ると奴は狂っていると言ってもいい。

 そんな狂っている奴が真実を話すのか?

 もしくは、何年前にヴァンパイアクイーンが存在していたかは知らないが、興奮した頭で時代を錯覚していたら?

 不確定条件が大きく絡んでしまっているこの情報は話すべき内容なのか?

 変に情報を提供して無用な混乱を齎していいのか?

 そもそも、オレの頭が可笑しいんじゃないかとでも言われたら?

 信じられない情報として扱われ、オレが疑われる可能性が高い。


 しかし、実際にベゼック教官は殺され亡くなってしまった。

 このことは学校にも、ギルドにも伝えなくちゃあならない。

 今、ベゼック教官に家族がいたかどうかは分からない。

 親族がいるのなら教官の無骨な剣はオレが責任を持って返しにいこう。

 オレが撃った聖光(ホーリー)の魔法は教官の体を欠片も残さずに滅してしまった。

 だからこの剣だけが教官だと判る所持品だと思う。

 あの時、ルーメンから受け取った魔力はかなり多く、追い詰められて焦っていたせいで完全に威力を間違えた。

 普通、初めて撃った魔法は基本的には威力がでか過ぎることを忘れてしまっていたんだ。


 教官の魂を奪ったのは吸血鬼ゴルチェラードだが、教官の体を奪ったのはオレだ。

 その責任はオレ自身が強く背負う必要がある。


 仕方ない、疑われるかもしれないが正直に説明しよう。

 ゴルチェラードが存在したという証明をする物品が何かあればよかったが…無い物ねだりをしても意味がない。


「──ガルゥシュ…」


「うぉっ!! ビビった! 感知をすり抜けてくるなよ、セント!」

 

 セントが突然横から声を掛けてきた。

 考えながら歩いていたオレも悪いのだが暗闇からスゥッと顔を浮かばせるセントも悪いと思う。

 普通に心臓が跳ね上がったんですけど?

 つーかどうやってオレの感知抜けてきてんだ。

 あれか、クラメたちを探すために範囲を拡げ過ぎてたか。

 感知って拡げれば拡げるほど細かいことに気が付かなくなるんだよな。


「…すまない。ソフィティアと、セーベ…いやテーベが()れてきているぞ」


「いや、いいんだけど。ん? テーベに代わったということアレか。アレ待ちだな。ソフィは…何でか解らないが」


 ほとんど表情を変えることなくセントが謝ってくるが別にいい。

 それよりもソフィとテーベが焦れているというのが、めんどくさい思いをしそうだ。


「ま、すぐ戻るよ。クラメとクラベは勝手に話すだろうし、オレも腹減ってるし。セントはクラメか?」


「いや…夜目が効くのは俺かお前くらいだからな…」


 なるほど。

 クラメでも呼びに来たのかと思ったがそういう理由か。


「分かった。すぐにでも戻ろう。わざわざ呼びに来てくれてありがとうセント」


「…あぁ。俺も楽しみにしているからな…」


 あ?

  あんにゃろテーベめ、もしかしてプリンのこと話したな。

 ま、いいけど。

 どうせ全員に食わせてやるつもりだったし。

 ただハードル上がってそうなのがなぁ…サプライズにもならん。

 主役が伝えたんなら仕方ない、か。


 しばらく歩いていると篝火か赤々と燃えているのが見えてきた。

 騒ぐ音はさっきから聞こえてきていたけど、酒盛りが既に始まっているのか「酒もってこーい!」の声が非常に多い。


 酒は前世ではイライラしたときには飲んでたけど、特別飲みたいと思うのは少なかったな。

 一人で飲んでてもつまらないんだよな。

 酔うのが早いし、記憶が飛ぶし、二日酔いは当たり前だしで疲れるんだ。

 高い酒はほとんど飲んだことないなぁ、そういえば。

 そりゃ誰がクソみたいなニートに高い金払って酒飲ませるんだって話だけどよ。


 今はこの世界でも成人じゃないし、どうにも度数の低い不味いエールばっかだろうけど、機会があれば飲んでもいいか。

 ギルドで受付やってたドワーフ族であるヨーデンさんもガブガブ飲んでたな。

 確か、あれはエールだったはず。


 そんなどうでもいいことを考えて広場に入ったオレはベロンベロンに酔ったリス族の大人たちを介抱する皆の姿を見る。



 ありゃあ…祭りっていうのかこれ。

 大半の大人がダウンしてるじゃねーか。

 祭りが始まってそんなに時間経ってないと思うんだが、もしかしてリス族って酒弱い?

 広場には酒の匂いがそこら中で漂ってるけど、空き樽になってるのは殆どない。

 すぐに酔うから量もそんなに飲めないのか。

 それでも呑んだくれはいっぱい生まれると。


「おっ、帰ってきたなガルゥシュ! ほら! 早く出せ早く早く!」


「やぁ、ようやく帰ってきたんだね。僕らも疲れたし、出してくれると助かるね。その美味しそうだったというヤツを、さ」


「ガルゥ…また作ったんだね! 私、楽しみだよっ!」


「あらぁ、まぁた何か作ったのぉ~? ガルゥちゃぁん」


「クン…確かに甘めの匂いが付いていますね! 苦めなのもありますが…嗅いだことのない匂い…」


「なっ! また心踊るもの作ったのかー!?」


「エミッタ! また、耳元で大声を…! しかし、やはり毒味と言うものは誰かがやらなくてはならないわけで…」


「…クレールも気になるなら気になると素直に言えばいいのに…少なくとも私は気になる…」


 テーベを筆頭にして、酒に飲まれた大人たちの介抱を止めてオレに近寄ってくる。

 そりゃ美味しいと聞いたものに飛び付く気持ちも分からんではないが…話相手が居なくなっても、うわ言のように話している酒に飲まれた大人たちが哀れで仕方ない。

 それにしても皆のキラキラとした目が胸に刺さる。

 いくら成人間際が多いと言えど前世の記憶を持つオレからしたら余りにも子どもだからな。


「分かった、分かったから。出すよ…よいしょ」


「「おおー!?」」


 キラキラが強まって目が見開かれる。

 まるで不可視の光線を注いでいるかのようだ。

 オレには眩しすぎて皆を直視出来ない。


 収納魔法から取り出した寸胴(ずんどう)プリンは軽い反発を返してくる。

 ちょうどいい柔らかさ、ちょうどいい乳白色だ。

 洗った木碗もついでに収納魔法で出して木のお玉で分けていく。さすがにリス族含めた全員の碗はないけどどうせ今は大半酔っているから後でいいだろう。


「どうせなら皆で一斉に食べよう。そっちの方がきっと美味しいだろうさ」


 すぐに食べれると思っていた皆は一瞬顔をしかめたが気を取り直して即座に行動に移ってくれる。

 いや、早く食べたいからかもしれないが…

 周りで興味深そうに見ていた酒を飲んでないリス族の皆に、ソフィが木の碗を一人ずつに渡していってくれる。

 木の碗を渡してもらったリス族の人たちは特待生が並べていく列に並ぶ。

 相当な人数がいるけど多分量は足りると思う。

 木のお玉で(すく)っているだけだからプッチンするヤツとは比べ物にならない形なのは容赦して欲しい。


 プリンをいれてあげた人たちは各々にオレに対し礼を言って知り合い同士でプリンについての考察を交えている。

 リス族の子どもは一人一人に目を合わせて味わうように言ってから入れてあげた。

 入れてもらった子はどんな子でも目を輝かせてオレに舌っ足らずだがお礼を言ってくれた。

 かわいくて頭を撫でたりしてしまったが、目を細めるくらいで怒るような子はいなかった。

 指に当たるリス耳はフワフワしててケモミミ好きなゼンではなくても いいな と思うような触り心地だった。

 癒し って感じそのものだった。

 プリンを貰いにくる列はなかなか途切れなかったが、酔いつぶれて寝ている人以外は渡った。


「さて、皆に渡ったかな? これはプリンっていう甘い食べ物で、なかなか食べれないだろうから味わって食べて下さいね~」


 皆、オレの声に耳を傾けているだろうが、早く食べたいのかスプーンを構えて口に運ぶ準備は万端だ。

 オレも自分の碗に自分の分をとってお玉を置く。


「それじゃあ…」


「それでは! 婿殿の作ってくれた“プリン”というものを感謝して食そうではないか! では頂くとしよう!」


「「「「いただきまーす!」」」」


 音頭を取ろうとしたのをコジベ村長に取られてしまった。

 酔いつぶれていたと思っていたが酒には強い方のようだ。顔は赤いけどな。

 なんにせよ、皆はしっかりといただきますを言ってスプーンでプリンを掬う。


 さて、感想は?

山の日、皆さん如何お過ごしだったでしょうか。

作者としては久方ぶりにゆっくりとした時間を過ごしました。

暑い日が続きますので皆様熱中症にはお気をつけください。

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