75 誓い
見えにくい夜闇を数メートル先の固い砂地を見ながら歩いていく。どうせ誰も歩いていないのだから目を瞑り感知に意識を向ける。
セーベを止めている間にクラベとクラメは結構離れたところまで行っていたようだ、感知を少し広くしたら二つ反応が出た。
近づいていくうちに話し声がボソボソと聴こえ始める。
えーと、なになに?
「なぁ、おめぇは、一体なんで俺についてくるんだ?」
「俺はあんたの性格に惚れただけだ。見習いたいほどだったんだよ」
聴こえてきたのはこんな会話だった。どうやらクラメがクラベの告白が素晴らしいと感じてついていっているようだ。
「なんだ、よくわからねぇ理由だな。まぁ、いい。おめぇ、名前は?」
「…クラメ。クラメ・ベーズだ」
「クラ、メ……似ているのか」
どこか納得したように思案するクラベ。
それにしても声をかけるタイミングを逃してしまった、なんと声をかけたらいいものか。
「そこに何かを感じた。同名じゃない、たった一文字の差、それがとても気になったんだ」
「ふん、たまたまだろ。そんなことが、どう気になったのか知らないが」
うっすらとクラメの言いたいことが分かる気がする。いわゆる親近感というやつだろう。名前が似ていたりすると仲良くなるのが早いとかな。
それに二人とも客観的に見ると結構、性格似ているような。
「あんたはいつから彼女を守ろうと?」
「…物心のついたときから、守っているつもりだ…その為の努力を欠かした覚えはない」
「かっけぇな…俺にはそんなことは出来ない、叱られてばっかだ。あのときも剣を振れたのは一回…」
天を仰ぐように星を見つめるクラメは静かに、クラベに対する感嘆の息をついた。
クラメが言っているのは忘れもしない昨日の出来事だろう。恐らくキマイラの時の事だ。勿論守る対象はクレールだろう。
それでも腰の抜けたクレールを背に B+ の凶悪な容姿の幻獣に剣を振るったのだ。称賛を贈るべきだろう。
「なんの事をいっているのか解らないが、おめぇにも守るべき相手がいるということか。それはとても良いことだ。例え敵をうち滅ぼせる力がなくとも、相手が自分を見ていなくても、守る人がいるだけで力が湧いてくる。そうだろう?」
なんとなくクラベが言いたいことが分かるような気がする。
オレも吸血鬼ゴルチェラードが現れたとき、勝てないかもしれない中でソフィや皆に危害が及ばないようにしていた。もし、オレ一人で守るべき友も愛する人もいなければオレはゴルチェラードに屈していたかもしれない。
そのとおりだ。という呟きを小さく口にするクラメ。
クレールが後ろにいたからこそ父の形見であるクラティータという半月刀を振れたのだろう。
「それじゃあ、しっかりと意思を示さなくちゃならない。相手にもしかしたら守ってくれるかもしれない存在がいるということを。この身を犠牲にしてアイツを生かす、そのために今できる努力は怠っちゃダメなんだよ」
なんて男らしくしっかりと考えられた思考だと思った。先ほどの直情的な様子はこんな考えを根幹にして生まれたものだった。
「なるほど…なぁ、あんた…いや、兄貴!! 頼む! 俺に男気を教えてくれないか!?」
なにいってんだ? クラメのヤツは。確かに惚れるような男気ではあるが…
男気を教わるってすぐに終わるようなもんなのか?
明日の朝には馬車に乗るためにあの森に戻らないといけないんだぞ?
「俺の事をなんと呼ぶかは勝手にすればいい。にしても、男気か…べつにそんな、たいしたもんじゃ無かろうに」
「兄貴が普段考えていることでいいんです。そうだ、セーベさんのことでも教えてください。兄貴から見た彼女の事を」
どうやら二人はそのまま話を続けていくようだ。
オレはどうにも話に入るタイミングを逃してしまったし、別にクラベも凹んでいる訳ではなさそうだ。祭り会場の広場に戻っておこう。
さすがにもう事件も起こらないだろう。フラグじゃないぞ!?
う~ん、ちょっとだけでも聞いて帰ろっかな…盗み聞きになるのは否めないんだけど。オレだってソフィを守るための心意気の参考にしたいし。
「セーベは小さいときから毛が真っ白だったんだ。更に小柄なリス族の中でもかなり小さかった。だからセーベはあらゆる意味で目立った。子どものイタズラ感情が働くほどに。俺もそんな子どもの一人だった。だが…」
セーベのことを話すクラベの目には影が差す。思い出したくない自分の行為があったのだろう。
クラメは頷きを返すのみでクラベの話を遮る気はない。
「だが…ある日セーベが足を血まみれにして村長に抱えられて里に帰ってくるのを見た。あの時、俺の中で何かが大きく変わった。“守らねば”という気持ちが俺の心を覆い尽くしたんだ。そして…強くなろうと誓った。あの日の誓いを破ることは俺の心が許さない。男気を得たいと言うのなら、守るべき相手をしっかりと見ろ。そして、誓え! それがお前の力を呼び起こすだろう」
クラベの話は実にわかりやすい話だ。魔法を使うときのように力を増大させるのは心の想起力だ。クラベはセーベを心の起爆剤にした。
オレはどこか心の隅で強くなった、最強になったと思っていたかもしれない。甘すぎたんだ。一歩間違っていたらオレは既にこの世界にはいないだろう。
まだまだやること、試すことは沢山ある。護るために強くなろう、彼女を泣かせないように。
そう、誓ったオレは静かにその場を立ち去った。
オレが去った後も男二人の男談義は熱を帯びて続いていく。
篝火よりも尚、二人の誓いは燃え盛る。守るべき者のために。
クラベ君はセーベの二つ年上です。セーベに関することでは直情的です。




