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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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73 残滓

遅れてしまい大変申し訳ありません。

 

 寝入ってしまったリテラがまた起きてくるには時間がかかるだろうし、門出祭の準備も大方終わったと思う。


『さぁーて、っと』


 あっ、日本語のまんま…

 久しぶりの日本語の発音に懐かしみがありすぎてついついリテラと話してたそのまま使ってしまっていた。


 今のオレはガルゥシュ・テレイゲルであり、この世界の住人なのだ。

 そうであるならば日本語を使うことは控えたほうがいい。喉の使い方が異なるのか、少し痛むしな。




 それにしても樹の祝福がオレにもたらした情報を鵜呑みにするとすれば…あり得ないほど、この世界は面倒くさい。


 その原因はスキルと、魔力だな。


 まず魔力という概念だが…あー説明出来る気がしねぇ。オレって説明下手らしいから…

 とにかく一言でいうなら魔力とは…二酸化炭素のようなものだ。

 学が無かったからハッキリと説明できる訳じゃないが、濃度が関係したりもする。空気中に混じっていて、体内に存在するもの。

 結局地球には存在しないことは間違いない。

 何せこの魔力っていうのは神が死んだ残滓だから。


 樹の祝福で伝えられた情報には不可解な部分もあった。だがその部分はリテラが断言した“神はいる”という一言で大半は埋められる。


 この世界の信仰の対象は絶対神カヂャル、繁栄の女神ファワセの夫婦信仰だ。

 その他の神は知らない。ということは、あれだ。この二神は王国だけの可能性が高い。地球のように場所が変われば信仰の対象も変わるだろう。


 過去に死んだ神は伝承として伝わっていないのだろうか。とすればオレが唯一真実を知っていることになる。


 かい摘んで言うとするなら、死んだときに産み出された神格の欠片が下界で汚され、膨大な魔力として世界に散った。


 その魔力が人の体に吸い込まれて何年か経って魔法として行使出来るようになった。

 それまで繁栄していた科学のようなものに原初の魔法は圧倒的な力を示す。 …示してしまう。

 そこから、その力を忌避した科学者たちは魔力を封じる装置を作る。全世界に向けて作動させる…未完成のままで。


 封じた魔力は人の体内に溜まり魔力暴発を起こした。仮にも神の残滓。耐性のない人にとっては強力な毒。

 すぐにでも装置を停止させなければならなかった…


 しかし魔力を畏れに畏れた科学者たちが魔力暴走を起こし…死ぬ。

 装置の最も近くにいた停止方法を知る科学者たちが…

 近くにいたということは装置の力が強く効くということ。より強く防がれた魔力は行き場を失い圧縮し、破裂した。


 装置は動き続ける…悪意も何も持たず。


 そして文明が崩壊し、装置から最も遠き場所の「ヒト」がスキルという概念を見いだす魔法を会得する。


 かつての文明では発見できなかった個々人の才能の形、魂の形。

 魂の形が安定している者、魔力を多く持つ者、そういう者たちが魂を探る力を持つ。

 それも伝えられていたのだろうが…人というのは優れたものを自分だけのものにしようとするから、どんどん廃れて本人しか知らないようになっていく。




 オレは、父親のセドルが魔法使いとして生計をたてるほどの実力者でなかなかの魔力量を誇っていたこともあって、精子として生まれたオレにも魔力があったのだと思う。

 だから【鑑定】のスキルを習得できた。魔力が多かったから。


 リテラはおそらく鑑定系のスキルを持っているはずだ。ロクシュタリアの魔力が分け与えられたらしいからな。あれだけの巨樹なんだ含んでいる魔力量も膨大だろう。


 ま、整理するとこんな感じかな?

 もーしかしたら、説明するときが来るかも? 他の転生者がいるかもしれないし。なーんて!

 いたらまたリテラみたいに何かされそうだからいい人以外会いたくないなぁ…

 日本人でも嫌な奴はいるしなぁ…前世で散々経験した。


 ネトゲ友達にはいい奴は多かったような気がする。そんなやつらとこんな世界で会ってみたいような会いたくないような…

 ただ純粋にネトゲがしたいだけか。


 といっても~オレの脳がインドア派なだけであって、どうも体はアウトドア派らしい。さっきから門出祭の興奮からか体が震えている。


「ハイハイ、行きますかー」


 胸を軽く叩いて長い思考から頭を戻す。セーベの部屋にずっと居るわけにもいかなかったからリテラを寝かせてからリビングに戻ってきてたオレだけど、携行食に貪りついていたテーベは家にはいなかった。

 おそらくセーベに戻って門出祭にでも行ったのだろう。もしくはお花を摘みに行ったかだな。


「そろそろ日も暮れるな。いい匂いも漂ってきたし、祭りの開催はもうすぐだな」


 チラッとリビングについている木窓から外を見る。遠くの方で朱色の空が顔を見せていた。風が運んできた緑の香りと肉の焼ける芳ばしい香りは否応なくオレの鼻腔をくすぐる。


「祭りが始まるぞぉー!」


 リス族の男の号令で村のあちこちに篝火の準備がされる。


 早くも始まるようだ。トラブルに見舞われたのに準備はすぐに整ったらしい。


 リビングを出て玄関の扉を開く。見上げた空は雲ひとつない穏やかな空だった。



 いつまでも時間は待ってくれない。時は刻々と刻まれるものだ。

 地球だろうと異世界だろうと引力のあるかぎり時間の歩みは変わらない。その事を脳裏に刻み込む必要がある。

4章が長すぎるので少し分けるかもしれません。ご了承ください。


といいつつも分け所が解らないんですが…

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