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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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64 次

 

「リテラは、何処にいる」


 若干、感情の抜けた声だとうっすらと自覚した。

 オレは憎んでいるのかも知れない。絶望に落とし込んだリテラを。

 だが、と。ふと思う。リテラは何故オレを殺さなかったのか。

 敵なのか、判断に迷う。

 もしかすると絶望に対し耐性を持たせることが目的だったのではないか とそう思うのだ。

 そう考えると繋がる気がする。

 もし、敵対するのであれば殺さずとも何か縛るなりするはずだ。それか自分の能力に絶対的な自信を持っていたか だ。

 何はともあれオレは目覚めた。もうこれ以上油断もしないし、同じ技にかかることも無いだろう。

 とにかく全てを理解するためにはリテラと話さなきゃならないだろう。


「あ、あぁ。確か向こうに……!?」


 驚いた様子のゼン。その方向を魔力感知にて調べると確かに誰かはいる。

 しかし、異常に感じられる魔力がとても少ない。

 ましてや、リテラだと言うのなら、あの尋常ではないプレッシャーが感じられないのはおかしい。


「どうしたんだ、ゼン。リテラは?」

「…倒れている、意識がないみたいだ」


 一応口頭で確認したが向こうにいるのはリテラで間違いないらしい。

 けれどもその状況に問題があった。

 ゼン曰く意識がない。どうしたというのか。


「私たちが戦った時は普通だったわ。戦闘後も彼女と会話したのに…」


 ピタシーナちゃんの報告で彼らがリテラと戦闘を行ったことを知った。戦闘の細かいことは後で訊くとして。

 彼らの言によると、時間にしておおよそ五分程前にはリテラと立って会話した と。

 オレを目覚めさせる方法について話したということらしい。


「ちょっと退いてくれ、確認したい」


 意識が今のところないのなら、此方にとっては都合がいい。

 縛り上げることもできるし、監禁とまではいかないが監視することは容易い。

 ゼンはオレの言葉に従って道を開けてくれる。


 奥に見えたのはリテラ本人で間違いないだろう。

 小柄なリス族そのもの。薄茶色の髪にロイヤルミルクティーのような色のフサッとした尻尾が力なく垂れている。

 頬を軽く叩いたりしたが確かに意識がある様子は見受けられない。


「うん、確かに。意識はない」


 意識はないが、生きているのは間違いない。

 一応手だけしばらせてもらおうか迷うな。いや、そこまでしなくてもいいか。油断さえしなければいい。


「ガルゥシュ、一度広場に戻らないか?リテラが皆に何かしているかもしれないし」

「ん?あぁそうだな。

 いくらなんでも全員に危害を加えてる訳じゃない と信じたいけどな」


 そうなのだ。もし、リテラが誰彼構わず能力を使っていたら目も当てられない事態になってしまう。

 ただ眠らせているだけならいいのだが、オレのように絶望を味あわされたなら……廃人や狂人が生まれてしまう。

 オレの場合はアンがいたから良かった。いなかったと思うとゾッとする。


「門出祭出来るかしらぁ…」


 うーん、それもあったな。

 主役であるセーベも眠らされてるだろうな。

 今、ロクシュの里はほとんど物音が聴こえないのだ。風の音や木々の騒めきだけだ。

 オレの聴覚感知Lv5によって強化された耳には人の反応が弱々しくしか聞き取れない。

 多分全員眠らされている。邪魔になるという理由で。

 起こせば門出祭くらい出来るだろう。


「今は昼過ぎだし時間的にはギリギリ開催できるだろ」

「そうねぇ、急ぎましょ」


 オレはリテラを担ぎ上げて村の広場に向かう。

 ゼンたちも狩りの獲物が入った袋を持ってオレに続く。

 広場に着くまでに訊けることを訊いておくか。

 一番気になってるのは……


「ところでお前たちのオーラは何?」


 この質問だ。

 何か見覚えのある可視光をゼンたち4人が纏っているのだ。

 それのお陰なのかどうにも全員のステータスが上がっている。鑑定したから間違いない。およそ1.5倍の上昇だ。

 クラメが首を捻ってから頭を掻いた。どうしたんだ?


「あー、これ俺らにもわかんねぇんだ」

「……突然の発光…」

「そう、急に目の前から強烈な光が来たのよ。なんだったのかしらぁ、あの光」

 

 発光?それが何の関係が……


「その光が収まったときに僕たちはこの気を纏ってたんだ。

 そして、何故か君に危険が迫っていることを感じたんだよ」


 ん?なんでオレの危険が関係する?


 《光精霊:ルーメンによる援助行為であると推測します》


 ルーメン?アイツがやってくれたのか。

 マジか、そんなことが出来るとは、ただのバカじゃなかったのか。少し、いや、かなり見直した。

 感謝しないといけないな。わざわざオレの危険も知らせてくれたようだし。

 それにしても姿が見えないと感謝されることもあまり無さそうだ。それはいくらルーメンでも虚しいだろう。


「なるほど。それはこの子のお陰だろう」


 オレはそう言って幻影魔法によるルーメンを彼らに見せた。

 少しでもイメージを良くするようにキラキラした感じを付加する。

 彼らは突然オレの手から現れた小さな女の子に相当驚いているようだ。


「えっ?も、もしかして君が話していた光の精霊というやつかい?」

「そうだよ、彼女に感謝しないとな。まぁこれは幻影だけど」


 言い終わると同時に手を払って幻影を消す。


「で、ルーメンはどこだ?おまえたちには付いてきてないみたいだけど?」

「そんなこと見えてない俺らが判るわけないだろ?」


 彼らに問うた質問は間髪入れずにクラメに何いってんだ的な答えを返された。

 それもそうか。見えないんだから判るわきゃない。


「そうだった、忘れてた」


 ヤレヤレというふうにため息をつかれる。

 しゃあねぇじゃーん、オレはみえるんだもんよー。


 さて少し真面目になると、オーラに関して疑問がある。

 その疑問とはルーメンの内包するエネルギー上限より大きい力がゼンたちのオーラになってるんじゃね?ってことだ。

 なぜそう思うのかというと、こないだ…というか昨日吸血鬼ゴルチェラードに対して放った極光魔法聖光(ホーリー)が関係する。

 この魔法はルーメンの力を貸してもらって放ったのだが、これがだいたいルーメンのエネルギーの7割ぐらいだと思うのだ。

 これを参考にするとあまりにゼンたちが纏っているエネルギー量がでかすぎる と感じたわけだ。


 《光精霊ルーメンのエネルギーが限界を越え、譲渡されていることを確認しました。

 精霊の存在消滅が近づいています》


 は?なんだって?アン、今なんつった!


 《精霊の存在値が減少し、存在維持に回すエネルギー不足により消滅することが予測されます》


 うそ…だろ?本当ならヤバイ!

 ルーメンが消えちまうッ!



 刻々と刻まれる時は無情にも過ぎ去っていく。

 人の焦りを気にすることなく──

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