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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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63 目覚め

 

 果てしない大空と濃い緑の葉の下で大声が聴こえてくる。


「ガルゥシュ!!」

「目を覚ましてくれよ!」


 これは今のオレの名前?オレの名前を叫んでいるのか。

 コイツらは?知ってるぞ?


 僅かな光として認識されたそれは夢。


 夢の中の夢。暗黒から突然産まれてきた綺麗な光。

 その光によって暗黒が急速に掻き消されていった。


 気分と言うものが夢にあるなら今のオレの気分は一体何なのだろう。

 たのしい?おもしろい?かなしい?

 違う。きっとこれは──


 うれしい! だ。


 そうだコイツらは、オレの大事な大事な仲間たちだ!

 ゼンエス、クラメ、ピタシーナ、フー。この一年間で前世も含めて最も気心の知れた奴ら。


 早く皆と会話したい。くだらないこと、おもしろいこと、たのしいこと、どんなことでもいい。皆と話したい。


 笑い合いたいんだ!



 ‘そう、それが欲だ。お前の、いや、オレの欲望’


 ッ!!そうか、これがオレの欲望か。

 なんというか……安い欲だな…まぁそれがオレという人間か。


 《マスター、お目覚めですか》


 あ、アンだ。なんつーか、久しぶり?

 なぁ、オレってどうなってたの?わかる?


 《はい、起きたら第一声に「オレがいないとダメみたいだな」と言ってください》


 は?えっ?ちょちょっ待って!!どういうことだよ!?

 何が起きてたんだってオレ訊いたよな?

 どうしたんだ!アン!?


 《……すみません、言ってもらいたかったんです》


 お、おう。あれか、冗談ですか。まぁいいけど。

 えーと軽くでいい説明してくれ。


 《マスターが最後に会ったリテラ・リースタによってスキルの干渉を受け、阻害を試しましたが含まれている魂の量で劣っていたため接続保全に力をまわしました》


 え?魂?接続?なんのこっちゃ。

 でもそうか、やっぱりリテラさんのせいか。スキルで精神干渉みたいなことをされたと。


 《はい、説明いたします。スキルとは魂の持つ力を具現化、または能力化したものです。

 接続とは通常、理性と呼ばれるものである上層意識と感情と呼ばれる深層意識が繋がっている回線のことです。この接続が途切れると理性と感情のどちらかが壊れるか両方壊れます。

 要するに自我が保てなくなります》


 ……こわっ!けど今は大丈夫なんだよな!?アンが保全に力を尽くしたんだろ?


 《はい。出来る限りの力を尽くしました。今は浅い夢の中にいると推測します》


 そうか、良かった。ありがとうアン。お前がいてくれて本当に良かった。


 《マスターの役に立つことが私の役割ですから… 》


 あ、照れてるな?いつもより声が少し高いぞ?ま、これからもよろしくな、アン。


 んじゃ!起きるか!


 《分かってますよね?第一声は─》


 あー!もう!わかったよ!言えばいいんだろ!?


 ◇◆


 若々しい顔に沈痛な面持ちを浮かべ少年たちは黙ってしまっていた。

 いくら声をかけ続けてもピクリとも反応してくれないのだ。心を折られてしまっていた。

 いかに奇跡を信じていると言っても、絶望的であると思ってしまったら声がでない。奇跡は起きないのか と思ってしまう。



 しかし、奇跡は起こされた。犠牲によって。


 男としては長い睫毛がふるふると震えだす。

 自然の風ではない、動的な震え。


「……!!ガルゥシュ!」


 最初に気づいたのはゼンエスであった。


「ガルゥシュ!起きたのか!?」

「ガルゥちゃん!」

「!…ガルゥシュ……」


 続々と声をかける。

 それがまるでしなくてはならない行為かのように。


「……オレがいないとダメ……みたいだな!」


 肺の空気を押し出すように力強く、彼らの目を見てそう言い放つ。


「……」

「いて、いて、悪かったって……」


 無言で殴られる。痛みはない、たが言わなくてはならない気がした。

 自分の服に染み込んでいく滴を見て、オレはコイツらにかなり心配かけたことをようやく理解した。

 申し訳ない。


「ごめんな。んで、ありがとう。声、聴こえたぜ」


 ゆっくりと体を起こす。それにともない皆が立ち上がる。


 スッとオレの眼前に差し出される手。ゼンの手。

 なんだか気恥ずかしくて、苦笑いしてしまう。

 これまで手を差しのべてくれるような友達には出会えなかったから。

 しっかりと離さないように手を握る。


 これまたオレの一生で価値ある瞬間だ。きっと忘れることは無いだろう。

 それだけでも生まれ変わって良かった。


 だけどやらなくてはならないことが残ってる。

 この騒動の原因をどうにかしなくてはならない。


 今は昼過ぎか。門出祭は夕方からだから問題はない。

 すべてを終わらせよう。

 残念ながらオレの中に甘えは無くなった。


「リテラは、何処にいる」


 オレたちはまだ知らない。

 オレの絶望が計画されていたことだと。

 この時点、この場所で全てのことを理解しているのは神樹ロクシュタリアのみであった。

活動報告に『二度ミル』短編出したんでそっちも読んでちょ。いわゆる女子トークです。



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