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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第四章 因果の通り夢
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62 無意識の深淵

 心の底が冷えあがる、冷たくて寂しい意識の深奥。


 オレはそこに独りぼっちだった。膝を抱え少しでも心を暖めようとする。

 暗く辛い場所だ。

 独りぼっちのオレの心は絶望にまみれ、上層意識が深く深く暗黒に包まれていることが解る。


 なんたってその暗黒に閉じ込められている、いや閉じこもっているオレが原因で身体を動かす役割の上層意識はピクリとも動けない。


 正直疲れた、二度も人生を生きたんだ、十分だろ?

 二度目の人生はかなり楽しかったけどな。


 ごめんな、皆。

 外の事は上層意識からの受け売りだけど深層意識のオレも楽しめたからさ……


 おっと、悲しくなっちまった。こんなんじゃ感情を司るオレらしくもない。

 ひょっとしたらガルゥシュとしてのオレの体は泣いちゃってるかもな。どうなってるかはオレから確認出来ねぇし。


 《マスターは独りぼっちではありません》


 あ、ぁ アンか、わたしがいるってか?んなこと言ったってよ、オレの……あれを分割してんだ。一人みてぇなもんじゃねぇか?


 《悲しまないでください、私に影響が掛かります》


 チッ、会話が遅れてやがる。ラグってのはマジで嫌いだぜ、上層意識との回線が途切れてんのか?

 アンは上層意識に埋め込められたスキルだしな…、感情のオレと行動のオレが離れかけてたらそうなるか。


 《正確には世界回線を経由、世界中に繋がっていると言っても過言ではありません》


 それは関係あんのか?繋がってるのはアンだけじゃねぇか、そもそもそういうことじゃねぇ。


 《申し訳ありません、外部により接続が制限されマスターとの会話が遅れています》


 もういいよ、勝手にやってくれ。アンの利益を受けてるのは上層意識の方だしな。


 ま、気は紛れたし良しとするが…上層意識が起きないとガルゥシュとしては存在出来なくなるぞ。深層と上層の回線が切れてしまったら戻す手段はほとんど無い。内側から起こすのは無理があるしな。せめて外側から何かアクションが起こればいいんだが…


 《上層意識の波が低迷してきています、早急的に…… マスター! 外部からの呼び掛けが実施されています!》


 お、遂に外からのアクションが起きたか……さてと、深層意識のオレも何かするか。


 あ~、アン? 外側が反応したら教えてくれ、オレは今から無意識の領域に潜っからよ。あ、でも潜ってたら返事は無理だな。

 まぁ優秀なアンさんだ、頼んだら適当に判断してくれるだろ。


 じゃ、行ってくるわ。あとヨロシク。


 《承知致しました。御武運を、マスター》


 おっ? 普通に返事してる? いや、予測で答えてくれたのか。相変わらず便利と言うか凄いと言うか…


 じゃ、深層意識よりさらに深い領域…

 オレが勝手に名付けた領域、深淵領域に向かう。


 暗闇に塗りつぶされた深層意識領域の下と言ったらいいのか 隅と言ったらいいのか分からないが、そこにこの暗闇より更に黒くドロリとしたナニカが覗いている。


 そこが間違いなく深淵領域。意識も感情も全てが闇に引き込まれる無意識の領域、神が如き絶大的な力を持つものが定めた人間の本質。


 オレはため息をひとつ吐き、ゆっくりとその深淵領域に足を踏み入れた。


 直後に襲う恐怖、欲望、妬み(そね)み、暴虐。

 人間の本質はこれである、と断定されるような痛み。

 正直奥へと進んで行きたくはない。だが絶望を払拭するためには欲を出し人としての意識を賦活(ふかつ)させるのが良いだろう。


 オレは様々な痛みを堪えながらズブズブと暗黒に向かって体を沈み込ませていった。


 頭の先まで泥闇に沈んだとき、そこで意識は刈り取られ言葉が消えた。


 ◇◆


「──というわけ。つまり彼を起こすには名前を呼び続け、感情を動かさなきゃいけない。それ以外の方法は彼にとって危険ってことよ」


 幼い容姿に理知的な瞳を持ち、障壁を張っていた時のおどけたような口調はもう出てこない。


 リテラは彼らにはそう言ったものの呼び掛けだけで意識を起こすことは出来ないことは分かっていた。彼らに嘘をついたのだ。

 実際はガルゥシュの特殊スキルであるアンこと【解答解説】が深層意識に伝えようとしていたため無駄という訳でもなかったが…


 けれどリテラに出来ることは少ない、何故ならリテラ本人が己の力でここまでやったことはないからだ。これまでの経験で死なないとは思えるが確信は持てない。


 リテラの力、固有スキルは【現実逃避】という力。

【現実逃避】は一言で言うと人に夢を見せる力。

 現実逃避は人によって方法と行為が変わる、そして夢というのは人によって千差万別であるから効率がいい。

 リテラの固有スキルは強引に現実逃避させるということだ。


 その力でガルゥシュに自己嫌悪による別世界への離脱という現実逃避をさせた。

 それが一度生まれ変わったものには最もよく効くだろうと思ったのだ。

 他のリス族や特待生の女子たちには被害が及ばないように、そして邪魔になるから楽しい夢を見せている。


 先ほども言った通り人によって千差万別であるため術者であるリテラ本人でさえどのような夢を見ているのかは想像することしかできない。


 固有スキルがこの【現実逃避】になったのは前世で彼女が毎日無意識にそう想像しそのように行動していたからである。

 言わば彼女が最も得意としていたところだったということだ。


 更にリテラが張っていた障壁は特殊スキルである、【心の壁】。

 その名の通り他者との間に壁を張る。そのため信頼している者には意味をなさないというもの。

 未成年の時に転生した彼女の魂は少し不安定だったために不完全な効果を及ぼしているのだ。


 前世の辛い想い出が魂に少し傷をつけて不安定になってしまった。

 その想い出が現在の力になっているというのは、なんと皮肉な運命であろうか。



 ゼンエスたちがガルゥシュに近寄って様々な言葉を掛け始めたとき、リテラはガルゥシュの前世を想像した。恐らく彼も辛い想い出が生まれ変わりを望ませたのだろう、と。


 リテラの理性的な瞳の瞳孔が少しずつ細まり、横たわるガルゥシュと声を掛け続ける少年たちを眺めた。


 慈愛が混じった羨望の眼差しで……

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