60 閃光
決着は…
ついていなかった。
リテラに当たる直前、何かにぶつかったように弾かれ、その衝撃で轟音と爆風が起こったのだ。
粉塵が晴れた先にはリテラの芝居がかったような驚いた顔と砂で薄汚れてしまったガルゥシュがいた。
「およよー、急に槍を投げてくるなんて躾がなってないなぁー。親の顔が見てみたい~、なんてね?」
まるで自分には何の危害もなかったように余裕ぶった口調を変えない。
「……」
槍を投擲したあとゆっくりと体を起こしたゼンエスはギリッというほどの歯ぎしりを出した。顔は恐ろしいほどの無表情、垂れた前髪が風に揺れた。
「おい!テメェ!ガルゥシュに何しやがったんだ!!」
ゼンエスの代わりのように声を荒げてクラメがリテラに問う。
「あ~あ~そんなに怒んないでよ、別に悪いことしてないじゃん。ちょっと絶望させてやっただけじゃん?」
自らに責は無い、何も悪くない。そう考えているリテラに今、罪悪感は微塵も無い。むしろ訊ねるように首をかしげる。
「…コイツ…」
「…この娘」
リテラの思考に対する理解が全く出来なかった二人は渋面を作り、リテラをねめつけた。
「あっ!そうだわ!自己紹介がまだだったわね?私はリテラ、リテラ・リースタ。よろしくねぇーん?」
手を顔の真横で軽く叩き合わせ思い出したように自己紹介をし、相変わらず人をバカにしたように薄い笑みを浮かべる。
「あ~あと、あんたにも言ってるからね?ちゃんと聞いてた?」
突然、リテラはそう言った。
その刹那、リテラの周囲に半透明の壁が煌めき、カヂィンという金属音が重なって響く。
「…」
吐いた息が風に消える。それとともにセント・フーもロクシュタリアの樹の大きな影に隠れて消える。
「はぁー、あ~思春期かい?そうかそうか、思春期なら仕方ないかぁー。セーベもそうだった……」
障壁を張っている余裕からか、緊張感もなく過去を振り返り始める。
「よそ見してんじゃねぇ…ぞ!」
土が抉られるほどの踏み込みでクラメ・ベーズの体が黄色の帯を引きながら加速する。
数秒でリテラまで接近し、クラメの父の形見である愛刀《クラティータ》による下段からの斬り込みをリテラ本体に当てようとする。
しかし、やはりと言うべきか障壁に阻まれ、半透明の輝きが広がる。
「くそがっ!」
思わず苛立ちが口を衝いて出る。
「ん?あらあら、ダメよ。男の子は女の子に対して紳士でいなきゃね」
場違いのような言葉を言い、さりげなく自分を女の子とアピールする。
「…じゃあ!オカマなら手をあげてもいいわよねッ!」
いつの間にかクラメに追い付いていたピタシーナは筋骨隆々な腕を振り上げ、強く握った拳を障壁に叩き込んだ。
無論、また薄き輝きが壁として空気中に浮かび上がる。
「うぇー?何その理屈~セコイんですけど~」
やけに語尾を伸ばし、わざわざ指をさして挑発するように言う。
「…退いてくれ」
突然、低く重い声がその場にいる全員の耳に鮮明に届く。ピタシーナが思わず振り返ると、投擲した槍を回収し右手にダラリとぶら下げるゼンエスがチラリとガルゥシュを見た後リテラの眼をぼんやりと見つめていた。
「え、ぇなになに…ちょっと恐いからやめてくんない?」
感情が抜け落ちたような暗い瞳がリテラに僅かながらも焦燥感を募らせる。
「すぐ…終わる…」
ぶら下げていた《ルーベンス》を最小限の動きで右手を顔の高さに左手を腰ほどの高さに下げて構える。
刹那、ロクシュタリアの影が移動し《ルーベンス》の槍先に太陽光が強烈に反射し、閃光が迸った。
次回予告
リテラの障壁に阻まれガルゥシュを救えないクラメたち。
無自覚の怒りに衝き動かされるゼンエスは一撃の閃光を繰り出した。障壁を穿つために。
次回 61 才能を欲したもの




