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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第四章 因果の通り夢
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59 邂逅《かいこう》

 

 本能が求める…これはスキルでも何でもない、ただ純粋に心が欲している。熱を、息を、鼓動(こどう)を…


 体よ動けと心が命じる。だが、反応を起こせない、(かすみ)のように意識を掴むことが出来ない。



『お前は幸せか』そう()かれたのは誰によるもので何時(いつ)だったか。その記憶の声が幾度(いくど)も幾度も脳を染める──その後に続くものを思い出すときはまだ訪れない。


 ☆☆


「これは…」


 息を飲む音が重なり、薄黄色の気のようなものが体を(まと)っている。


「なぁ、この体の気みたいなヤツ…何だろうな、すげぇ暖けぇんだが…」

「それだけじゃないわね、力が溢れてくるみたいだわぁ…それと…」


 ぼんやりと己の体の確認を済ませた者たちはようやくはっきりとした言葉を組み()わした。


「…ガルゥが大変だ…助けないと…」

「……急ごう」


 この力を受け取った理由を漠然(ばくぜん)ながらも理解した彼らは胸に意思の火を(とも)(うなず)き合った後、全速力でロクシュの里に向かって走り始めた。


 ☆☆


「何か来てるわね…」


 少年を見下しながら切り(かぶ)に腰掛けたリス族の巫女リテラは不意に鼻をひくつかせそう(つぶや)く。


 小さな右手を(ほお)から口元に滑らせ、ため息をひとつ()く、その姿は幼い容姿に到底(とうてい)似つかない優美なものだった。


 ☆☆


「おい!門番はいねぇのか!開けてくれ!」

 

 ロクシュの里の門前についたが肝心(かんじん)の門番がいない。里の門はキッチリと閉じている。金髪曲刀の少年クラメ・ベーズはどうしようもなく声を(あら)げる。


「…どうしようか…飛び越えるには高すぎる」


 冷静に現状を思考するゼンエス・ナ・テヨメルは荷物を(かか)えながら疾走(しっそう)したにしては息がきれていないのはこの(あふ)れ出る光のお陰だろうと頭の片隅で考える。数分数秒を争う現在(いま)、息がきれないのはとてもありがたいと感じながら。


「……壊そう」


 ただ一言ボソリと(つぶや)くようにして長く垂れた前髪で目を隠した存在の薄い少年セント・フーはそう言った。


「……ワタシがやるわ」


 彼らの中でも飛び抜けて身長が高くガッチリとした男性…は門に近寄り(こぶし)(にぎ)りしめ力をためるように腰を落とした。


 その直後、爆音と砂煙が(あた)りを包む。


 四人は縮地(しゅくち)の速度と見間違うほどの速さで意識と無意識の闇に(おちい)っている少年ガルゥシュ・テレイゲルのもとへと走った。

 彼らはより気配の強い方へと足を向ける。


「…フフフ、いらっしゃ~い」


 辿(たど)り着いた先には幼い容姿に妖艶(ようえん)な笑みを貼り付かせ、ヒラヒラと手を振るリス族の巫女リテラがただ一人(たたず)んでいた。

 いや、リテラの横に転がされている少年がいた。うずくまって頭を強く押さえている。


「…お前が!」


 先程(さきほど)まで冷静だったゼンエスはこの光景を見た瞬間に心に(ほのお)(とも)るように激昂(げっこう)した。


 彼我(ひが)の距離は一瞬で詰めるには遠すぎる、そして何よりリテラから発せられるプレッシャーがあの光の力無しでは耐えられないであろうことを直感で悟る。


 そう考えた刹那(せつな)、既にゼンエスの体は行動を起こした。


 自らの愛槍(あいそう)《ルーベンス》を振りかぶって投擲(とうてき)したのだ。


 《ルーベンス》はリテラに向かって急激なスピードで飛んでいった。


 通常なら反応出来ない速度…避けられない攻撃によって一回で終わる。


 轟音(ごうおん)…そしてロクシュタリアの樹の葉が大きく揺れるほどの爆風。


 決着は…


次回予告


(つい)邂逅(かいこう)したゼンエスたちとリテラ。

轟音と暴風が起こるなかでリテラは…

ゼンエスたちはガルゥシュを救えることが出来るのか…


次回…60 閃光

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