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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第四章 因果の通り夢
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57 闇に芽吹くは…

視点が色々と変わります。ご了承ください。


 手が指先から次々と木片に変わっていく…


 ─からだのふるえがとまらない


 ──あたまがいたい


 ───いきるいみが──わ か ら な い──



 意識が混濁し、あるものないものがごちゃごちゃに現れては消える。もはや取り戻すことが叶わないかのようにただ手を伸ばそうとする。


『…あ、………あ…ぁ』


 意味のない呻き声が微かに空気を震わせる。

 既に景色は真っ黒な暗闇だけが広がり、視覚も聴覚も─心さえ何の働きも起こさない。これが現実かどうかも知覚することは出来なかった。


 ただただ、言葉にすることの出来ない孤独感だけが胸中(きょうちゅう)を吹き荒ぶ。


 己は何か、それすら考えることを無くした少年は永劫続くかのような闇へと意識を落とした──


 不意に、少年の意識とは別離したところ、崩れてしまっている右手の人差し指から明るい緑の葉を二枚つけた子葉がゆっくりと、されど確かな動きで芽吹いていく…

 その先に目指すべき光が射しているかのように…


 ☆☆


「ぶへぇ、疲れた…て言うか、何なのこれ?」


 (ざわ)めく草木の音が支配する森の中で腰に円く曲がった剣を下げ、金髪を逆立てた少年が額に玉の汗を浮かばせながらそう言った。


「それはクリキャタピラっていう魔物だったと思うよ。それはさておき結構色々な魔物を狩れたんじゃないかい?」


 目鼻が整ったこちらも金髪なパーマがかった上品そうな少年がそう返す。こちらには汗のような(しずく)は見られない。


「そうねぇーこれだけ持っていけば村長さんも喜んでくれるでしょぉ~」


 一人だけ体格がよく背の高い男が妙にクネクネしながらそう返答する。そうしながらも発熱した体の鋭敏(えいびん)な知覚は周囲への警戒を継続していた。


「……」


 頭に薄い布を巻き存在を薄れさせている少年は倒した魔物の解体を黙々と進める。


 ☆☆


「ククッ…アーハッハ!!」


 堪えきれない甲高い笑い声が、昼時を少し過ぎた大きな樹のしたの里に広がる。周囲の者たちの反応はない、ただ眠っているかのように地面に伏せている。

 笑い声を発した小柄な人物は獣耳を持ちとても若く可憐な容姿を醜悪に歪め、眼下に(うずくま)る少年を目にした。


「アハッハ…ハァーいたぶる趣味は無いとおもってたんだけどなー、こんなに(たの)しいのも久しぶりね。ま、この子がどうなるかはこの子次第だし…」


 肩を抱き一人で恍惚(こうこつ)に震えるかのように口を薄く開きクツクツと笑う。


「さぁワタシの──」


 何を言おうとしたのか、続きは風の音に紛れて消えてしまい、後には煮炊きする音と香りだけが残され、彼女は一筋の光がとびたったことに気付かなかった。


 ☆☆


『これは~ホントヤバいわ…ど、どうしよ』


 ふよふよと煮物の鍋に隠れて様子を伺う小さな精霊は、自らのイメージが作り出した明るい黄色のティアードスカートの裾を恐怖を押さえるように握った。


『これは確実にリッちゃんのせいよね…かといって私がどうにか出来るものでもないのよね~』


 う~んう~んと呻く手のひらより少し大きいくらいの精霊。こめかみに人差し指を突き立て、(しばら)く後、まるで頓知(とんち)()くお坊さんのように左の掌に右の拳をポンッと合わせた。


『そうだわ!私じゃないヤツに頼めばいいのよ!』


 早速精霊は思い付きを行動に移す。近くで眠るように横たわったリス族や昨日出会った冒険者学校の生徒という女の子たちに『ちょっと待っててね』と心の中で呟き、空中に身を踊らせた。光の尾を引きながら…


 一人の少年を(うつ)ろな闇から救い出せるかどうかは、光を(まと)った小さな精霊に託された。

少年は孤独という暗闇で手を探ることも出来ない

闇が少年を覆うことよりも早く、光は導きを示すことが出来るのか…

光が頼る代行者は友としてすべきことを予感する


次回、58 希望の光

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