55 門出祭準備-3-
あ~よかったセーベが断らなくて。
断られてたらあの不思議な声が言ってた事を果たせなくなるもんな。
あ、そうだ。もう旅立つって決まったんだから、門出祭のことは言ってもいいか。
二人とも祭りのことが気になってるだろうから。
「セーベ、ルーメン。さっきさ、祭り的な何かって オレ、言ったじゃん?」
「うん。言ってましたね」
『そう! それ気になってたんだけどなんなのー?!』
オレの頭の回りをグルングルン飛び回るルーメンが大きな声で聞いてくる。
「その祭りって言うのがセーベの門出を祝う祭りだよ。
先にコジベ村長と話してセーベの旅が決まったんだよ。勝手に決めちゃって悪いんだけど、さ」
「あ~そうだったんですね。お父さんもそう言ってるならいいんですが、お母さんが…」
おっと、ここでお母さんの話か…どんな人なんだろ?でもこの家に住んでいるような雰囲気は感じなかったんだけど。
「あっ、えっと私のお母さんなんですが…」
『リッちゃんのこと~? リッちゃんはね~こっわいゾー!』
ルーメンが精一杯顔をしかめっ面にして手を鬼の角のように頭にやりながらそう言った。
え~なんか怖くなってきたんだけど…でもたぶん会うんだろうな。そんな予感がする。
「大丈夫、大丈夫…です…」
え、待って!? なんでセーベも怯えたような顔してんの? お母さんって、そんなに怖いの!?
「ま、まぁいいや。取り合えず準備してきなよ、主役なんだから。
あと、明日の朝には出発しないといけないから荷物をまとめてもらっときたいかな」
「あっはい、そう、そうですね!」
まるで不安から顔を背けたかのように強引に笑顔を作りセーベは部屋に戻っていった。
「さて、オレは祭りの準備でも見てくるかな」
『あ、私も行きたーい! ねぇ! いいでしょ!?』
目を大きく開いて手と長い髪をブンブン振り回し…
『ふぇ、ふぇ、びぇっくしょん!!』
大きなくしゃみをした。たぶん長い髪が鼻を擦ったんだろう。
「大丈夫か?別についてきてもいいけど、ルーメンもこの里から旅立つんだからやることはやっとけよ」
『…ズズッ、あ~ほうね、ひゃるほとひゃとかなひと…』
「鼻かめよ…」
なんか全てにおいて残念な奴…
☆☆
「おぉー」
『ウワーでっかい肉~!』
里の広場では吊るされたドドファンゴが火炙りされていた。
肉が焼ける芳ばしい匂いとパチパチという火の音が周囲に広がっており、リス族がその小さな体をあちらこちらに移動していて慌ただしい雰囲気だ。
まさに祭の準備で、屋台でも出てたら雰囲気抜群だと感じた。
「祭壇への供え物ものはまだか!」
「ちょっと誰か手伝って!」
「薪が足りないぞ!取ってこい!」
かなりの怒号が飛び交ってるな
あ~これは何か手伝った方がいいか。よく見ると女子たちも真剣にリス族たちを手伝っている。
それにしても慌ただしすぎじゃないか?リス族たちは眉間にシワをよせて何かを畏れたように作業に集中している。
取り合えず何か手伝えることはないか聞いてみるか。
「あの~手伝えることありますか?」
「はい? あら! お婿さん!?
え? 手伝い? え~と、わ、私のところは特に無いわ?」
近くで煮炊きをしてたふくよかなリス族のおばさん? に聞いてみたけど何か動揺して目を泳がせながら断られた。
と言うか、お婿さんって何? いや、マジで!
くそっ! 村長だな? オレは別にお婿さんと決まった訳じゃねぇよ!
ふくよかな淑女に別にお婿さんではないことを説明したがニヤニヤした顔で「あらぁ~そうなの~?」とか言われ作業の邪魔になるからと追い払われた。
その後もいろんなところに手伝えることを聞いて回ったがことごとく断られた。
エミッタに先ほどの淑女と同様にニヤニヤされ、クレールとメルネーちゃんは照れて顔を紅くしながら祝い事を言われ、チヌネアに不気味に笑われ、ソフィに軽く無視された(これが一番堪えた)。
ちなみにルーメンはいい匂いがすると言って、さっきの淑女のところにいる。
「まずい! まずいぞ! アイツの大好物のクリキャタピラを忘れていた!」
突然大声が広場の中に響き、その声が聞こえた方を探ると頭を抱え顔を青ざめさせたコジベ村長が見えた。
さっきまで見当たらなかったからまだ稽古してるもんだと思ってた。
言いたいこともあったので、オレは村長のとこに向かい話しかけた。
「どうしたんですか村長」
「ハッ!? お、おぉ! 婿殿ではないか!?」
「その、オレは別にセーベの婿ではないんですが…?!」
普通に婿殿とか言いやがったし…! 臆面もなく言いやがって。
「かまわんだろ、男はどしっと構えておればええのだ!
いや、そんなことよりもまずいのだ! アイツの大好物が!」
「はぁ、もういいや。で? なんです? アイツって?」
クリキャタピラとか聞こえたけど虫系の魔物は苦手なんだよな…
それよりも村長が言う“アイツ”の方が気になる。めっちゃくちゃ恐れられてそうな……
尋ねると村長は顔を強ばらせて静かに口に出した。
「アイツか…、アイツとはわいの妻…“リテラ”。
ロクシュタリアの樹の代弁者である、ロクシュの巫女じゃ…」
現代では既婚者の巫女はダメらしいですが、リス族は大丈夫みたいな?




