45 六趣拳
あ、あれー?
オレたちって村長と話してたよね?
んで自己紹介が終わった辺りで里を案内するっていわれてロクシュタリアの木の裏側に連れていかれて──
板張りの建物があって──
なんで──
「ホレホレ! ハッ! ホッ! テリャ!
オイオイ、どうした? もう、バテたかいの?」
なんで組手してんの?
今、ゼンがコジベ村長と組手してる。
ゼンは受けるので完全に精一杯だ。いなすことはギリギリ出来ているけど、攻撃には転じられないようだ。
槍を使えないせいもあるかも知れない。
「ハッハァッ」
「どうじゃ見たかの? 我らリス族の六趣拳!」
コジベ村長が言っているのはリス族固有の拳法らしい。
具体的に言うとオレが見た限り、フェイントがとても上手い。尻尾の動きがとても速い。あととにかく動きが速すぎる。
具体的に言えてねぇわ、これ。
「フッフッ、こんなことでは我が娘に勝てんぞっ! わいに勝てんようではの!」
ん?ちょっとまて。
気になる発言があったぞ? 娘?
「あのーコジベ村長、セーベも六趣拳を?」
「うむ、そうじゃの! あの娘は六趣拳の使い手の中で今現在、最も強いぞい! わいの遥か先を行っとるの!
天才というのはあの娘のことを言うんじゃろの!」
ウソッ、あんなに小さいのに? そんなに強いの?
でもなんでゴルチェラードを振りほどけなかったんだ? 単純に力のせいじゃないと思う。
「へぇー。あの、ちょっと聞きたいんですが」
「なんじゃの?」
「えっと、六趣拳、には投げ技はあるんですか?」
「あるぞい。喰らってみるか?」
「えっ?」
「大丈夫じゃ、軽ぅするからの」
しまった、墓穴を掘ってしまった。
受け身できっかなぁ?体育の授業でしかやったことねぇぞ…
「ホントに軽くしてくださいね?」
「男ならキャンキャン言うんじゃなかの。じゃあ、小楢の型するからの」
いや、型の名前言われてもっ!?
フッとコジベ村長が視界から消える。
「ぐえっ」
「おい、受け身をとらんか」
「ゴホッ、急にするから…ですね…」
小楢の型だっけ? は、なんというんだろう。
柔道で近いのは背負い投げかな。でもちょっと違う。
ヌルンって感じ。合気道にも近い。柔術っぽいか?
んー、わかんねぇ。どれも経験無いし。
「今のは基本じゃの。投げ技は小楢の型の他にもあるが、それも喰らうかいの?」
「いえ、遠慮します」
ここはキッパリ言っとかないと。
「お父さん~。ここにいる~?」
「おっ! セーベ! ここじゃ」
セーベがこの道場にやって来た。なんか嫌な予感…
「セーベ!この男にな、技を見せてやってくれんかの?
受けたいそうだからの」
「お父さん……私、六趣拳出来ないって…」
えっ? 強いんじゃあねぇの?
なに、ただの親バカなの?
出来ないってなにさ?
「っていうか技なんてもう受けたくねぇよ!」
「あん?」
「いえ、何でも…」
「ガルゥシュもやられればいいのに…」
うるせぇぞゼン。小さくいっても聞こえるんだよ!
「あ、ドングリ…」
「あっ!セーベ!それはわいの…」
セーベがコジベ村長が隠したと思われるドングリを拾い上げ口にした。
堅い殻を噛み砕くような破砕音が響く。
『セーベ~セーベ~?
あっ!うわ、ドングリの殻…食っちゃってる?』
「キャハハハハ!!」
「「「えっ?」」」
オレとゼンとエミッタの声がはもった。
いや、あんな笑い声、セーベがあげると思ってなかったから…
「オイ!ガルゥシュッ!遊ぼうぜぇー!」
「えっ!?」
なになに!?キャラ違くない?
セーベらしくない…
『あ~あ、この時間に出ちゃったかー、めんどくさっ』
「お、おい、光の精霊…セーベはいったいどうしたんだ?」
光の精霊が何か知っていそうだったので聞いてみた。
セーベとは付き合い長そうだし。
『えっとねーあの娘、ドングリの殻を食べると性格変わるのよ…』
「この状態のこの娘の名前はテーベ。テーベが六趣拳最強!
でもわいのドングリ…食べられた」
えーー!!
まさかの二重人格!?ウソッ!?
「早く遊ぼうぜ、なぁ、オイ!来ねぇならこっちから行くぜ!」
一瞬で接近してきたセーベ、いやテーベは右の拳をオレの顔面目がけ殴りこむ。
「ちょっ、まっ!」
ギリギリで顔を横に避ける。
ウソーン…怖いよこの娘。
光の精霊よ、めんどくさいのは絡まれてるオレだよ…
てっ、ちょっとまって、コジベ村長よりもっと速い!
マジか!?オイオイ…、ヤバイヤバイ!
正拳突き二連続、横回し蹴り、肘打ち、払い蹴り、裏拳、上段後ろ回し蹴り。
厄介な尻尾のフェイントに惑わされる。
何よりすげぇのは全ての動きに無駄がなく繋がっていること。避けるのと受けるのでギリギリだ。
ギリギリだが見切れないわけではない!
「ここっ!」
「!?フンッ」
くっ、避けられた。
右手でフェイントかけてボディに蹴りに行ったのに…
バックステップで回避した彼女は腰に力を溜めるように脚を構える。
そして静かに目を閉じ…
「……六趣拳赤樫の型」
マズイッ!何故か危険に思う。
得も言われぬ圧迫感が場を満たしている。
えっ?何も来ない?
ただセーベ、いや、違った、テーベだ。
ただテーベが右正拳突きの体勢のまま射程外でたっているだ……けっ!?
「ゴフッ!」
一瞬でオレと距離を詰めて正拳突きがオレの腹に…
残像が残ってた位だ。
咄嗟に後ろに跳ばないとダメージがヤバかったと思う。それだけ破壊力があった。
「おおー。やるじゃねぇか!一瞬で判断するとはなっ!
……ハッ」
「ゲホッゲホッ…」
「ガルゥ!大丈夫!?」
「わ、私…もしかして、テーベになってました?
す、すみません!!ごめんなさい!ガルゥシュさん!」
「い、いや、いいよ。大丈夫……
治癒ありがとう。ソフィ」
良かった…テーベからセーベに戻ったみたいだ。
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「先程は失礼しました…寝床を用意したので案内します……」
元のセーベに戻ったら丁寧にオレたちを泊めてくれるやどに案内してくれた。もちろん男女別 とのことだ。
ロクシュの里は他のリス族が来る時用の宿屋がある。そこに泊めてくれることになった。
食事も置いてくれているらしい。体を拭う用のタオルも人数分置いてあるそうだ。
今日は…いろいろありすぎた。もう、寝よう…
お気付きの通り六趣拳の型はドングリができる木の名前です。
六趣拳はロクシュタリアに、ちなんでます。
ロクシュタリアは適当ですが…。




