42 決着後
「教官が…」
「………」
「…ッ」
やっぱり急に言われると厳しいよな…ベゼック教官は口調は悪かったけど教えるのはとても上手だったし、訓練中以外は優しかったと思う。
その教官が知らないうちに亡くなってるんだ…本当にオレがもっと速く着いてれば…
「教官は吸血鬼族に殺されたのか?なんでヴァンパイアなんかが教官を……」
「あのヴァンパイア、ゴルチェラード・セテレテータは教官の固有スキルを狙って乗っ取ったんだ…自分の私怨のために…ハハッ本当にくだらないことのために……」
ゼンの疑問にオレは哀しみをつのらせながら答えた。
「でも、本当にヴァンパイアなの?絶滅したんじゃなかったの?」
「…ヴァンパイアは過去に栄華を誇ったけど、いつからか歴史の舞台から消えた種族……何故ここにいたの……」
エミッタの疑問にチヌネアが補足をした。
「本当だよ…ゴルチェラードは自分をヴァンパイア族の末裔だって言ってた。アイツはもういないけど、少なくとも吸血姫は生きているだろう…」
そう、ヴァンパイアクイーンは何処かにいるはずだ。あのゴルチェラードがああまでして潰したかった相手なんだから。
「あの~!誰かこれ持ってくれませんか!私じゃあ重くて!」
ん?獣人の娘か?なんだろう?
「あ、今行くよ!よいしょっ…ヅッ!」
立ち上がろうとしたらまだ完全に治ってなかったのか背中に痛みがあった。
ここまで重傷を負ったこと無いしなぁー。
「ガルゥ!まだ動いちゃダメ!」
「ガルゥちゃんは動いちゃダメよぉー。ワタシが行ってくるからぁ~」
「悪いなピタシーナちゃん。ごめん、よろしく」
「いいのよぉーワタシの王子様はじっとしてて♡」
ソフィに注意されピタシーナちゃんが行ってくれた。最後の言葉で何もかも台無しだが…………オエッ…
「あらっ?これ、教官の剣じゃない…ん!重いわねッ」
聴覚感知で鋭くなった耳にピタシーナちゃんの声が聞こえた。
教官の剣か。無骨だがなかなかに良い剣だったはずだ。
「ヨイショッヨイショッ!フゥ。教官の剣だったわぁ」
「皆さんが話していらっしゃる間、ちょっと何か残ってないかと思って…」
『あの聖光でほとんどのものは無くなっちゃったぽいわねー』
獣人の娘が辺りを探していたようだ…まぁ知らない人が死んだいきさつを聞いても仕方ないしな……
「獣人!?君!何族だい!?耳を触らしてもらえないだろうかッ!」
「えっ!」
ゼンの悪い癖が出た…今はそんな場合じゃないだろ!?
「こらっゼンちゃん!今はそんなときじゃないでしょっ!」
「………」
ピタシーナちゃんが怒ってくれた。セントも無言の圧力だ…
当たり前だ!
「す、すまない…」
「あっいいんです、いいんです。えっと自己紹介がまだでしたね…私はセーベ・リースタと言います、栗鼠族です」
「へぇーリス族…それにしては君真っ白だね」
「あっえっと私はアルビノなんです…少し目が紅いんですけど……」
「セーベちゃんか。オレを助けてくれてありがとう…巻き込んでしまってすまない…」
「い、いえ、私こそ助けていただいて…」
『んーいいのよ。ワタシの力のお陰だし!いいもん見れたしね!』
光の精霊にも感謝だな…こういうときはしっかり頭を下げておかないとダメだと思う、感謝を伝えるために。
「ありがとう。力を貸してくれて」
「ねぇん!これどうしたらいい?もう重いんだけどぉん」
ピタシーナちゃん忘れてた。律儀に地面に置かずに担いでるし…
「あ、オレが仕舞うよ」
「ん?ガルゥシュ何処にしまうんだい?」
「ピタシーナちゃん、貸してくれないか?」
説明するよりやってしまった方が良いだろう。
ピタシーナちゃんが疑いながらもベゼック教官の大剣を持ってきてくれた。
アンよろしく。収納魔法!
心の中で念じた途端、空間に黒いなにかが浮かぶ。その中に剣を入れて仕舞う。
「えっ!?消えた?」
「オレのオリジナル魔法だよ」
「さすがだね!ガルゥ!」
「完全に空中で消えた…」
え?これって空中で消えるように見えんの?オレにしかわかんねぇのか?
『え?空中で消えてた?普通になんかの穴が空間に出て、入れただけでしょ?』
あれ?光の精霊にも分かったのか?なんで皆には分かんないんだろう?
「まぁそのオリジナル魔法は後で詳しく聞くとして、これからどうする?」
「そうね…こんな状況じゃ、もう森の訓練出来ないわよねぇ……」
「教官がいないんじゃあ訓練してもな…馬車が確か明後日に来るんだよな…?」
ゼンに後で説明すんのめんどくさいなぁ。まぁいい。
ピタシーナちゃんの言葉にクラメが賛同した。クラメの確認にオレは頷いた。
「それまでこの辺でいる感じ?」
「わ、私は出来ればこの森から離れたい…」
「俺もクレールに賛成だ…キマイラとヴァンパイアのせいだが、この森の近くにはあまり居たくねぇ」
エミッタが確認してきたがクレールとクラメがこの森に嫌なイメージがついたのか、離れたいと言った。
確かに離れた方が良いような気はする。
「かと言って、徒歩で戻るのはかなりの時間がかかるぞ?もし馬車とすれちがったら面倒だ」
ゼンの言う通りだ。森から村まで結構距離がある。出来れば早くギルドと学校に報告したいが、ヴァンパイアのゴルチェラードも倒しただろうからそんな危険はないと思うけど。
「あ、あの~もしよろしければ、私の集落に来ますか?少し遠いですけど…」
セーベちゃんが提案してくれた。
「いいのかい?」
「よろしく頼むよ。」
「分かりました!こっちです!」
ということでオレたちはセーベちゃんのリス族の集落に行くことになった。
「フフッ…獣人の集落…耳…フフッフフ…」
ゼンキモッ!弁えろ!バカ!




