40 決着…
「アァ…ここでは戦いづらいですかね?貴方ぐらいしかワタクシに抗えないでしょうし、お一人の方が戦いやすいでしょう…」
ゴルチェラードがここじゃない場所にした方が良いか言いだす。こちらとしてはその方が有難い。
皆を守りきれる自信がない。確かにオレ以外の誰かじゃあ、教官を殺したゴルチェラードになら簡単に殺されてしまうだろう。
「それでは、場所を移しましょう…か!!」
「!?グブッ!」
ゴハッ!こ、コイツ!クソッ!油断した!ゴルチェラードの攻撃に敵意が感じられなかった…!
オレはゴルチェラードにミドルキック、いわゆる左中段回し蹴りを食らい吹き飛んだ。木を何本も幹からへし折りながらぶっ飛んだ。
「がっ、ぐっ…」
何本木をへし折ったか分からないほどぶっ飛び、森を抜け道のある草原にゴロゴロと不様に転がり出た。
くぅー。ミスった…!キマイラに打ち消された外側の風強化魔法、かけ直すの忘れてた…あ~これ、アバラ何本かいったな…背骨もヤバイ。めちゃくちゃ痛ぇけど、治せない訳じゃない。
「グッ…光よ癒せ!『光癒』……!」
ちっ!ヤベェ光治癒魔法練習してなかったから全然思うように治らねぇ…!無詠唱じゃあ、すぐ使えるけど効き目も薄いから短詠唱だけど詠唱したってのに…
「ッハァハァ…。あ~痛ぇー!マジで許さねぇ…あの野郎!」
「クックック…ィーヒッヒッヒ!誰を許さないんですかねぇー!?」
ゴルチェラードが悠々と森から出てきた。見た目は肌が浅黒いこと以外、教官のままだ。体の傷も治ってるし、右腕もしっかりある。
完全に死者への冒涜だ。ゴルチェラードを見てキレた。
地面スレスレを思いっきり駆ける、足が前に前に動く。
一瞬で決めてやる!首を狙って振り抜いた。
金属の高い残響が長く音をたてる。
ウワッ。普通に受け止められた。力では互角、もしくは少し上か。
「ククッヒッヒッ…やっぱり、貴方強いですねェ…隠蔽してますねェ?久しぶりにゾクゾクしてきましたよ…楽しみですねェ強いやつをぶち殺すのは!」
鍔迫り合いをしているとゴルチェラードが一人気味の悪い笑みを浮かべ、笑い、そして興奮し始めた。
オレが他とは比べ物にならないくらい強いことが分かったらしい…でも、まだ完全にオレの強さがキッチリ分からないはずだ。それまでには仕留めたい。
「さぁ!殺し合いの始まりです!!」
フッとゴルチェラードの力が抜け、鍔迫り合いしなくなった。消えた…
うしろっ!
「ぜりゃ!」
後ろ回し蹴りッ。を下に屈んで避けられクンペルでゴルチェラードの顔面を狙う、くそ!弾かれるッ!
縦、上袈裟掛け、右横と剣を振るが全て丁寧に受けきられる。
三回打ち合ってギリギリ紙一重のところで弾き合う。
「『光矢』!」
これは目眩まし用だ。本命は無詠唱の闇槍。これをゴルチェラードの行動予測場所に地面から伸ばす。
闇の黒い杭が三本地面から生える。
「どうだっ!やったか…」
あっ!ヤバイっ!自分でフラグ立てちまった…
「ダメですよ…引っ掛かっちゃあ…」
ゴルチェラードが右手に持つ教官の剣を簡単に振り抜く。
「ぐぁあぁあああ!」
クソッ!また油断したッ!フラグ通りじゃねぇかっ!
背中がッ!斬られたッ!
クソッ!オレのバカ野郎!
「ハッハァハァ」
ヤバイな…背中は治癒魔法の効きが悪いんだよ…掌から治癒光を出すのが一番効きがいいんだけど届かないし、クンペルを手放せられない…
我慢するしかねぇ!もう決着をつけるしかないっ!
「うぉぉおぉ!!」
こうなったら見せてやるッ!オレの編み出した必殺技ッ!
「ライトニングバァーストッ!」
「!?!?」
オレの体の周りを黄色い稲妻がかけまわる。バチバチという音が耳に届く。
雷魔法だぜ。属性に雷がなくて、開発するの大変だったよ…4歳からずっと試行錯誤して、今ではオレの最高火力、最高範囲魔法だ。
ライトニングバーストがオレの今出せる最高だ。オレの体からかなりのボルトの電気を放出する技だ。さすがに紫電になるレベルまでいかないんだけど……
これでダメだったら本当に不味いんだが……
「ガホッ!グッ…なんだ、それは…!」
「っはぁはぁ…これじゃあ、ダメか。しぶといなぁ…!」
ヤバイ…魔力のほぼ全部を出したからクラクラするし背中の傷も開いた…万事休すか…
「だ、だいじょうぶですかーっ!」
!?誰だっ!ここに来るのは駄目だ!クソッ声が出ないッ!特待生の誰の声でもない…しかも森からじゃない…!?
戦闘のせいで感知まで気が回らなかった。
「……ククッヒィッヒ…グブッ!ハァハァァァ、ワタクシに運がまわったようですね…」
「あ、あなたッ!大丈夫ですかっ!身体中酷い火傷ッ!」
不味い…今来た娘。恐らく獣人だ…フサフサと大きな丸めの尻尾…少し尖った頭の上の耳…真っ白な髪の毛……
その時オレの脳内に直接流麗な美声が響く。
《──ガルゥシュ・テレイゲルよ─彼女が貴方が救わなくてはならない女子です─貴方が彼女を救うのです──》
これはッ!
オレの使命かっ。なんとしてでも救わないとッ!
何の疑問も沸くことなく純粋にその声を受け入れる。
とにかくゴルチェラードから離さないとッ!
「光の精霊さん!おねがいっ!」
『仕方ないなぁー』
あれは?光の精霊だって?
小さな女の子の姿をして、薄い黄色の服を纏っているように見える。
それにしても、奴を回復させるのか?それはダメだッ!
「待って!ソイツは悪党だッ!」
「えっ!?」『え?』
なんか精霊の方は緊迫感がないな……
獣人の娘、信じてくれ!お願いだ。
『ん?うぉーっ!スゲェー!アイツめっちゃ光に愛されてるッ!ワタシ好きになったかもっ!』
「へっ?」
光の精霊がこっちにすごい勢いで飛んできた。 なんだコイツ?今の状況分かってる?
「精霊さンッ」
「動くなッ!貴方…少し侮っていましたよ…」
ゴルチェラードがボロボロな状態で獣人の子を人質にしやがった。頼むから早まるなよ…
「お願いだ、その子を殺すな…」
『えっ!?なになに?これ?』
「このままだとあの子が殺されるぞ…でも魔力がないし、どうする…奴まで遠い…接近戦は……」
『ヤバイじゃん!あんたに力貸してあげるっ!はいッ。あの娘を救って!』
眩い光が目に見えて煌めく。その光が燦々とオレの体に降り注ぐ。
これはっ!?光がっ!オレの手に?
「その力はッ不味いッ!撃つなァあああ!」
「ヒャッ!」
ゴルチェラードがあの娘を離したっ!逃げるためだろうが良かった。あの娘を巻き込まないで済む。
「喰らえッ!『聖光』!!」
空気が焼かれるようなビジュンッという音。
「グッアアアアッッッ!!!」
大きな光線が手を向けた方に放出された。これに当たったら完全に消滅するだろう…
すみませんでした…ベゼック教官、荒い弔いで…
今までありがとうございましたっ!お元気で……
聖光が消えた瞬間、オレの目の前は真っ暗になり、オレはぶっ倒れた。




