38 キマイラ
「よし、ここらでいいだろう。二日後にここに来い」
ベゼック教官が示したのは森に入ってすぐの所で、チームに別れた。
二日後ということは、太陽があの方向にあるから…八時集合だな。
オレたちのチームはそこから東に行くことにした。
森は広いらしいからそうそう外に出ることはないと思う。
一応目印として木の幹に傷をつけていく。
「よし。この辺を拠点にしましょうか」
「分かったわ」
「うい~」
一応少し広めに開けた場所を拠点した。
魔力感知や聴覚感知があるけど、視界が開けてる方がいいだろう。
注意するに越したことはないし。
「えっと焚き火もしておこうか」
「そうね。私、薪拾ってくるわね」
みんなテキパキ動いてくれるな。
授業でもやったし、やるべきことは体に染み付いてるだろ。
ん! 魔物さんのお出ましと。
「待って…! そこ、ゴブリンがえっと…4体いる」
「!? 分かったわ…」
「…バレるまえに倒せたら倒すけど、バレたら、メルネーちゃんとオレ、クラメで前衛をするからクレールとチヌネアで後衛、魔法を」
よし。
皆が頷いたのを確認。
ゴブリンを倒しにゆっくり近づく、と。
幸いまだゴブリンたちは気づいてはいない。
我が愛刀クンペルをゆっくり引き抜く。
せーの、縮地!
景色が一瞬で置き去りになる。
視界にあるのは醜悪なゴブリンの横顔だけ。
ゴブリンの首を狙って、横切りを振るう。
若干剣の重さに身を引かれるが、逆にいい感じの振り抜き体勢になったので良しとする。
さて、オレの後ろでは叫び声をあげる暇もなく首がちょん切られて落ちた。
まずは一匹。
「ギィ!グギァ!」
残っているゴブリンが汚い声をあげながら近づいてくる。
よっと。
木のこん棒を振り下ろしてきたけどおっそいから、あとは皆に任せようかな。
「並ぶべきものは何もない、闇の声を聞きて黒を呼ぶ、這い出でしものよ、我は承認す─[闇隠し]」
「ギィ!? ギァアギグ!」
「ギャギャアグ!」
チヌネアが闇魔法でゴブリンたちの周囲を囲った。
あの中からじゃあこっちの動きは全く分からないはずだ。
ゴブリンは魔物としても戦士としても全く優秀じゃないからな。
メルネーちゃんは嗅覚で感知できるはずだからいけるだろう。
「てりゃあ!」
「固く芯を通し、地の声を聞きて腕を呼ぶ、構え出でしものよ、我は承認す─[土手]」
メルネーちゃんが一体を倒して、クレールが土から生成した腕で一体を捕まえた。
ちょうどタイミングよくチヌネアの闇隠しが晴れる。
「ほい! いっちょあがり!」
クレメが普通にラスト一匹の首を掻っ切って戦闘は終わった。
このくらいの戦闘なら余裕だな。
「じゃあ薪拾いに行くかぁ~!」
「私もいくわ!クラメだけじゃ心配だし…」
「じゃあオレたちが解体しときますね」
クラメとクレールは薪拾いね。
ゴブリンは特にとるものがないから魔石だけか。
ちゃっちゃとやっちまおう。
「ねぇ、ガルゥシュくん、さっきのって縮地?」
「あ~うん。そうだよ」
「凄いねあれ。ほとんど目で追えなかった」
「きっとメルネーちゃんにも使えるようになるよ」
メルネーちゃんにも疾走のスキルがあるしね。
育てれば縮地になる。
瞬発力が大事なのは間違いないから、もう少し鍛えればいい。
「そう? ならいいんだけ…」
「シッ!」
《近くに強力な魔物がいます》
アンが危険を察知した。
なにげにオレの感知範囲の外だ。
こんなことは初めてだけど…
《クレール・タセナに危機が迫っています》
「チッ! 不味い! 」
よりにもよって…最悪だ。
アンが言うほどの危険性かよッ─!
クソッタレ! 間に合えよ!
「メルネーとチヌネアはここにいて!」
「えっ!?えっ!」
『キャアァァーー!!!』
くっ! クレールの悲鳴か!?
無詠唱強化を──
外に風! 内に光!
よし、完了。
頼む間に合え! 縮地! 縮地!
捉えた! こっちか!
感知範囲に入ったらこっちのもんだ。
『グガァァァ!!』
いた!
クレールは腰を抜かしたのか!?
ヤバい! 噛みつかれるぞ!
チクショッ! あと…少し……!!
間に合わな──!?
「オッラァアア!!!」
「グルガァ!」
クラメ!?
よっし、ナイスだ!
ギリギリで避けられたけど、時間は稼いでくれた!
さっさと倒すために鑑定させてもらう!
{個体名:キマイラ
・種族:幻獣
・状態:操作
・レベル:35
・ランク:B+
体力:350
魔力:304
攻撃力:157
防御力:75
素早さ:90
森の奥地に潜む幻獣。顎の噛みつきは強力。口から炎を吐き、尻尾の蛇は猛毒を持っている}
キマイラ!?
合成獣か!
頭には獅子の顔をした頭が一つと、山羊の顔をした頭が二つあって三つの頭を持っている。
呻き声とかは獅子が担当して、山羊は周囲を観察…
そして尻尾として蛇がいるのか。
正直言うと…かなり恐ろしい。
B+の魔物なんか戦ったことがないんだけど…いけるか?
いや! いくしかない!
「うぉぉぉらぁ!!」
「グルッ!ググギャア!!」
縮地によって加速が乗ったクンペルを全力で振るった。
一瞬では剣を一度振るのが限界だ。
だが、よかった!
キマイラの右足を潰せたぜ。
どうだ、コンニャロー! これで動きづらいだろ!?
「ガルゥシュ!?」
「クラメ! クレールを連れて早く逃げろ! オレがこいつの相手をする!」
「ぇ、あ、ああ」
「ほら! 早く!」
クラメもクレールを守る義務感でどうにか立って構えているが剣先が震えてる。
この魔物に対して二人をかばいながらはキツい。
「グ、ググガォアーー!!」
怒ってる? そりゃ怒るよな!
ご飯を邪魔され、前足の片方潰されたんだからよ!
だがよぉ…
「ぜってぇ! オレの仲間を喰わせるわけにはいかねぇ! かかってこいや!」
「グガォアア!!」
けっ! 突進か!
知能はただの獣だなぁ!
顔面引き裂いてやる!
「ぉっらぁ!」
「グッ、ガァ!」
「!?グブッ!」
クソッ!
コイツッ…クンペルが当たる途中に獅子頭を右に振って躱したあと、思いっきり左の山羊の頭で頭突きを仕掛けやがった。
ただの獣だと油断したつもりはないんだがな…
あ~あ、風強化が剥がれちまった。
内側の光強化のお陰であんまりダメージにはなってないが、腹部から血が出たのか服が血に滲んでいる。
落ち着け、落ち着けオレ。
何も近接攻撃しなけりゃダメだと言うことはない。
─魔法だ。
「グゴォ!」
オラッ[光球]をくれてやる!
めくらましでしかないが、オレはちゃんと目をつむってるから効くのはキマイラお前だけ。
目をつむっても感知があるから問題ない。
オイオイ、キマイラの奴め! 適当に当たりをつけて滅茶苦茶に攻撃しやがって!
頼むから誰も来るなよ。
今来たら危険きわまりない。
さぁーてコイツが暴れている間に魔法のイメージを決めてしまおう。
今使うとしたら何を使うべきだ?
火魔法は森に被害が出ちまう。闇はさっき光を出して出せない。
水か風、土、光だな。
水にするか。
土は予測しないと広範囲に被害がある。
風も力加減下手なんだよな。
光はさっき使ったからやっぱり水だな。
えーと水を高水圧にして…左手親指と中指の間で力を込めながら人差し指で範囲を決め、どんどん薄くしていく。
魔力次第で長くなるイメージで。
「くらえ![水斬]!!」
目を瞑ったままキマイラに向けて振り下ろす。
水の吹き出る音と血が飛び散る音が混じりあう。
鳴き声がやんだ?
勝ったのか?
「うおっ! グロッ! 顔面からケツまで真っ二つか」
「ジャァア!!」
おっつ!? 尻尾の蛇が生きてやがったのか。
ビビったが、まぁ問題ない。
「オラッ!」
まだ続いていた水斬を蛇の脳天に突き刺す。
声をあげることなく蛇の部分も死んだ。
終わったか。
つくづく思うが生物の死に慣れてきてるな。
魔物なんてほぼ毎日狩ってるしな、金は必要だ。
ま、いいや、どうやって持って帰ろうかなー?
なぁーんてね?
こんなときのために収納魔法を覚えてやったぜ!
その名のとおりだけど、物を収納する。
これを覚えたのは一ヶ月くらい前。
意外と最近なんだよね…
ついでに言うとオレのオリジナル魔法だ。
アンが補助しているから収納する時と出す時だけ魔力を消費する。
アン曰く、
《異空間に保存しているため、時間が経過しません。保存量は∞となっています》
ということだ。
ぶっちゃけこれだけでチートですね。
ということでさっさと空間に穴を開けてキマイラの全部位をそのまま入れちゃう。
ん、あれ?
ベゼック教官も誰も来ない?
普通誰か来るんじゃないのか?
あれか? オレが誰も来るなよとか思ったから?
それにしてもおかしいような。
《戦闘中。危険です。魔物ではありません》
は!?
戦闘?
誰が危険なんだ?
魔物じゃないってなんだよ!?
クソッ! こうゆうときにアンは分かりにくいな。
あ~もう、悩んでないで行くしかない!
皆、無事でいてくれよ!
次話はグロくなるよ。




