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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第三章 冒険者…?
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35 特待生殺しの試験期間・当日

 

 日が沈み始めた薄暗い朱色と白く霞がかった朧雲おぼろぐもの空の下、木と木がぶつかり合う音が冒険者学校のグラウンドに響く。

 周囲には人影はちらほらと見えるものの帰り支度をしているようだ。


 かれこれ1時間強といったところだろうか、オレことガルゥシュとチナは対人剣術稽古をしていた。


 今日は“特待生殺しの試験”と呼ばれる冒険者学校、春の試験2日前で、先程チームとしての連携は確認した。


 今の稽古は、チナが対人戦の戦い方をオレに教えてもらおうとチームを組んだその日からやっている。チナは将来、王都で開催される剣術大会に出てみたいそうだ。かなり幼い頃に現在の“剣凜”と呼ばれる剣豪の試合を見て憧れたそうだ。


 この世界で剣豪として五人の名前が挙げられる。一人はチナの憧れである“剣凜”、剣凜は女性でとても美しく軽やかに舞うような剣術らしい。その他に“剣絶”、“剣覇”、“剣迅”、そして“剣鬼”…

 ま、この話は後程…


 さて、そろそろチナの体力が限界かな?あまりやりすぎても仕方無いし。


「ヨシッ、このくらいにしようか。チナ、お疲れ」

「…あ、ありがとうございました…」


 オレとの対人剣術稽古を終えたチナは、まだ少し肌寒く感じる初春を忘れたかのように自らの額に浮く、キラリと光る滴を少し乱雑に麻で出来た服の袖で拭った。

 それに対してオレは自分でも軽く驚くくらい、少しだけしか汗をかかなかった。これ程にステータス差があるとそうなるのか、チナには慣れていない対人だからなのか、それは知らないが…


 これでもチナは確実に成長している。ステータスを見てもそうだし、動きと動きの間の無駄が目に見えて減った。

 対人剣術をやることによって剣の振り方が身に付いたのか、チナは前衛としての動きが出来るようになってきたと思う。


 オレが担当している子たちのパーティーの役割はペック、チナが前衛、レドーが中衛、カレンが後衛で、ミナが斥候といった感じだろう。


 一度狩りに言って連携を確かめたんだが、ミナのポゼガーの毒が強すぎて、連携もへったくれもなかった。

 小さい魔物なら一撃で倒れちゃうし、試験としては評価されなさそうだからミナには悪かったけどポゼガーは使用しないことにしようと言うことになった。

 いや、ちゃんとした武器であり戦術なんだけどね?


 しかし、ポゼガーを使わない連携は…一言で言うなら、“慌ただしい”だ。息があってなかった。

 そこでオレは、声を出しタイミングを図る方法を指示したが、チナ以外にはほっとんど効果がなく、幼いがゆえ合図でどう動けばいいか覚えられなかった。


 覚えさせるには時間がなかったし、もっと成長すればいずれ覚えられると思うので、ここは諦めてひたすら基本に則って前衛、中衛、後衛のタイミングを合わせることにした。

 前衛のチナとペックには左右に陣取ってレドーがカレンの近くで守りつつ、カレンが魔法を撃つ。そしてミナには自由に動いてもらい、死角から攻撃してもらう。要するにチナとペックにヘイト値を稼いでもらうってことだな。


 オレが目指しているのは、オレがいなくてもパーティーが成り立つことだ。だから、試験当日は周りの魔物をオレが処理して安全に戦ってもらおうと思ってる。


「かなり上達してきたね、チナ。これなら連携さえしっかりしてたら判定高いと思うよ」

「そ、そう?ぅんー…やるだけやってみるね?」


 少し照れながら、手を組んで頭の上に持っていき身体を伸ばし息を漏らしながらチナはオレに微笑んだ。その微笑みはまるで白きスズランの花のようで…

 オレは不覚にもドキッとしてしまった…


「ん、ん“ん“ッ!ゴホン!が、頑張って…」

「?…うん。ガルゥシュくん?」

「い、いや。何でもない。か、帰ろっか?」

「うん。…ふぅ、疲れちゃった。連携しっかりできたらいいな」


 そう言ってチナは、先に木剣を拾ってもとの場所に戻しにいったガルゥシュの背中を追った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 じっとりとした空気を醸し出す薄暗く鬱蒼とした深い森──


「ひっ!なに!?あ、あわわ!」

「おっ!魔物じゃね?見に行こう、レドー!」

「うん!見たい見たい!」


 ま、まずい…


「お、おい、待て待て!ペック!レドー!勝手に動くな、ミナが魔物探してるから!カレン大丈夫、ただのウサギだよ。チナ…大丈夫…?」


 ヤバいぞ、ペックとレドーはガサガサ音が鳴るたび動こうとするし、カレンは怯えちゃってるし、頼りにしてたチナは…


「え、あ、ハイ?ま、魔物ですか!?」


 完全に、緊張してる…これはどうしようか。弱い魔物でも仕掛けてみるか?いや、こうしよう。


「チナ、魔物じゃないよ。落ち着いて、さぁ皆も少し落ち着こう?深呼吸しよう、はい、吸って~」

「す、スーーーー」

「吸って~吸って~」

「スースーーーー~~…!!」

「もういっちょ吸って~!?」

「~!!…」

「ハイ、吐いて~!」

「ブハァ~!ハァーハァー…」


 ククッ、皆、顔真っ赤にして…


───チリンチリンチリン


 鈴の音が木の間で軽やかな音を響かせる。


 おっ、来たか!

 これはオレの感知範囲外の魔物を探してもらってるミナの合図だ。


 ミナのお父さんが作った魔道具“呼ぶ声の受け鈴(コーヴォレシベル)”がオレの持つ鈴の名前で、ミナが持つのは“呼ぶ声の授け鈴(コーヴォグラベル)

 こちらから鳴らさせるように送ることはできず、送受信は出来ない。魔力を込めると鳴るように作られている。


 ミナのお父さんが作っただけあって説明文は、オレのやつが{貴方だけの想いを受ける}、ミナのやつが{私が想いを贈るのは貴女だけ}。

 なんだこれ!?って感じだ。ロマンチックなのか、何なのか……便利だから使わせてもらうけど…


 まぁ、魔道具は置いといて─魔物だ。ミナには大きめの魔物が出たら鈴を鳴らすように言ってある。


「皆、ミナから合図が来たから取り合えずこのまま真っ直ぐ進もう。緊張はさっきのでほどけただろ?」

「あっ、はい。ゴメンね?」

「えっへへ、あたしは落ち着いたぁ」

「ひでーなーもっとちがう方法あっただろー?」

「まぁまぁペック、そんなことより魔物だよ!はやくいこうよ!」

「おっ、そうだな!みんな、はやくいこうぜ!」


 まるで楽しみにしてた動物園に来た子どものごとく眼を輝かせて、ペックとレドーは走っていこうとする。


「先に強化魔法掛けていけペック、レドー、危ないかもしれないから。チナも掛けといて」

「わかった!」「はい!」「うん」


 よし、皆、詠唱を始めたな。 オレは多分大丈夫だから良いとして…


「カレンは…」

「ダイジョウブ!」


 カレンはこの一週間で強くなったな。やることはしっかり理解してるみたいだ。なら、皆大丈夫そうか。ミナはオレたちが着くまで手は出さないだろ。


「よし、訓練通りにいこう。じゃ、行くぞ!」

「オー!」


 前にエイ・エイ・オーをしてからというもの、オーで返すことが多い気がする…まぁ気合いは確かに入ってるみたいだからいいんだけど。


 ◆◇◆◇


「あ!コッチコッチ!」


 ミナと合流。比較的大きめな声だったけどミナは目がいいから遠目で確認したタイミングだろう。気づかれてはないはずだ。


「よくやったぞ、ミナ」

「うひひー」


 ミナは歯を見せつけるように明るく笑った。いい笑顔だ。


「なぁなぁ!ところでどんな魔物だった!?」

「大きかった!?」


 ペックとレドーは我慢できないかのように魔物のことを聞いた。

 なんか、有名なゲームの二作目のテストプレーヤー応募に当選したネット友達と通話アプリで話し始めたオレみたいな…、うわ、今スッゲーわかりずらい説明したな…オレ…。


「えっとねー、四本足で目がギロギロしてるの。んで、頭に大きな角があった!」

「へえーかっこよさそう!」

「倒しにいこうぜ!」


 んー、サイっぽい感じかな。地球では草食動物でも、こっちの世界だと肉食の魔物になってる生物って結構多いんだよな。見た目に凶暴さが加えられてるんだよ。


「じゃあ倒しにいくか。オレは手を出さないからお前たちで連携して倒すんだぞ。頑張れよ!」

「オー!!」

「…ブゥォォオオオ!!」


 あ、見つかった。今の声で気付かれたな?オレたちから50メートル位離れてるのに、耳いいなぁー。

 ま、気付かれたもんは仕方ない。


「そら!行ってこい!」


 皆、オレに頷いて魔物に向かって走っていった。


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