32 楽しませろ!
「オラっ!」
ベゼック教官の縦切りがソフィを襲う!
『火よ!燃え上がれ!』
「!?…ッチ!」
ソフィの詠唱はオリジナルのただイメージしただけの魔法なので技名がない。単純な命令しか出来ないが大分詠唱を省略することが出来る。
まだソフィは無詠唱のスキルを手に入れていないため、このようにしている。短詠唱もなかなか難しいんだけどね?そう思うとソフィは才能あるよなぁ……
そんなソフィが詠唱を短縮して、ベゼック教官の目の前に炎の壁(小)を作り出した。目の前に出されたことによって大きく見えたのか、火の壁を嫌って教官は走りを止めずに一歩地面を強く蹴って左にそれた。
『風よ風よ我を包みこめ!』
「オラ!」
ギャリギャリギャリ!という削れるような音。
ベゼック教官の剣とソフィが作り出した風のプロテクターが激しく対抗し合って火花を散らしている。
『水よ!凝縮し、かの者を撃ち抜け!』
「おいおい…マジか」
風のプロテクターで守っている間にソフィは水球を作り出し、ベゼック教官の脚を狙った。かなりの魔力が込められている水球だ。小さいが貫通力は高いだろう。
ベゼック教官は飛び退き、ソフィの水魔法は地面に突き刺さって霧散した。
「もういい。なかなかやるな、魔法使いか。こんなにも近接を退けられるとはな。お前は校長に教わるといいだろう」
「あ、ありがとうございました…」
「すっげぇ!凄いな!君!」
さっきの曲刀金髪がソフィを称賛した。確かにソフィはすごかった、ダグラン師匠に鍛えられたオレから見てもなかなかいい戦闘だった。
「えっと、あ、はぃ」
「う、あ、ご、ごめん」
ソフィが人見知りのせいで曲刀野郎が謝った…褒めてたのに…なんか哀れな奴……
「次!もっと俺を楽しませろ!次はお前だ!」
趣旨変わってんじゃねぇか!楽しませろ!じゃねぇんだよ!
そのあとソフィほど善戦する奴はあまり居なかった。皆一発は得意な技だったりを繰り出すけどベゼック教官には一撃も加えられてない。こう考えると曲刀金髪はなんも出来てない……哀れだ……
「オラ!次だ!おめえだ!」
次にゼンが選ばれた。皆慣れたものですぐにゼンから離れる。
「教官の動きのクセは読めましたよ」
「ほぉ!そうか!なら俺を楽しませてくれるよなぁ!」
ゼンの槍は結構太めで振り回すと大振りになってしまう。近寄られたらほぼ勝ち筋はない。さて、どうなるやら。
「セイ!セイ!はっ!」
やっぱりゼンは連続突きを繰り出した。ベゼック教官はそれを器用に反らしていく。
「フン!」
ゼンは自分の体ごと槍を円を描くように回した。一瞬、脚に力を溜めてた教官は槍の弧を描く動きが邪魔をして近寄れなかった。しかし、この動きならゼンは一回転するときに必ずベゼック教官に背を向けてしまう。
「そこだ!」
「フッ!」
「!?」
背を向けてしまっていたゼンに対して振られた剣が空振った。
ゼンが回した槍を地面に槍を突き、棒高跳びの要領で教官から距離をとった。
「よく考えたが攻撃を加えないと意味が無いぞ!そんな曲芸だけじゃな!」
すぐにベゼック教官はゼンに走り寄っていく!
ゼンは槍を突き出すわけではなく、薙刀のように構えた。
「おっらぁ!」
「ハアァ!!」
「!?」
ベゼック教官が剣を下から上に逆袈裟がけにしようとしたところをゼンが構えた槍の柄のところで剣の横腹を弾き、そのまま体を捻ってベゼック教官の脚に槍を振った!
しかし、ゼンの槍は教官に届くことなく、教官の脚で地面に踏みつけられていた。
「残念だったな。動きは良かったぞ」
「ハァ、残念です」
ゼンでもダメか。まぁベゼック教官結構レベル高いんだよね…37レベル。ステータスはオレより少し下と言ったところかな。
「けっ!もう最後か!おい!お前本気を引き出してくれよ!」
遂にオレの番だ。なんでラストなんだ。作為を感じるぞ……
「あ~よろしくお願いしますッ!」
うっわ、もう突っ込んでくんの…この上段切りなら簡単に受け流せるけど…手加減してるんだろうな。
何も出来ずに負けることはないと思うけどせめて本気を出させよう。
このレベルの本気が知りたい…!
「……」
「フン!お前も受け流しか!」
一応寮に入ってからオレの片手半剣・クンペルの練習はして、重心は把握した!まだ完璧ではないが使いこなせている!
受け流した後は……
「ウラッ!」
「ぐっ!」
一歩踏み込んでクンペルの柄頭でベゼック教官の腹を突いた。
どうせ防具を着込んでるだろうから思いっきり突いた。
そのまま両手で柄を握り、横切りに移った。
「チッ!」
惜しいッ!あと少しで防具に当たったのに…!
教官がおもいっきり後ろに飛び退いたので当たらなかった。
「強いな、お前には本気を出さなきゃならんだろうな…お前は動きが全く他とは違う。こんなにもゾクゾクするのは久しぶりだ!」
「それは良かったですねっ!」
オレは縮地で教官に一瞬で近づきつつ、中段で構えていたクンペルを両手持ちにして縮地の瞬間から体を捻りながらクンペルを横なぎに振った。
「ゼェア!」
教官は縮地を読んでいたのか、上段切りを繰り出して来る。だがしかし!
『[土柱!!]』
オレは縮地の進路上に土柱を出し、その土柱を剣で弾いて強引に体を半回転さした。そのままもう一回転し、教官の背を狙った。
さすがに怪我をさせられないのでギリギリで止めるように力加減はした。
キィン!という甲高い耳をつんざくような音が響く。
な!?いくら止めるつもりで放ったとはいえ後ろを振り返って受け止められるとは思わなかった。完全に死角を狙ったのに……
「ハァハァ。お前はいったい何故こんなにも強い…これが実戦だったら良くて相討ちというところか…」
「「「「オオ~!」」」」
一気に疲労感が出たのか呼吸を乱して教官が呟く。それを聞いた皆が拍手をオレに浴びせてくれる。
照れるけど嬉しいものだな、ついつい癖で頭を掻いちまった。
「お前の名前は?」
「ガルゥシュ・テレイゲルです」
「まだ片手半剣の使い方が甘いな。俺が教えてやる。一応これでもほぼ全ての武器はかなりのレベルまで扱える」
「よろしくお願いします」
はぇー、すごいな。ほぼ武器全部使えるとか……いい教官についてもらえて良かったかもな。
「今日はもう解散だ。明日は基礎授業と自己紹介だ。それでは解散!」
「「「ありがとうございました!」」」
入学初日から結構ハードだったな。
「ガルゥ!流石だね!!」
「ありがとう、ソフィ。ソフィの動きも良かったよ」
本当にソフィの魔法を使っての動きはとても良かった。参考にしたいぐらいだ。
「うん!あり……」
「君!ガルゥシュ君!凄いね!」
「すごいっす!マジで!」
「ガルゥシュ君凄かった~!」
「惚れたわぁ~!男らしくて、ス・テ・キ!」
うぉ。急に皆が近寄ってきた!最後の一人が野太い声をしているのがとても恐ろしいが……褒められるのは悪い気分じゃないな。
これなら楽しく学校生活を送れそうだ!




