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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第三章 冒険者…?
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29 ゼンエス

 

 今日は冒険者学校に入学する日である。


「ガルゥシュ、君は校長の噂は知ってる?」


 一緒に寮から出て学校に向かっているとき、ゼンエス・ナ・テヨメルはそうオレに聞いてきた。

 そう。寮でオレの同室になった男だ。爽やかな顔にうねりの入った金髪。12歳のクセになかなか身長の高いイケメン野郎だ。

ちなみに特待生は2人部屋で普通の生徒は6人か5人部屋だったはずだ。そう思うと優遇されてるよなぁ。

 あっと、名前から分かるかも知れないが、ゼンエスは貴族だった男だ。だったというのは、テヨメル家は下級貴族の騎士爵家で先祖が武勲をあげたとか。けれども四男だったゼンエスはどうせ継げやしないので家を出て冒険者になったそうだ。


 ゼンエスと会ったのは冒険者ギルドに行った翌日だった。

 学校の下見と寮に荷物を持っていくことになって、寮に着いたとき、先に寮の部屋にゼンエスがいた。

 ちなみに寮の部屋は宿屋よりボロくて少し狭く、ベッドが二つ並んであった。当然セドルがいい宿を選んだと言っていたから比べるのも良くないのだが……


「おや。君が僕と同部屋な子かい?よろしく。僕の名前はゼンエス・ナ・テヨメル12歳。得物は槍だよ」

「はい、よろしくおねがいします。ガルゥシュ・テレイゲルです」

「敬語はいいよ。僕の事はゼンと呼んでくれ。呼び捨てで構わないから。ガルゥシュ。」

「あ、あぁ。よろしく?ゼン」


 貴族だったっぽいけど年下に呼び捨てで良いと言われ、結構気さくな奴じゃないか。これなら仲良くできそうだ。


「ゼンエスくん、ガルゥをヨロシクね。じゃあな。ガルゥ。荷物はここに置いとくから。夕刻になったら俺たちはアシヤカ村に帰るから」

「あ、はい。見送りに行きますね。ありがとうございます父さん」


 そうだった、セドルはわざわざ宿屋から荷物を持ってきてくれたんだ。ちゃんと見送りに行かないと。2年は会えなくなるんだから。

 セドルが手を振ってきたので振り返し、セドルがニッコリと微笑んで背を向けて部屋から出ていった。


「さて、ガルゥシュ。君と僕は特待生として選ばれる実力の持ち主だ。ここはひとつ僕と試合をしてみないか?」

「なぜ?」


 急にどうした?なんでそんなことをする必要があるんだ?


「だって面白そうだろう?君は槍使いと戦ったことはあるかい?」

「まぁないですが…」


 確かに槍使いと戦ったことはないなぁー。ずっとオレの相手はダグラン師匠かソフィくらいだったしなぁ。


「いいじゃないか、やろうよ。ちょうど寮の裏側に空き地があるし」


 もうすでに槍に手をかけてるし、どんだけやりたいんさ。ハァー仕方ないか……


「じゃあ、一回だけやりますか」

「おっ!やってくれるか!よし。早速行こう!」




 …………………


 オレ達は装備をして空き地というか裏庭にやって来た。オレは師匠にもらったクンペルを鞘にしまったまま、ゼンは槍の穂先に布をグルグル巻きにして。

 およそ5メートルほど離れ向かい合った。

 スキルのレベルが高いし、ちょっと殺気を放てば怪しまれないだろうから【鑑定】してみるか。ということで【鑑定】!


 〔個体名:ゼンエス・ナ・テヨメル

 ・種族:ヒューマン

 ・性別:男

 ・年齢:12歳

 ・状態:健康

 ・レベル:13

 体力:113

 魔力:120

 攻撃力:63(+15)=78

 防御力:55(+10)=65

 素早さ:32

 ・所持スキル

(通常スキル)槍術Lv4 体術Lv2 気配感知Lv1 風属性魔法Lv2

 防御Lv1〕


 んーオレより大分弱いかも。余裕かもしれない。素早さが50も違う。師匠が言ってたようにオレはちょっと突出しすぎているのかもしれんな。

 ん?あー。風魔法で強化してるのか。魔力が集まってるからなんか小細工でもするのかと思っちゃった。


「よし。ガルゥシュは強化しないのか?」


 強化をし終わったらしきゼンエスが問うてきた。

どうやって答えようかな。オレが強化しちゃうと本当に大ケガさせちゃうかもしれないし。

 魔力感知持ってないから強化しましたって言うか。


「いえ、もう強化しましたよ」

「そうか素早いな。なら武器を構えたまえ。このコインが地面に落ちたら試合開始だ」

「分かりました」


こっちに見せてきたコインを合図とすることを了承し頷いた。実際にこんな決闘みたいな方法をとるのかと少し驚いたけど。

 

「よし」


オレが頷いたことを確認してゼンはコインを親指で弾いた。

ピンッ!という音が響き高く舞い上がったコインに耳を澄ませる。

 

土とコインが触れあった柔らかな音が聞こえた瞬間ゼンが走り込んでくる。


「てりゃあ!はっ!はっ!はっ!」


 ゼンは槍を上から振り降ろし、オレがそれを剣で受け流すと槍を突きだし連撃を加えてきた。

 オレはそれを剣で逸らし、一回後ろに跳ぶ。


「フッ、なかなかやるじゃないか!あれを全て受け流すとは!」


 よほど自信があるのか?戦闘中に喋り始めるのはダメだ、気が弛んでいる。


「まだ決着はついてないぞ」

「ふっ。そうだねっ!セイッ!」


 喋って油断を誘って槍を突き出して攻撃してくるか。まぁ遅くてあまり意味はない。そろそろ動きが緩やかになってきたし決着をつけるか。


「なっ!」


 オレは突き出された槍を踏みつけ跳びゼンの後ろに一回転して着地してクンペルをゼンの首に添えた。


「終わりです」


 やべっかっこつけちまった。大丈夫か?ちょっと衝撃与えすぎたかな?


「…す、凄い。こんなにも強いのか?」

「あんまり戦闘中にしゃべらない方がいいと思いますよ。油断を誘う戦略ならいいんですけど」

「あ、あぁ」

「えっと、荷物を片付けたいんで寮に戻りますね」

「あ、あぁ」


 あ、あぁしか答えなくなっちゃった。

 変に壁作られたら困っちゃうな…やっちまったかなぁ………


 ………

 よし。片付けは大方終わったかな。大きな荷物も片付けてみると中身は意外と少ないなぁ。


 ステータスのせいで額に浮いてもいない幻の汗を拭っていると突然木製の扉が音を立てて開き、ゼンが息を切らして部屋に入ってきた。


「ガルゥシュ・テレイゲル!君とパーティーを組ませてくれ!」

「えっ!?あっ!はい」

「よっし!ありがとう!」


 急に来られたせいで反射的に答えてしまった。まぁ別にいいんだけど……


それがオレ、ガルゥシュ・テレイゲルとゼンエス・ナ・テヨメルという、一生涯の親友の出会いだった。

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