25 入学試験
☆17/2/23 加筆修正しました。
「着いたぞ、ここで入学試験をするぞい」
着いたのは塀に囲まれたテニスコート3つ分位の土のグラウンドだった。塀に近い所に旗がさしてある。
あっ、他にも人がいる。ソフィよりも少し身長の高い、オレたちとそんなに年の離れてなそうな金髪の男の子と、恐らくギルド職員だろう細マッチョな男性がいる。
多分オレたちと同じ入学試験だろう。いまは剣の対人稽古をしている。まぁほぼギルド職員が受け流しているだけだ。男の子の方は息が上がってしまっている。
「おい!こっちも始めるぞ。まずはお前さんからじゃ、初めにここからあの旗まで強化無しで走れ。そのあと強化をして走ってもらうからの。セドルの息子なら強化くらい出来るじゃろ?」
「まぁ出来ますけど。走ればいいんですね?」
「おう、全力で走れよ。合図はわしが手を鳴らす」
「分かりました」
「いくぞぉよーい!」
手のひらから出た乾いたおとがオレの耳に入った。脚を引いて前のめりになっていたオレの体が一気に加速する。
加速を保ったままきっちりと走りきる。
「ふぅ。ゴール…」
この年齢の男児の平均よりはだいぶ速いだろう。ましてや前世のオレとは比べようもなくガルゥとしてのオレの走りの方が速い。
「なかなか速いの!こっちに帰ってこい!」
「分かりました!」
5、60メートルほど離れているため大声で会話をする。小走りで元いた場所に戻る。
「おし、帰ってきたの。今度は強化せい」
「はい。属性は何でもいいですか?」
「何種類も扱えるならの。普通は一種類しかちゃんと扱えないからの」
「えっ?一種類?普通は四種類じゃないんですか?」
「四種類なんぞ魔法の才のあったセドルのような奴しか使えんわ!多くて二種類じゃぞ?」
普通は一種類なのか。セドルが天才だったってことか。転生特典無しで四種類、セドル凄いな…ソフィもだけど。
「ボクは四種類全部使えますが…」
「なに!?お前さん四種類全部じゃと!?そ、そっちの嬢ちゃんは?」
「わ、私は三種類……」
「お前さんらそんなに魔法の才があったのか…ま、まぁいい。取り合えず強化して走れ…」
「分かりました」
ヨーデンさんは完全に呆れたようにオレたちの顔を見比べた。
詠唱はしたほうがいいかな。無詠唱でしちゃうと更に驚かせちゃいそうだし…
『風よ風よ流麗なる風よ。我が身体を包みて援助せよ…』
『水よ水よ清涼なる水よ。我が身体の力を援助せよ…』
うすーく青白いオーラみたいなものが魔力の残滓として周囲に勢いを持って広がっていく。
「うわっぷ!な!なんだ?」
「…お前さん、本当に才能あるな」
あれ?ちょっと魔力かけすぎたかな。抑えるか…向こうの男の子まで反応しちゃったし…
「何だったんだ…?」
「あれが全力か…お前さんそれでいいから走れ」
全力じゃあないんだけど……まぁいいか。
「よーい…」
再び乾いた音がオレの耳に届く。
一歩引いていた左足が地面を抉り細やかな草が低く宙に舞う。
瞬間、オレの脚が急速に回転する。そのまま数秒とかからず走り抜ける。
「おし、こんなもんだろ。戻ろ」
すでにこの世界で何年も生きてきたから、このくらいじゃ自分では驚かなくなってきた。
「は、速すぎる…地面が抉れておる…グオッ!」
「っとと、大丈夫ですか?ヨーデンさん」
「戻って来るときまで強化を使うな!とにかく驚いたわい。後で抉った土直しとけよ…」
「あ、はい。すみません」
やっぱりちょっとやり過ぎたかな?まぁいいや。
「次じゃ!ワシと対人稽古じゃ。お前さんの剣術を見てやる。あそこに木剣が置いてある、取ってこい」
見回すとギルドから出てきた扉の近くに木剣が入っている木箱があった。
「分かりました」
今度はゆっくり歩いて木箱まで行き、適当に二本木剣を取った。
取って立ち上がったとき、オレの左肩を力強く掴んだやつがいた。
「君!さっきの凄いな!あっ!俺の名前はレンベル・ツー・ボルチェッタ!君は?」
「えっ?あっ、はい。ガルゥシュ・テレイゲルです」
なんかグイグイ来る人だな。急に人の肩をつかんでガクガク揺さぶりながら聞いてくるなんて…
「テレイゲル!?セドル・テレイゲルの息子さんかい?そりゃ凄いや!ガルゥシュも冒険者学校に入学するんだよね?ヨロシクね!」
「エ~あ、はい。ヨロシクです…肩を離してもらえるとありがたいんですが……」
「ご、ゴメン!俺興奮し過ぎてたよ。まだ試験中だったね。冒険者学校で会おう。じゃあ」
ちょっと苦手かも知れないな。まぁでも多分同級生だろうし仲良くしよう。
「おい!まだか!」
「すみませーん!すぐ行きます!」
箱の中にはいろんなタイプの木剣が入っていた。まぁ長さと大きさが違うくらいだけど。
「はい。ヨーデンさん。どちらの剣ですか」
「大きい方だ。じゃあ、ワシに一撃当ててみせい。ただしお互い強化は無しじゃ」
「わかりました。では行きますよ」
「こい!」
縮地は使わない方がいいな。純粋に剣術を見るだろうし。取り合えずまっすぐ上段から…
「はっ!」
木と木の乾いた音が響く。
受け止められた。すぐに身体を捻って右から横なぎに…
再び木の音が広がるが今度はかん高い音。
これも受け止められるか。なら今度は一回押して突く!
避けられた!下!右から来る。
二合打ち合う、カァン!コォン!と異なる音が響く
ヨーデンさんの体勢が崩れた今だ!
シュッ!という素早い剣の振りが出す音。
今度は木と木の打ち合う音ではなくバコッという低い音。
「グフッ!」
ふう。最後はヨーデンさんの脇腹にオレの横切りが入った。ダグラン師匠と稽古をしてなきゃ一本取れなかっただろう。さほど全力はお互い出してはないと思うけども…
「…ハァ、ワシも年かいの。お前さん剣術も高いレベルじゃな。文句無しの特待生じゃ。そう学校に伝えよう」
「あっ、はい。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃわい。フゥ喜びもせんか。まぁいいわい、次は嬢ちゃんじゃな」
そうだ、まだソフィの試験があるんだよ。
「は、はい…」
「嬢ちゃんは後衛志望じゃから魔法試験じゃ、ワシが土魔法で出来る限り堅くした岩を出すからそれを貫通させい。属性は何でもいい」
「わ、分かりました」
「がんばって、ソフィ。落ち着いて、緊張しなくてもソフィなら出来るよ」
「うん、ありがとう!ガルゥ」
ソフィは何を選ぶかな?風か水だとおもうけど。[風矢]かな?
「岩を出すぞ。離れろ」
「あ、はい」
『土よ土よ大地なる土よ。我が意に沿いて岩塊となれ[岩造]』
ヨーデンさんが使ったのは土魔法の中位魔法で[岩造]というものだ。結構応用力があるんだよな、何も無いところに岩を作ったり、石を岩に変えたり出来る。まぁ魔力次第だ。
出来たのは2メートルくらいの大きな岩だった。
「よし、こんなもんだろう。ワシは土魔法ならちゃんと使えるぞ」
ドワーフはやっぱり鍛冶のイメージ的に土魔法だよね。うんうん、この世界分かってるわ。
「さぁ嬢ちゃんいいぞ」
「はい」
『風よ風よ。我に応じて剣となりて敵を断て…[風斬]』
おお、初めて見るな。[風斬]か。さぁいけるか?
目にとても見えにくい風の刃が素早く飛び、岩を貫通して上下に分けた。
「おっ!」
「フム、魔力の練り込みもいいし、詠唱もスラスラと出来ており、しっかり切れてる。文句無しの合格じゃな。嬢ちゃんも特待生じゃ」
「…ふぅ。やった!ガルゥ!」
「………おめでとうソフィ、いい魔法だったよ!」
いやぁ、まさか抱きつかれるとは。いい身体になってきたね!ソフィ!
「戻るか。学校の寮の手続きをせんとな」
「はい、分かりました」
「うん、パパとママに知らせなきゃ!」
こうしてオレたちはヨーデンさんを驚かせつつも入学試験に特待生として合格出来た。




