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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
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98 治癒

 

 無呼吸に近かったダッシュを終えて、細く息を吐く。

 吐き終わって吸い込んだ空気は熱く、肺を焼くようだった。

 それも当たり前だろう。

 今目の前に煌煌と赤く燃える荷車が見えてきたからな。


「ゴホッゴホッ」


 後ろでクラメかクラベのどちらかが咳き込んだようだ。

 火が見えてから煙を吸い込まないように腕を口許に押し付けているからオレは大丈夫だが。

 とにかく奥にセーベがいるいないに関わらず通らなくては。


 この状況を見るにやはり遅かった、色々と起こってしまっているようだ。

 セーベがやったんだろうか。どちらかというとテーベが行動したんだろうけど。

 それに感知が捉えているが、奥に三人ほどの気配がある。

 一人会ったことのあるやつっぽいが……誰だ?


 《感知が撹乱されています。この撹乱方式が該当するのは一人でしょう。クレハーロギルドマスター、ボルキー・ヒキュウです》


 おぉ、久々にアンに答えを貰ったような。

【解答解説】というスキルがアンの正体だが、精子の頃からお世話になってるから正しいことしか教えてくれないことを知ってる。

 最近はオレ自身で答えを出すことが多いから、物凄く正確に答えを伝えてくれるアンはやっぱり確信を与えてくれるなぁって思う。

 今のアンのお陰で恐らく味方であろうボルキーがいることが分かった。


 この情報があるだけで少しでも安堵出来る。

 奴は多分一般人とは比べようもなく強いだろうから。

 敵だったら……は考えたくはねぇな。

 ふぅ…まずはこの荷車をどかすか。


「くっそ、通るぞオイ! こんな火なんてこたぁねぇ!!」


「ちょっ! 待てっ兄貴! ガルゥシュが火を消すって! 突っ込もうとすんなって!」


 おいおい、ちょっ、や!


「マジで走りだそうとしないでくれ! すぐやっからさ!」


 焦らせるよ、まったく。

 こっちを急かす目で見てくるクラベを感じながら頭の中で急速に魔法のイメージを固めていく。

 出すのは少し粘り気のある水。

 粘り気があれば火を上手く抑えて早く消せると思ったからだが。


 手のひらから魔力を放出するようにイメージを固め放つ。

 一気に大量の粘り水が出て火を消していく。

 普通の水を使うよりも圧倒的に少量かつ消音で火が消えていく。

 ついでにいえば消した時に出る水蒸気も随分と減らすことができているように感じる。

 残ったのは煙っぽい通路に炭になりつつある木製の荷車。

 これはもう荷車としては使えないだろな。


 と、荷車から目線をあげた途端パチッと目があった。

 ニヤッとした口元が特徴的な貧乳の女。

 なんで上半身サラシだけなんだアイツ。


「うヒヒッ! 少年~! やって来ちゃったよー?モルゼルきゅーん?」


 ボルキーがどっちに話しかけてるのか分からないが、話しながら行っている剣戟は激しい。

 剣戟の相手はスーツにも似た黒のコート、一見すると普通のおじさんって感じだ。

 まぁ、かーなり清潔な部類だろうが。


 つーかよくもまぁ……あのえげつない刺突を短剣の薄い刃で防いでるな。

 かと言って…だ、こっちを全く無視していると言うわけではない。

 オレだったら確実に捌いているだけで精いっぱいになってるだろうことは間違いない。


「んにゃーに? 押し黙っちゃってさー」


「……はぁ、無駄か。これ以上粘る必要もないな」


 ボルキーにモルゼルと呼ばれた男が言い終えると、チラリと転がっているデブに目を向けた。

 デブは状況についていけてないのか、アバアバと首をこちらに向けたりあちらを見たりしているだけだ。

 オレだって若干状況についていけてないんだし…


「撤退する気~? ダメさねー、ここを通りたくばあちしを倒していきんさいー?」


「はっ、それが出来ていたらこれほど苦労はしない」


 モルゼルさんはどうにもボルキーに苦労しているようだ。

 確かにあの剣戟は息つく暇もなさそうだ。

 オレがダグラン師匠に教えられた剣は剛の剣だから速さがある剣には慣れてないんだよな。


「っ! セーベッ!! セーベ、オイ!」


「兄貴、揺さぶらない方が良い! 大丈夫だって」


 オレの隣をすり抜けてクラベがセーベに駆け寄る。

 クラメが一応脈を計ってくれたみたいだ。

 大丈夫の言葉に少しホッとする。

 今は疲れはてて眠っているのか、それに所々血が滲んだりしているのは見ていて痛々しい。

 治癒魔法をすぐ掛けることの多い、この世界では重症患者以外ではなかなか傷を見ることは少ない。

 瞬間の痛みには強いこの世界の住人だがなるべく早く治癒すべきだな。


 《セーベ・リースタに施した光学迷彩のデータを回収しました。耳の部分に損害を受けたようです、これを基に再度データを組み直します》


 って迷彩が剥がれてるのか。

 アンが組み直してくれるなら問題ないか。

 とにかく治癒を掛けよう、変に時間を空けるとアザとか残っちまうからな。


 っと、と。何かつまずいた。

 んあ? っわぁ! なんだこれ!

 ひ、人か? あ、こいつが神父じゃねぇか。

 ボロボロの神父だ、こりゃこいつも治しておいた方が良いか?


「少年ー! 君らのおんにゃの子をそんなにしたのソイツじゃよー? 死なない程度に治癒するぐらいならいいんじゃにー?」


「うげっ、マジか!」


「あぁ!? こいつが──セーベに!!!」


 うっそ、聞いたこともないような怒気を孕んだクラベの声に思わず剣を抜きそうになってしまった。

 オレとしたことが……いや、別にそういうプライドみたいなものは持ってないけど。

 クラベをこの神父に近づけるのは得策ではないな、容疑者ではあるが裁くのはクラベじゃないし。


「クラベ、落ち着け。セーベは無事だ。治癒魔法で治せるし、この神父の野郎をお前がぶちのめす必要はない。今この通りボロボロだしな?」


 なるべく落ち着かせることを念頭にゆっくり話す。

 話している間は神父をオレの体で遮るようにして、だ。

 んで、クラメにアイコンタクトでクラベを任すように促した。

 亜人側であるリス族のクラベに比べて……人族のクラメの方が体格は良いから何とかしてくれるだろう。


「……ってことだ、兄貴。せめてセーベを休ませられる場所につれていこう」


「フー……フー、分かった。ガルゥシュ・テレイゲル、お前が早くセーベを治せ。じゃねーと、ここから動かねぇ」


「分かった、分かった。──助かるクラメ、落ち着かせてくれて」


 鼻息の荒いクラベを落ち着かせてくれたクラメに小声で感謝する。

 実際、オレ一人じゃ力ずくで落ち着かせるしかなかったかもしれねぇ。

 とにかく焦って手に負えなくなる前に早く治癒しよう。


「光よ。我が手より浸透せし光よ、癒し糧となれ【光癒(ライトヒール)】」


 力強い光の輪がセーベの小柄な体を包みこむ。

 一際光輝いたあと、大きく負傷していた脇腹を除いてほとんど回復していた。

 脇腹は、あばら骨が折れていたのか治癒の効果は十分に発揮できてなかったようだが肌が紫色から薄青ぐらいまで回復できたから自然に治るだろう。

 治癒を掛ける前より呼吸が楽そうになっているから成功だな。


「─っ、ありがとう、良かった。俺じゃ魔法は使えねぇーから…」


「いや、悪かった。元々はセーベを助けに来たのに焦らすような感じになっちまって」


 ため息をついたクラベだったけど特に何も言うこともなくセーベを抱き抱えて通路を戻っていった。

 さて、片付けるかこの現状を…

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