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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
109/115

不退転

どうも、作者さんです。

少々話が飛んでいます。

三話前の“地下道”の続きとなっていますのでそちらを呼んでからの方が状況を把握しやすいと思います。


 


「女神に供える神前試合にでも致しませんか? この様なところでは勿体ない…」


 神父の謎提案が耳に入る。

 理解することは放棄するぞ、クソッタレ。


 ふぅ、逃げ道は後ろにはない。

 道が分からないし、アタシは逃げるような性格じゃない。

 セーベは難儀だと感じてるだろうが、テーベとしてのアタシ自身は結構好きだ。

 攻めて攻めて、ぶちのめす。


 拐われたアタシがただ指をくわえて生贄になるわけがない。

 こういうことはすごくむかつく。

 ふざけんなって思ってる。


 このクソ神父は間違いなくぶちのめす。

 その為に前に進む。

 彼我の距離はおおよそ五歩。

 跳んでも一歩は足をつかないと届く距離じゃない。


 ましてやこいつの反応速度は侮れないものがある。

 集中しろ、見極めろ、こいつの弱点はなんだ?

 活用しろ、狭い通路を。

 何も正攻法で倒す必要性はない、不意でいい。


 戦う前の異様な静けさ。

 息を吸う一瞬がアタシはめちゃくちゃ好きだ。

 戦いは瞬間だが、この決着は分からないんだから。

 たった何分が予測できない戦い。

 ゾクゾクする、無意識で口角がククッと吊りあがる。


「──ッシ─!」


 荷車を粉々にふみくだく位力強く、斜めに飛び出す。

 アタシの目的は壁だ。

 地面よりも壁の方が幾らか近い。

 あくまでも視線は壁に向けない、こいつの顔を見る。

 勘で壁を蹴る、神父はまだ動いていない。

 殴れる、そう思った。


「─ックハッ」


 笑った?

 その瞬間に神父がブレる、ッ!

 しまった! 合わせられた。

 単調な横蹴り、空中にいるアタシには避ける術がない。


「がっ!!」


 あばらの骨がおれるかと思うほどの衝撃、弾かれて壁に当たって落ちる。

 痛みによる身の固さに息が吸えない。

 身を捻って急所を避けてコレだ。

 捻らなければ顔面にいっていた。

 ジリジリと神父は下がっていたんだろう、元の位置であれば、蹴りは当たる範囲じゃなかった。


「いやぁ、困りますよ。先程言いましたが、女神への供えにしましょう?」


 音をたてて歩き、妙に正した姿勢でアタシの顔をのぞきこむ。

 今、アタシの顔は苦しみにまみれているだろう。

 脂汗が滲み、ひりつく肌と食いしばった歯。

 かなり厳しい状況だ。

 あんな一発で…


 ──やっぱりアタシは井の中の蛙だった。

 リス族の中でアタシには敵がいなかった。

 それはアタシの素早さに勝てるやつがいなかった性でしかない。

 ガルゥシュの奴や、この神父、恐らく里の外にはアタシに余裕で勝てる奴はごまんといるのだろう。

 今になって自己嫌悪に陥る。

 だけど高みは限りなくあるのだと、理解し成長しなきゃいけない。


 だから!! こんなとこでくたばってられねぇーんだよ!!


「がぁぁぁぃッッ!!」


 胸が張り裂けそうな苦しさを全力の咆哮によって掻き消す。

 もはや神父の顔すら見ない、要らない情報は捨てる。

 叫ぶ、芯から。


 横たわった状態から可能な限り瞬時に動ける体勢に持っていく。

 前に足を振り上げたあと体を捻り、尻尾をバネのように使って跳ね起きる。

 その反動は体が引っ張られるくらい強い。

 その強さを勢いを使わない手はない。

 勘で神父のいるところを殴る。


 空を切ろうとも構わない。

 アタシが狙ってるのは神父であり神父じゃない。

 直接の攻撃はオマケ。当たればもうけものだった。


 そして狙いは成功した。


 辺りが急激に明るくなる。

 広がって燃える。

 燃える……の通り、アタシが狙ったのは扉の横、壁にかかったランタンだ。


 それを強引に外して投げた。

 一直線にランタンは飛び神父の奥、木製の荷車に当たって弾けた。

 外では雨が降っていたが、この荷車は乾燥していた。

 多分地下に元々置いてたのを使ったんだろう。


 荷車は結構大きい、地下の細い道では少しギリギリぐらいの幅がある。

 退路を絶つ形になったわけだ。


 さらにアタシにとっての幸運が降って湧いた。

 神父の服に燃え移ったんだ。

 火は小さいが奴は気づいていない。


「……自棄(やけ)になられたのでしょうか? まだ脇腹が痛むでしょうに。時間制限を設けられたというのであれば面白いですが……」


 確かに半分は自棄だ、ヤケクソだ。

 だけどよぉ、こういう不退転の意思がアタシを強くするんだ。

 地下道は狭い。火は広がり続けている。

 脇腹は痛みが分からなくなってきてるが問題ない。


「─けっ、絶対ぶん殴る」


 思わず口をついて出た言葉に神父の口角がニマッと上がる。


「ははぁ感服です。では…楽しみましょうか!」


 ッ!!

 マジか! チクショウ。

 向こうから攻めてくるなんて!

 正直な正拳か!?

 左の正拳がアタシの眼前に迫る。

 身長の低いアタシにそれは悪手だぜっ!


 限界まで低くした姿勢は四つん這いになる。

 拳が右耳にかするが痛くはない。

 そしてこの姿勢はアタシが一番得意とする、あの型が使える。


「……六趣拳(ろくしゅけん)尻深樫(シリブカガシ)の型」


 四つん這いになった利点は三つある。

 まずは姿勢の低さ。

 純粋に対面する面積が少なくなるから、大方の攻撃を避けられる。

 さらに尻尾を有効的に使える。

 これは獣族にしか出来ないことだが、尻尾というのは使い勝手がよく手のように動かせる、強い武器だ。

 そして、速い。

 とにかく四つん這いの獣族を舐めてはいけない、二足歩行とは違い瞬発力も持久力も前に進むだけなら計り知れない速さとなる。


 地を蹴る、荷車の時とは比べようもない加速。

 一瞬にして近づく。

 まずは右拳を胴体にめり込ませる、続くように曲がった奴の顔を尻尾で跳ね上げるように収縮し弾く。

 アッパーの形になったわけだ。

 のけぞった神父を更にさらに殴る。右左と。

 そこで一旦神父の体から離れる、離れるといってもホンの少し。

 丸まった状態から尻尾を地面に付け、両手両足を自由にする。

 そこで尻尾で地を蹴る。

 右手は顔面を、右足は鳩尾(みぞおち)に膝蹴りを。

 左手は胸ぐらを掴み、左足は右足が離れた辺りでまっすぐ蹴る。


 体が離れそうになるがまだ続く。

 左手で胸ぐらを掴んだことでもう一度右拳を顔面に叩き込むッ!!


「ッハ……ハッ」


 神父は荷車の近くに倒れた。

 アタシももう限界だ…脇腹が今になって強烈に痛みだした。

 明らかに真っ青に腫れ上がってるだろう。

 今までで一番手数の多い攻撃だった。奴の顔面を殴れたのも良かった。

 それに満足し、アタシの攻撃は終わった。

 もう──立てない。


 うつ伏せにたおれこんだ、構いやしないだろう。

 神父は起き上がってくるまい。


「………く……も」


 何かが、聞こえたような気もする。

 荷車がパチパチと燃える音が変に聞こえたのかもしれない。


「……よく…も!! …やりやがった…ぁなぁ!!!」


 聞き間違えじゃない! 神父だ、まだ終わってなかった。

 立ち上がった神父が一歩一歩と近づいてくる、アタシも立ち上がろうとして…─ッヅ!

 痛みで立ち上がれない!

 靴だけが見えている。


「─っがぁ!」


 顔面を蹴り上げられた、そのまま髪を掴まれる。


「─供物だから痛めつけ、言うことを聞かせてやる、許さんからな…」


 怒りで無駄に穏やかだった口調が変わり果てている。

 お互いに顔も体もボロボロだろう。

 少なくとも口には血の鉄の臭いが充満してる。

 奴の顔は腫れ上がってしまっているし。


「──きゃっ! ぐぁ」


 髪が何千も千切れそうな勢いで投げられた。

 固い扉にぶつけられた、背中からいったが尻尾があってなんとか耐えた。


 扉から錆び付いた蝶番(ちょうつがい)が軋む音が耳に障った。

 ギギッと扉が傾いて倒れる、埃が散り奥の部屋に通じた。



「あ? 何が転がり出て来たんさね?」


 何処かで聞いたような…それも最近だ。

 昨日だったか? アタシじゃなくセーベが聞いたんだろうけど。

 特徴的な語尾だ、女の声を聞いて目がかすみ始める。

 元気なのは耳だけかもしれない。


 限界が来る前に現状の場所の把握を……

 天井は地下道じゃなかった、狭くもない。

 白く明るい大きな部屋にたおれこんだ。


 場所が何かの部屋だと予想したところで意識は落ちた。


はい、作者さんです。

バトルシーンというのはやはり難しいですね。

戦闘の瞬時性を考えると、文章はダラダラ長くなる可能性があるので簡潔に書くことが課題ですね。

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