94 誘拐
どうも作者さんです。
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか。
いつもと違う場所にいきたいです、異世界に行けるもんなら行きたいですがね。日帰りで。
未だ雨が強い。
暗雲が立ち込めゴロゴロと雷がなっている。
「ソフィティアは旅立ったんだな…別れだけでも言いたかったよ」
ゼンが壁に寄りかかりボソリと呟いている。
彼の髪は雨に濡れ落ち込んでいる。
「別れを言ったら引き留めるって分かってるからでしょう。別れを言われたら説得するもの、少なくとも私はね」
クレールがゼンの言葉に呼応して言う。
彼女が言うことについては限りなく同意する。
ソフィならば間違いなくそうするだろうから。
…現にそうしてるか。
「仕方なかったんだな」
クラメが達観したように言ったがそれは違うような気もする。
仕方なかったんじゃなく、ソフィが色々考えて動いた必然なんだ。
それを考えたのが、どのタイミングだったのか分からないが。
オレたちはソフィを探し出せなかったことを悟り、誰が言い出したでもなく集まっていた。
場所は学校の中、研究室だ。
オレたちの溜まり場だったりするここは椅子が多く、話し合うのに向いている。
クラベもここにいるし誰と一緒に探してたんだろ。
男組だとは思うけど…そういや、どこで寝てたんだろうかコイツ。
あ、ひとつだけ空き部屋があったな。多分あそこだろ。
オレが落ち込んでる間にクラメたちが寮母さんに頼んでたような気がしないでもない。
はぁ、寒気がする…
精神的にまいってるのか。
本格的にルーメンに疲労回復魔法教えてもらおうかな…
そういえばアイツどこにいるんだ?
セーベは?
「おい、セーベを知らねぇか? ここの場所もしらねぇだろうし…」
「確かチヌネアが連れて出たはずだけど。そういえばチヌネアもいないわね」
「…おいおい、なぁただでさえ知らねぇ街だぞ? もっと慎重さってもんがいるだろ」
クラベが自分の経験からくる緊張を感じているのかセーベの心配をしている。
オレも気になっていたが…チヌネアが連れてったのか。
う~んチヌネアか…大丈夫か?
無性に不安になってきたな…アイツ責任感皆無だから。
ハァ新たな心配事が出来ると落ち着く暇が無いな。
いや、落ち込む暇といった方が今のオレにはお似合いか。
「チヌネアちゃんなのねぇ…大丈夫かしらぁ」
「チヌはなぁ…やっぱワタシがついていくべきだったか」
ピタシーナとエミッタが不安を口にする。
その時研究室の扉が開き、妙に疲れたチヌネアが入ってきた。
「あ、チヌネア。どこにいたの?」
「ちょっと…やらかした。…手伝って」
ん?
何かあったのかな。
声をかけたクレールが椅子から腰をあげチヌネアの濡れた髪をタオルで優しく拭く。
されるがままなチヌネアはクラベに対して申し訳なさそうな目線を向けたあと口を開けた。
「…セーベが拐われたっぽいの…」
「はあ!? ふざっ!」
瞬時に反応したのはクラベだ。
掴みかからんばかりに彼女に詰め寄る。
幼馴染みであり片想いの相手が拐われたと聞いて激昂しないやつはいない。
オレでさえ心胆が冷えきる思いがし、怒りが沸いた。
だが、待て。どうしてわかる。
「まて、クラベ」
「あぁん? …んだ? 邪魔すんなぁ」
「チヌネア、事細かく説明しろ。拐われたと思った理由を」
オレはクラベが掴む前に彼女に質問した。
クラベに背を向ける形になるがさすがに殴ったりするまい。
こういうときは焦ってはいけないと最近気づいた。
と言っても、焦るがな。
ただし判断は理由を聞いたあとでも遅くはないだろう。
「…え、刻印札を…渡した」
「刻印札か。納得した」
「はぁ? そりゃなんだ」
答えに納得したオレだが彼は違った。
えっと説明は…
「魔力を木の板に刻印した位置検知する魔道具だよ。お値段は結構するんだけどね」
「う、うん? あ~分かった」
あ、わかってないヤツだこれ。
猪突猛進で頭の方は緩そうだもんなクラベは。
だいたいオレのイメージとしてだが、防犯ブザー付きのGPSで合ってると思う。
実際の刻印札はなにか起こるともう片方の札が割れる仕様だが。
「とにかく、探しに行こう。最後の反応場所は判るか?」
「…ん、問題ない」
コクリと頷いたチヌネア。
振り替えると椅子や机から立った皆がいた。
重い腰をあげるように…いや、別にダルいとかではないだろうが純粋に疲れているのだ。
雨は未だに降っている、仕方ないとはいえ濡れるだろう。
傘は高級品だ、カッパを着るしかない。
「っし…行くか。兄貴はちゃんとカッパ被りましたか?」
「お、おう大丈夫だ。ただ尻尾が入らねぇ」
「……もう一枚使って縛りましょうか」
クラメがクラベの世話をしている。
いい舎弟だこと。
「じゃあ行きましょうかぁ。セーベちゃんを助けにぃ」
「おう、チヌネアを頼む。ピタシーナちゃん」
「ええ、おまかせあれぇ」
「……おねがい」
移動の遅いチヌネアはピタシーナが担ぐ。
これは結構よくあった事だから二人に動揺はない。
若干チヌネアが嫌そうな顔をするだけだ。
「…教会が最後…だと思う…」
そうしてピタシーナにお姫様抱っこされたチヌネアの情報から教会に向かう。
刻印札を使っての正確な位置の割り出しはコツがいる、ぼんやりと方向と距離が分かるだけだから。
チヌネアは少し自信無さげであったが、この街で消息をたったのなら…
必ず見つけだす。
セーベの場合はソフィのように選択ではない。
誘拐、拉致だ。
雨は激しさを増していたが、雷だけは鳴っていなかった。
☆
あるところで視界が開けた。
闇が溶けた。
理性のない精霊たちが自ら行動を止めるとは思えない。
目を開けた先には恐ろしい笑顔を浮かべた神父がいた。
ヤツは私を誘拐したんだと思う。
ゾッとした。
彼の手には分厚い刃を持ったナイフがおさまっていたから。
「にひぃ、ふふほ。おっとオハヨウございます」
「─ン"ン"ー!!」
「あぁ。申し訳ありませんが猿ぐつわをさせていただきました…女神への生贄として大人しくしていただけるとアリガタイですねぇ」
太い紐が私の口に入っていた。綱といった方がいいか。
後ろ手に結ばれ椅子に座らされている。
薄暗い部屋だと思う。暗視が効く種族だから明るく見える。
ナイフを弄ぶ神父が。
ヤツは長帽子を外し白髪の髪をかきあげた。
「いやぁそれにしても…ですねぇ。まさか獣人だったとは。上手く隠してらっしゃる」
ヤツの言葉に驚いて後ろを向いた。真っ白な尻尾が濡れて嫌な臭いが鼻についた。
尻尾の迷彩が衝撃で剥がれていたんだ。
座るのに邪魔にならないよう椅子の背もたれの隙間から出されている。
場所はわからない。
どこか建物の中だとはおもう。
耳が雨の音を遠くに感じてる。
時間もわからない、寝てたようだから。
内心ものすごく焦っている。
あ、怖い、こわいこわいこわい!!
意識するとダメだ。内側からの恐怖と恐れが怖い。
リテラお母さんの能力で見せられた夢にもこんなふうな誘拐はあった。
けど! 現実は明らかに違う!
肌が焼け付くように暑い、だけど足や指先が氷のように冷たい。
胃液が上がってくる。
目の焦点が上手く合わせられない。
そ、そうだ、ルーメンは?
ダメ、いない。少なくとも目に入る中にはいない。
ひとり?
ゾワッと悪寒が背筋を舐める。
──代われっ
もうだめ、お願いテーベっ!!
……
瞳孔が狭まる、瞳が赤く紅に輝く。
意識はしてない、ただそうなる。
ザワリと耳も髪も逆立つ気がする。
苛立ちだ。
苛立ちを感じる、目の前のこの男に。
んだ、この猿ぐつわ…ざけやがって。
セーベは耐えられない。
こんなことはアタシが受ける。
アタシのほうがこういうゾワゾワするのに対処してやれる。
「おや、どうにも雰囲気が変わりましたか? …あぁ! ようやくお喜びになられましたか! 女神の供物に選ばれたことを!」
ほざけ…!
こんなヤツが信徒になるぐらいだ、女神ファワセとやらもたかが知れてるな。
「さて、落ち着いてらっしゃるならそろそろ行きましょうか…ナイフで紐を切りますが暴れないで下さいよ…」
右手にナイフを持って歩いてくる。
衣擦れの音とアタシの鼻息が室内に残る。
摺り足で歩いてアタシの後ろにたった。
「いやぁ、それにしても獣人にこのような白き種族がいたのですねぇ。神の使いでしょうか? いえ、さすがに違いますかねぇ」
うざってぇこと、この上ねぇ。
尻尾を見て、のたまう神父の下卑た眼差しが浮かぶ。
まぁ、いい。
自由になったらボコボコに打ちのめすだけだ。
せめて手足両方動かせるようになったらだが。
「おっと、手を先にしては危険でしょうか。足だけ切らせていただいて…歩いてもらいましょうか」
そう言って前に回り、シュッと紐を切った。
瞬間、顎先に向けて蹴りを入れる。
いい感触ッ!
そのよく回る舌でも切れやがれ!!
仰け反った神父は少し顔を下げてニヤリと笑った。
嫌な予感がして足を見る。
チェッ、当たった感触は手首だったか。
完全に防がれた。
せいぜい右手首の骨折ぐらいか。
「フホホ…残念です。またお眠りしていただきましょう」
クッ、また…
神父が腕を払うと急に何かが纏り付く。
次の攻撃は出来なかった。
頭突きも蹴りも両方片手で弾かれ、椅子に固定された状態ではそれ以上のことはできない。
想像以上。
この男はアタシを軽くあしらうことが出来るやつだ。
神父が指を鳴らす。
その瞬間、感覚が麻痺したように意識が闇に沈んだ。
はい。作者さんです。
ニコニコ超会議に行きたかった件。




