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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
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92 焦燥 / 唇

どうも。作者さんです。

寒暖さが激しすぎて衣替えが出来ません。

体調を崩しやすくなるので気を付けたいですね。

 

 全速力で駆け抜けようとも感知は様々な魔力を捉える。

 しかし、その中にオレが望む魔力反応は無い。

 泡立つような焦燥が胸を衝く。


 どうせ範囲外まで見えないのに無駄に目をありとあらゆる場所に向ける。

 人混みを身を翻しながら避けていく。


「クソッ、…クソッ」


 足掻くことしか出来ないこの状況にイラつきが増していく。

 帯剣しているクンペルが走るのに邪魔だ。

 考えろ。

 オレがソフィなら…?


「馬車…? 移動を優先するハズ…」


 移動すればオレに会うこともない。

 会いたくないから別れの言葉も告げず移動する。

 馬車でなくとも何か移動手段が…


「ッ!?」


「おほーい! どこ行くんさね君」


 走るオレの前に割り込んできた奴。

 相も変わらずニヤついた笑みを引っ付けた奴。

 クソッタレ、ビビるからやめろや。


「おい、ギルマスさんよ。邪魔だ。退いてくれ」


「んーにゃ、ヤダ。気になるもん」


 あ~あ、めんどくさい奴に捕まった。

 ハァ、しかもここ裏町なんだが…奴隷商や風俗ばっかりの暗闇。

 こんなとこで大声で喋っているのは誰がどこで聞いてるか分からないから嫌だ。

 ボルキーめ、こんなとこにいるなよな。


「かったるい。あのな、別にお前に言う必要ないだろ?」


「なんでさー、いいじゃーん。そんな素っ気なくして反抗期かーい?」


「チッ」


「あー舌打ちしたっしょ? そんなイライラしても仕方ないこともあるさね?」


 うるせぇわ。

 イライラしてるのはお前のせいだろうが。

 クソッ、こんなことをしてる間にもソフィは手の届かないところに去ってしまう。

 あ~マジで邪魔だ。

 オレの動こうとする方向を的確に止めてくる。


「本当に退けよ。追っかけなきゃいけないんだ」


「おっ、何を? いや、だれ?かな」


 勘だけは働くんだよなコイツ。

 別に言っても支障ないか…


「…ソフィだよ、サリシャさんの娘だ」


「ほーん? あの子かぁ。そりゃ追っかけなきゃね!?」


「分かったのなら、どけよ」


「手伝って挙げよっか? 面白そだし」


 気まぐれの行動はやめてほしい。

 やっぱり不安なんだよ、コイツは。

 おそらく何年たっても不安だろう、信頼を全て預けるのは。

 それは誰に対してもか。


「まぁ、手伝ってくれると言うのなら。ソフィに何か危害を加えないと誓えよ」


「誓う誓う、健やかなるときも~病めるときも~」


 結婚の誓いの言葉…何で知ってんだよ。

 いらないことを孫に教えるな。

 転生者のクソジジイめ。

 もう早くコイツから離れよう。


「じゃあお前はあっちを探しにいってくれ」


「ヤダ。サビシイじゃん? 一緒に探しょ?」


「論外だ。無駄なことはしたくねぇ。今は一分一秒争うんだよ、頼むから黙って探してくれ」


 ヤレヤレとでも言いたいのか、首を振りやがって。

 もういい、早く馬車乗り合い所を探そう。

 荷馬車にいく可能性もあるし、さっさと確認しなきゃ。


「中央街の荷馬車を見てくれないか? オレはそこの東馬車乗り合いを見るから」


「あーい、わかりんちょ。馬車に目を向けたのはいいことさね」


「何でもいいよ、じゃ頼んだ」


 返事を聞かずに走り出す。

 はやくはやくと、急かす心が足を速く動かす。


 ─着いた、居てくれ!


 感知には引っ掛からない。

 居ないのか、アンも反応しない。


 次行こう。

 だんだん乳酸がたまって脚が悲鳴をあげてくるがそんなもんお構い無しだ。

 とにかく走れ!


 ……


 東にも南にもいない。

 全く反応を感知しない。


 もう…もういないのか?

 クレハーロには…

 焦りがとめどなく心の蓋を押しだし、血の気が引いてきている。

 怖い、会えなくなるのが怖い。


 現代地球のようにビデオ通話が出来る、移動が速いというのならここまで怖くはないだろう。

 ましてや、この世界には魔物がおり奴隷に落とされる法があり、金銭格差が半端じゃない。

 どこかで命をおとしたり、二度と陽の目を見ない場所におとされるかもしれない。

 この世界は安全じゃない。


 あ、脚が動かなくなる。

 心の動揺に連結して全速力から駆け足、やがて足が止まる。

 どうしようとも動いてくれない。

 周りの喧騒が耳に入っては消える。

 見つめる石畳はいかにも冷たい。


 勝手に体が受け入れてしまった。

 どうして追う必要があるのかと。

 ソフィにもやりたいことがあり、オレから離れることを選んだのもソフィだ。

 もういいじゃないか、彼女には彼女の選択肢がある。

 オレの側にいたって何かが変わるわけでもなし、成長を促すものでないことは明白だろう。

 何せオレはソフィを甘やかしたいんだもの。


 甘いのだ、絶望的に。

 どうしたって側にいれば甘やかしてしまう。

 前世で妹が産まれてすぐはずっとそんな感じだった。

 オレが中学生頃から妹はオレを毛嫌いし、弟の方に頼り始めた。

 弟は優秀で妹とも年が近かったからだろう。

 つくづくタイミングも能力も良くない。


 きっとソフィに気づかれたんだ。

 ガルゥと日々を無意味に過ごしたって穏やかなだけで急成長は望めないって。

 確かにソフィにはどこか伸び悩んでいることがあった。

 でもオレには分からないことだった、どうしたらいいのか分からなかった。

 それにオレの教え方は緩すぎるんだ。


 どうしよう……

 どうしよう、だ?

 何言ってんだ、オレ。

 オレのもとから去って成長するんだろうが、良いことじゃねぇか。

 むしろオレがソフィに依存してたんじゃねぇのか?

 オレを褒め称えてくれる少女が欲しかったんだろう?

 異世界に生まれ変わってテンプレのようにハーレムを望んでたんじゃねぇのか?


 はぁ、また深奥のオレか。

 癖みたいなものだがコイツとの折り合いをつけれたとき、心の波はゆったりしていく。

 ──よしじゃあ話し合おう。


 ☆


 ゴトゴトと荷が揺れる音がする。

 鳥が(さえず)り、少し湿り気を持った暖かな風が吹く。


 母お手製の黄色がかったロングローブを着ているのも少し暑くなってきたけれど、フードが付いている服はこれだけだからちょっと我慢する。


 クレハーロから出立してはや半日。

 日が上る前から出る乗り合い馬車に乗り込んだ。

 どこにたどり着くかは知らないけれど北門から出たんだから多分…王都には行かない。

 帝国の端じゃないかな。

 国境は冒険者ならお金を払えば通過できるはずだし、そこまで心配はしてない。


 心配なのは皆のこと。

 皆は、どう思うんだろ。

 みんなに別れも告げず去った私のことを。


 必死に探してくれるかな、それともすぐ忘れてしまうかな。

 それは嫌だな、どこかであったら楽しくお話ししたいもん。

 会えるか分からないけど。


 メルネーは寝食を共にしてたからよく分かる。

 あの子は自己を主張しないけど芯がある。

 差別のトラウマを克服すればもっと強くなって、いい人に会うと思う。


 クレールはきっちりしているからお金で困ることはないんじゃないかな。

 努力がすごい子だから高いレベルで技能を修めそうだし、クラメっていう相手がいるしね。


 エミッタは冒険者として生きていける性格でもあるし、どこかでいい男性を見つけてきそう。

 あの子は人の心に滑り込むのが上手だから、人相手の仕事に就くんじゃないかな。


 チヌネアは見た目暗いけど精力的だし、集中したときの能力は一級品だから、何かに打ち込んだら他の追随を受けないくらいだと思う。

 男性に関心は無さそうだからなんとも言えないなぁ…


 クラメはやると決めたらやる人だし、心が強いからクレールをちゃんと守ってくれる人だと思う。

 冒険者として名を上げるみたいだから噂を聞くかも。


 セントはあんまり話したことないけど意外と真面目なんだよね。

 孤児院の弟妹の生活を豊かにするために冒険者を目指してて仕送りもしてるらしいし…女性には奥手だから難しいかも。


 ピタシーナはやっぱり年上だし落ち着きもあるから女性には気に入られるよ、友達として。

 対象は男の子だから壁が高いよね…気配りもできるしお洒落なんだけど。

 将来はどうなるか分からないなぁ。


 ゼンエスは自分を律することができるからガルゥのことを支えてくれる人だと思う。

 槍の名手になりつつあるし冒険者としても活躍すると思う。

 顔がいいし物腰は柔らかだから女性にモテるし、いい娘を捕まえるかも。


 ガルゥは言うまでもなく才能の塊だし、先頭にたって指揮も出来る。

 どこでも生きていける人、どんな女性でも虜に出来る人だと思う。

 彼は幸せになる。


 あぁ…


 ──怖い。

 みんながいない世界は。

 ──ガルゥがいない世界は…


 月が照らしていたあの夜、私はガルゥに打ち明けた。

 とてもじゃないけど心臓の音だけが耳の中で響いてた。

 緊張してたけど夜の闇に隠して誤魔化してた。

 少し私じゃないみたいだった。

 きっとあのギルドマスターの女の人に影響を受けたんだと思う。

 あの人って対人距離が近いんだもの。


 そっと自分の唇を触れる、「じゃあね」とつぶやいたこの口が信じられない。

 ガルゥの呆然とした顔が脳裏から離れない。

 ま、まぁその前のガルゥの告白もとてもじゃないけど叫びそうだった。

 だ、だって、ず、ズルくない?

 突然だよ、突然あんな…あ、愛しているとか…


 あの後ガルゥが口ごもった時、衝動的にキスをしてしまった。

 ─キス─唇と唇。


 あれは本当にいつもの私じゃない…

 あの一瞬は奇跡の瞬間だったんだと自分で思う。

 顔も耳も真っ赤だ。


 でも逆に思っちゃったんだよね…

 キスで目が覚めたのかな…

 あぁこんなことを言われていいのかって、彼に見合う私なのかって…

 だから冷たく突き放すような言い方になったんだと思う。

 ああでもしないとガルゥは私の覚悟を甘く見る。

 彼は私に甘いから。


 小さくため息を吐く。


 いつの間にか雨が降っていた。

 雨は次第に強くなって南に流れていく。

 暖かな空気が雨によって地に打ち付けられ気温が下がる。


 母に貰ったローブの裾を身に引き寄せた。

 唇の感触を思い出すように、私は眠りについた。


はい。作者さんです。

旅行したいです。どこか非日常に。

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