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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
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91 墓と愛

どうも作者さんです。

桜が咲いたこの頃、出会いと別れ。

新たな出会いも良いですが別れも忘れないようにしたい。

 

 目覚めはここ数年で一番に悪かった。

 気持ちの悪い汗が背中にベットリとひっ付いている。

 二日酔いのようにガンガン響く頭をワシワシと掻く。


 原因はわかってる。

 ろくに寝れなかったせいだ。

 昨日のソフィの涙が鮮明に浮かんでは消えるように囁く。

 穏やかな顔で「じゃあね」が。

 あの時ソフィは悲しげだった。

 何かの決心をしたような顔だった。


 もう12年以上彼女とは一緒に時を過ごしている。

 オレはソフィのことを分かっているつもりでいたんだ。


 けど、やっぱりオレには女心が理解できない。

 理解できていない。

 生まれ変わっても分からない。


 女心というには良くないかもしれないが、いい言葉を知らない。

「知る」には「聞く」が重要だしソフィに聞きに言ってみるか。

 でもアレだよな…「大好き」って言ってたよな? 言ってたよなっ!?


 アレー…おかしいな…好きにさせるとは計画してたけど…ソフィのことを考えてたら結構─ドキがムネムネ──いや、冗談。

 ホントに胸がドキッとするんだ。

 精神年齢低いのかもしれない。

 ロリコンの気がある…ってのか。


 とにかく確認だ。

 不安になってきた。

 パパッと朝の支度を終了させる。

 普段なら盛大に欠伸をしながらするベッドメイキングも効率的に終わらせた。


「おや、早いねガルゥシュ。何処か行くのかい?」


 寝起きすぐにイケボを出せるゼンを素直に凄いと思いながら歯を磨く。

 ゆすぎ終えた口を布で拭ったあと、考えてた言葉を口に出す。


「いや、なにちょっと散歩に…」


 妙にしどろもどろになりながらも答えた。

 別にソフィに話をと言ってもよかったのだが疲れた思考が適当な嘘をでっち上げた。


「また珍しい。まぁ良いことだし行ってきなよ。もしかしたら小雨が降るかもしれないから傘でも持っていった方がいいかもね」


「お、おう、ありがとよー。じゃ行ってくる」


 ベッドからヒラヒラと振られた手を尻目に部屋を出る。

 傘は確か収納空間に入ってるはずだ。


 古い木製の階段を鳴らさないように静かに下りる。

 どうしても軽く鳴るんだけど。

 気持ちの問題だ。


 下りたら寮母さんに雨が降りそうだということを伝えられる。

 彼女の天気予報は結構当たるし、ゼンにも言われたから降るんだろう。


 寮を裏口から出ることにする。

 正面玄関は重めの鉄製扉だからどうにも音が響く。

 木の(かんぬき)を外して…っと。

 立て付けの悪い扉を手慣れた方法でバコッと開ける。


 うぅ、起き抜けの太陽は光量が多くて目が痛い。

 閃光とは言えないから耐性スキルは効果を発さないみたい。

 目を一度擦ると痛みは消え去り足取りも軽くなった。


「んー女子寮に行っても入れなかったはずだし、起きてるか分かんないしなぁ…あ。ベゼック教官の剣でも振るか。咄嗟には大剣は触れるようなもんじゃねしなー」


 鞘もないベゼッセンハイトを思い出す。

 大剣ベゼッセンハイト…教官の愛用する教官自身が作成したものだ。


 ふと泣きたくなるけど…

 ぼんやりとした感情が胸を覆うことが多いオレはなるべく感情的にならないように気を付けたいと考えてる。

 特に怒りだ。

 哀しみはそのままにすると怒りに繋がりとめどなく続くことになる。

 だからどこかで区切りをつける。


 一度墓を作るか。

 遺骸がないけど、剣がある。

 酒でも供えよう。


 この世界ではアンデットにならないように火葬した後、骨を砕き川に流す。

 川に流すから死者に祈ることはしない。

 ましてや供え物などすることはない。

 精々、生前に信じていた神に対して祈ること位だ。


 ──代わりに幸せにしてやってくれと。


 代わりにってなんだ。

 神は知ってるのか、その人がなにが好きで、どんなことをして、どう生きていたのか。

 知ってる人が祈るんだろうが。


 オレだけでもそう思うことにしよう。

 この世界の人間じゃなかったんだから。


 ということで、教官とよく狩りにきたナナツカドの丘にきた。

 クレハーロの西門からさほど遠くもないから危なくて指定狩地になってるんだ。

 

 だけど、狩りにきたところで強いと分かってるものにはほとんど魔物は近づかない。

 つまりここで狩りをしまくってたオレたちには寄っては来ない。

 それをいいことに思いきり地面にベゼッセンハイトを突き刺した。

 で、オレは剣の前に胡座をかく。


 持ってきた酒の瓶を開け、剣に対して供える。

 やることは変わらない。

 手のひらを合わせ軽く目を閉じた。


 感じることに耳を傾け、直感を信じ、されど考えて行動しろ。

 要するに思考を止めるな。

 それが訓練中のベゼック教官の口癖だった。


 もう涙は流さない。

 きっと冒険者には別れがやって来るから。

 慣れるわけにはいかないけど、思い詰めるのは良くない。

 忘れることは決してないけれど、区切りをつける。


 ──ありがとうございました。

 教官。オレが変なやつでも笑って、もっとやれと委ねてくれた、あなたの自由な教えが今のオレたちを作ってくれてる。

 教官の荒さが確固たる自信に裏付けられたものだと知っているからあなたに付いていくのが楽しかった。

 いついかなる時も気を配り、オレたちの未来を案じていた。


 あぁ楽しかったな。


 お疲れさまでした。

 あなたの魂はオレたちの胸にいつまでも──


 閉じていた目をゆっくりと開ける。

 まつげが絡まりほどける。


「──いた! ガルゥシュくん!! ソフィちゃんが! いなくなったの!!」


 オレは実に冷徹だった。

 もしかしたら予感があったのかもしれない。

 ソフィが別れも告げずどこかに行ってしまうんじゃないかと。


 伝えにきたメルネーちゃんは普段よりも髪がうねっていた。

 荒い息を整えるように膝に手をつく。

 オレの匂いを伝って来たのか。

 そのままソフィを追った方がよかったんじゃないか?


「なんでソフィを追わない? 君が追えば追い付くだろ?」


 嫌な感じの声だった。

 予感がしていても気持ちがザラつくのはどうしようもないらしい。

 オレの反応に何か思ったのか顔を上げたメルネーちゃんが顔を見た途端に一歩後ずさった。


「え、えっとね…鼻がとても効きずらくて…ソフィちゃんにお香を焚かれて、皆を呼んだ後ガルゥシュくんを呼んだ方がいいって相談して…」


 しどろもどろだった。

 慌てているのか、怖いのを隠す為か。

 どちらでもいいか。

 ソフィを探さないとな。


「で、手当しだい皆四方に散って…二人とも探しに…」


「あぁ分かった。オレもソフィを探す。メルネーちゃんは鼻を休めるようにしな」


「う、うん。あ、たぶんだけど西側にはいないと思うんだよ。門番さんも見てないって…」


 門番ってサレドニーさんか。

 街で1,2を争う優しいお兄さんである。

 彼ならソフィをよく知ってるし見間違うこともないだろう。


 ふぅ、取り合えず感知範囲を最大に。

 ベゼッセンハイトは仕舞って…と。


「じゃ行ってくるよ。必ずソフィを連れて戻るから」


 メルネーちゃんには目を向けず走り出す。

 全速力で街へ。

 それでも街へは数分掛かるだろう。


 あ、そうだ。

 アン、ソフィの場所は分かるか?


 《申し訳ありません。感知範囲外です。最終感知はクレハーロ東通りとなっております》


 ダメか。東通りは女子寮のある場所だ。

 …つまり今朝女子寮に行っていれば会えたはず、クソっ。

 すれ違い…つくづくタイミングの悪い。


 やっぱりソフィはオレから離れようとしていたのか。

 そりゃ、前世とか言う変な記憶を持つヤバイ奴からは離れたくもなるわな。


 諦める…のか?

 ソフィを。


 胸がズクンと痛む。

 鉛のように重くなる。


 きっとこれがオレの本当の想いだ。

 離れたくないんだ。

 束縛したい訳でも追い回したい訳でもない。

 純粋に彼女から離れたくない。


 絶対に見つけて説得する。

 彼女はオレが守りたい人だから。

はい。作者さんです。

一途に想うことは神聖ですが、少し間違えると愛情過多になることに気を付けなければいけませんね。

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