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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
100/115

89 対話

どうも作者さんです。

この話で100部目のようでして、他視点も含めてですが飽き性の割りには頑張ってると自画自賛しております。

読者の皆さんありがとう。

 

 

 ボルキーに付いて階段を上っていく。

 帯剣はボルキー自身から許された。

 通常なら預かったりすることが普通なのだけど。

 余程の自信があるか、疑うことを知らないかだな。


「二階にもあちしん部屋があるけど書類ばっかだしいいや。三階なら寛げるしいいよねー」


 勝手気ままだが、そんなもんか。

 適当にしてもいいぐらいの権力をここでは持ってるんだし。


 三階階段にはデカイ両開き扉が存在していた。

 まるで誰も寄せ付けないような荘厳な感じだ。

 その扉をボルキーは重さを感じさせない気軽さで動かす。

 ガコッという音と共に埃が宙に舞う。


「よし、んじゃ適当に座りなよ~。あ、座るとこは自分で作ってー。ええとお茶いる? タブンあの辺にあるんだよね──」


 ……うん。案の定過ぎる。

 なんと言えばいい。

 生活感は全く無いのに、とにかく汚い。

 雑多におかれたぐちゃぐちゃな本の山。

 隅に積み重ねられた多種多様な武器の山。

 妙に小綺麗にしてあるのは何かの骨…ぐらいのものか。

 フロア全体がひとつの部屋としてあるのに何故か広く感じない。


 お茶を探しにゴソゴソと奥地に行ったので、取り合えず物が少ないところを座れるようにする。

 前世のオレも部屋が汚かったけど足の踏み場は一応あった。

 ゼンはこういうところに慣れていないのか丁寧に本を片付けていた。


「本が多いな…やっぱり報酬で潤っているんだろうね」


「そうなんじゃねぇかな。信用できにくいが腕は立つんだろ。なにげに、武器も装飾用が多い」


「高ランク冒険者ならではだね…冒険者上がりは何故か武器を飾りたがる」


「若干言い過ぎかもしれないけどな。つーか飾ってないけどな」


 ボルキーが帰ってくるまでゼンと他愛ない話をする。

 ちなみに本は安くはないがかなり出版されている。

 紙の単価が安くなりつつあるらしい。

 文字を書くことが貴族の義務とも教えられているらしいからな。

 だからサリシャさんは綺麗な字を書いていた。

 セドル父さんも書けたらしいけど忘れたと。


「あったよー、でもさーコップがないんだよね~? テヘ?」


「テヘ? じゃねぇーよ。別に要らないんで話しません?」


 結局そういうことになると思ってたよ。

 こんな汚ねぇのに要らんことにまで気を使う必要ねぇんだよ。


「分かったよ、んじゃあ─何から話す? あちしから? それとも何かあるの?」


「じゃあ、オレたちの方から言わせてもらおう。気になることは多々あるんだけど…」


「僕らの教官が森で吸血鬼に殺された」


 おおう、まさかゼンが一気に話を言い切るとは。

 こんな説明じゃ、相手は混乱して状況把握が出来ないじゃないか。

 じっくり丁寧にこと細かに説明しないと…


「おほー!? ゾクッとするねぇ。面白げじゃないか♪」


 えぇ…それだけで分かるのかよ。

 混乱しないのか?

 なんで…とか、そんな…とかならないのかよ。


「君らの教官って武器好きベゼックか。特待生だよね、君たちってさ?」


「あぁそうだ。よくわかったな話してないのに」


「わかるさね。ビクついてないし、鼓動もそれほど変化ないし~?」


 鼓動だとか、え。

 怖いんだけど耳良すぎかよ。

 強者感あるなぁ、一回戦闘見てみたいかも。


「で! でだよ! 吸血鬼!」


「テンション高いなおい。あ、言っておくが倒したぞ」


「――」


 口をあんぐりとあけてバカみてぇな顔をさらすボルキー。

 一瞬前までは目を輝かせていたのに。

 そんなに戦いたかったのか、戦闘狂なのかこいつ。

 なんというか救えないやつ。


「残念だなぁ。想像の生き物並みに強そうなのに…そんなことないのかぁ。倒したのが君ぐらいならあちしも倒せるや。第一ホントに吸血鬼かどうか分かんないし。君の嘘かも」


「信じてもらうしかない。嘘を言うためにわざわざギルドには来ねぇよ…んで、倒したのは運と協力、相手の油断があったからだ。もう一度相対すれば勝てるかはわからない」


 ボルキーの言い方に少しイラッとしたが、ドラゴン討伐者であるから自信はあるだろうし吸血鬼ゴルチェラードのゆだんがあったことは本当だしな。

 案の定嘘と疑われるのは仕方ない。

 落胆しているようだが、もう一つ言うことがあった。

 それでちょっとは活力を得られるんじゃないだろうか。


「ふー、まぁ信じてあげるさね。キレイな……連れてるし。それで話はおわり? ベゼックが亡くなったのはアレだけど下手人が死んだんじゃギルドとしても何もできないよん?」


「…? まぁ待て。話は終わってない、その吸血鬼の目的が吸血姫(ヴァンパイアクイーン)を見返すことだったらしい」


「ほほぉん? それゃいいねぇ。クイーンか」


 再び興味が戻ってきたみたいだ。

 ボルキーがチラッと言ったことは気になるけど、興味がまた薄れるのは避けたい。

 ま、ギルドに頼みたいのは捜索と存在の認知だから、討伐とかはギルドで考えて欲しい。


「で、頼みたいのはこの情報の発布かな。あと冒険者学校のフンバ校長からも一筆書いておいてもらったから読んでおいてくれ」


「ほいほい。えっと…」


 投げ渡した手紙は軽く受け取られ瞬時に読み始められた。

 だが読んでいくうちにボルキーの顔が険しくなっていく。

 真面目に読んでいるというよりは、意味が分からなくて苛ついていると言ったほうが正しそうだ。


「あー…? 長ぇなぁ、何が言いたいのかさっぱりわかんない。もういいや、飽きた。ヨーデンにでも渡しておいてよ」


「しっかり読むんですよ、あなたに権限があるんですから。ただでさえ解決しずらい問題なんですから」


「ですから、ですからって、あちしに敬語はいらないって言ったしょ…?」


 ピッと投げ返された手紙を受け取り懐にしまう。

 ゼンが気に入らないのか、もう一度手紙を渡せと指さす。

 言わんとしてることはわからんでもないけど。

 ゼンの話し口調が癇に障ったのか睨みつけ、口を尖らした。

 なんにせよ、ボルキーが飽きたといったのならこれ以上読まないだろう。


「まぁ、落ち着けゼン。校長の話も文章もくだらなく長いってことだろ? そら飽きもするさ」


「それはそうかもしれないが。やはり指令を出すのはトップの役目だろう?」


「あぁーわっかったよぉ。いえばいいんでしょぉ! めんどくさい奴だなぁ君もさ。んーと、確かここに…あ、あった」


 ガサゴソと辺りを探ったかと思えば取り出したのは、拡声器のような魔道具だった。

 微かに発光したボルキーの右手がトリガー引いた。


『アー、アー。え~聞こえるー? あちしギルドマスター。なんか吸血鬼が存在してるらしくて、皆さん気をつけて生きてくださーい』


「オイ! それだけかい!?」


「そういうことしちゃう…? あぁヨーデンさんに来てもらえばよかった…」


 ゼンがキレ気味にツッコンでオレが呆れた。

 誰がこんな風に育てたんだ。

 レンベーズ候爵め!


「んじゃこの話はオワリね。ダイジョウブだって割りと皆強いから」


「不安だけ煽ってんじゃねぇ! 誰もが対抗できると思うな。赤ん坊だっているんだ、安心させることを言うんだよ」


「そんなこといって君、赤ン坊の時から強かったでしょん? んーまぁ言っておくよ。えっとゴホン。『アーあちしが護るからこの街はネ』ほれこれでいいっしょ?」


 チッ投げやりだなぁ。

 適当極まってんなコイツ。

 市民もてんやわんやだろう、訳の分からないことばかり一方的に垂れ流されてんだから。


 つーかなんで赤ン坊の頃から強いとかわかんの?

 怖いんだが、鑑定スキルだったら感じる背筋のゾクゾクは無いから鑑定じゃないのかな?

 もしくはLv10のマックスか、だな。


「あの、実力は本物なんだよね? 見せろとは言わないがやっぱり信用ならないから」


「なに? 戦いたい? かまわないよーぉ? ウフ、うひひ」


 気色の悪い笑みを浮かべ、前のめりになった。

 ゼンは対照的に仰け反った。

 オレの見込みだと、ゼンでは圧倒的に力不足だろう。

 オレも気になるし助け船を出すとしよう。


「じゃあ──何か狩りにでも行くのはどうだ? それなら損をする奴いねぇんじゃないか?」


「いいと思うよ。分かりやすくて」


「ぅえー弱い魔物はヤだよ。あちしの剣ラッツェルの錆びには強い奴の血が似合うからネ♪」


 語りかけるように腰に提げた豪華な柄を撫でる。

 一瞬反応したかのように明滅したように見えた。

 すわ、妖刀か? と、身構えたが見間違えだったかもしれない。


「あ、んじゃさ、んじゃさ! ドラゴン狩りに行こうよ! 君らも強くなれて万々歳だしょ?」


「はぁ? 本気なのかい? 一握りの人間にしか討伐不可能なドラゴンを? それこそ英雄クラスだよ」


「おあ! 英雄にならない!? 君がやれば核から称号が変わるはずさね!」


 爛々と輝かせた目で初めて対面したときのように至近距離で見つめてきた。

 変な反応と引くほどのテンションは一体何なんだ。

 天才のナチュラルボーンは人の心を知らず…か。

 ナチュラルボーン・ドラゴンキラーなのかもしれないな。


 つか、ちょっと待った。

 サラッと重要そうなことを言ってんじゃねぇ。

 なんかさっきもこんな感じだったな。

 え、【核】から称号が変わる?


【英雄の核】、意味のない名前だけの称号が?

 変わったら何かあるのか?

 そもそもドラゴンを討伐して変わるのか?

 う~ん、相変わらず疑問だらけだな。


「称号? なんだいそれ」


 純粋に知らないのだろう、内容を問うてきたゼン。

 鑑定系のスキルを持たない者に説明出来るのか。

 地球でファンタジーに触れた奴ならすぐ把握できるだろうけど。


「称号ってのは成したことに対する称賛を明確にしたものさね。あったところで意味のないものばかりだけど、一部はチガウ。効き目バッチリ、目がジャキーン! さね」


 どこかのビタミン剤の宣伝のような擬音で称号を語った。

 これによって称号への意識が少し変わった。

 今オレが所有している称号は4つ。

【意思ある精子】【英雄の核】【救いし者】【*絶望*】の4つだ。


 ボルキーが言う一部の中に入ってるものは恐らくまだ無い。

 あるとしたら【*絶望*】か。

 ひとつだけアスタリスクが入っているからな。

 ふと思ったが効果あるものって多分…【勇者】【聖者】【賢者】とかじゃね?

 勇者はあるとおもんだよなぁ。


「ネ、ね、ユウシャになりたくない? 核はいつか身を纏うものだよん。無防備はよくないーね。転生者ちゃん──」


 小声で、ひと言。

 心臓を握り潰されるイメージが浮かぶ。

 目は泳ぎ、息が速くなり、汗が吹き出る。


「うひひ、鼓動が速いなぁ。図星だったかなぁ? にゃはー」


「お、お前は何者なんだ」


「言ったっしょ、クレハーロ支部ギルドマスター超A級冒険者。レンベーズ侯爵の二女、んで──母方の祖父が転生者だった、ただの女の子よん♪」


 絡まった紐がようやく解け始めた。

 ボルキー・ヒキュウは転生者によって育てられたのだ。

 出来るなら会ってみたかった、その転生者に。


 いつしか窓から差す陽光が朱色に変わっていた。

 話すことは色々残っているが、ボルキーへの考えはかなり覆った。


 ─英雄にならない?

 その言葉が脳を駆け巡っていた。

はい。作者さんです。

是非とも泣きたい方は、映画『さよならの朝にやくそくの花束をかざろう』を見て頂きたい。

ボロ泣きでした。絶賛放映中であります。

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