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転生モノはコリゴリだ!

 ここは、無数にある世界と世界の間にある「次元の狭間」。

 どこまでも続く真っ白で殺風景な空間には、時折訪れる者がいる。ここに訪れる者は普通の人間だったりネコミミが生えていたり、あるいはネコそのものだったり形容しがたい化け物のようであったりもするが、いずれにせよこの「次元の狭間」を訪れる者にはある共通点がある。


 ――それは既に死んでいるということだ。


 そんな「次元の狭間」に神は住んでいた。










 退屈で神は殺せないらしい。この天井のシミを数えることすらできない空間で何年も寝っ転がって過ごしているが、死ぬどころか未だに腹痛一つ起こしたことはない。一日に二・三人来る転生者と喋って転生させることがそんな俺の唯一の仕事であり暇潰しだ。


 おっとどうやらお客さんのようだ。目の前の何もなかった空間に突如白い光の玉が生まれ、それが光を失いながら徐々に形を変えていく。さて今回はどんな奴が来るのか……。


「……」


 人魂か……珍しいな。これじゃあ彼?彼女?の性別も分からないし歳も分からないから話しかけにくいな。


「……」


 死んだばかりで混乱してるのかなかなか喋らないな。こういう時に率先して話題を振ってあげるのができる神様ってやつか。……しょうがない。


「えー、どうもこんにちは。私は神様です」

「……あ?」


 そりゃそうだ。気がついたら幽霊みたいな格好でこんな冬の十勝平野みたいなところにいて、目の前の冴えない中年が神様を名乗っているのだ。そんな状況でやっと発せた言葉がそれでも無理はないだろう。きっとその一文字には、万感の思いが込められているに違いない。

 あるいはただこいつのガラが悪いだけか。


「とりあえずあなたの状況だけ簡単に説明すると、あなたは死んでしまいました」

「えっ!? ちょっと待って下さい……じゃあ僕はなんでここに?」


 一人称僕か……男でも女でもあんまり好きなタイプじゃないな。どうやらガラが悪いわけではないらしい。


「ここに来たのはたまたまですね。ここに来た方は他の世界で生まれ変わる、つまり転生することになります」

「転生!? ……ってことは一応無事ってことなんですかね。あーよかった」


 思ったより逞しい性格のようだ。まあ俺も転生したときはこんな感じだったしそんなものか。


「それじゃあ仕事なので、お名前と住所を教えてください」

「神様っていっても仕事は市役所とかと変わんないんですね……」


 うるさい。これは生前の仕事の癖だ。


「えーと、名前は三田光国(ミタミツクニ)。住所は……どういう風に言えばいいでしょうか?」

「住んでいる国を教えていただければ、どの世界から来たか大体分かるので大丈夫です」

「アバウト過ぎません!? しかも他の世界って……はあ、僕は日本に住んでました」


 同郷じゃん。でもなんとなくそんな気はしてたんだよ。日本語通じてたし。


「神様が日本人だったなんて初めて知りましたよ!? キリスト教徒に怒られますよ!?」

「俺が日本人って分かった途端にグイグイ来るようになったな」


 こいつのペースに持っていかれる前に話を進めなければなるまい。目の前のツッコミ属性臭い来客を前に頭を掻きながら次の質問をする。


「なんで死んだんだ?」

「それはですね……」


 そう言いつつ次がなかなか出てこないようだ。死因を話そうとして泣き出すような者も多いが、こいつの場合は単に話そうかどうか迷っているように見える。なにか重い理由でもあるのだろうか。


「学校の廊下を歩いていたら、サンドイッチをくわえて走ってきた友人とぶつかっちゃって、それで運悪く頭を打って死んだ……みたいですね」


 馬鹿馬鹿しい理由だった。


「馬鹿馬鹿しい理由で悪かったですね」

「なんで分か――うぉっほん。いやー俺はいいと思うぞ。死に貴賤無しだ。どんな馬鹿馬鹿しい死に方でも、お前のこれまでの人生が変わる訳じゃないぞ」

「下手くそなフォローありがとうございます」


 これは完全に嘗められてるな……。ここで一つ神様らしい所を見せてこいつを驚かせてやるか。


「さて三田くん。君は今から別の世界に転生することになるが、その前に一つだけ君の願いを叶えることができる。使いきれないほどの財産を与えることもできるし、最高の武器を与えることもできるぞ。どうする?」

「えー、じゃあ願いを増やしてください」


 小学生かお前は。いや、最近の小学生はませてるからな。幼稚園児とどっこいかもしれないな。そのお願いはもし俺が七つの玉のドラゴンだったら、助走をつける足がないことを嘆きながらでんぐり返しでバイバイするレベルだ。


「それは無理だ。ってか分かって言ってるだろお前」

「すいません。でも急にそんなこと言われてもなあ……それなら」

「なんだ?」

「……友人に、僕が別の世界で元気にやってるって伝えてくれませんか?」


 言う前に少し詰まったのは言おうか迷ったのか、それとも元の世界の友人のことを思い出していたのだろうか。だがたった一つの願いを友人のために使うなんてなかなか大したことだと思う。例えばアラジンは三つ目のお願いでようやくその域に達したのだから、こいつは単純にアラジンの三倍友達思いだと言える。


「だって神様大したこと出来なさそうなんですもん。使いきれない財産とか言って使いきれないくらい沢山の一円玉とか渡されたら困りますし」


 やっぱり嘗めてやがるな。そして図星だ。


「友人ってサンドイッチくわえて走ってきた奴のことだよな?そんなことでいいのか?」

「はい。それさえ伝えられれば安心してあの世へ行けます」

「あの世ってな……」

「この世から見れば、どこの世界もあの世みたいなもんですよ」


 学生のくせに無駄に達観してやがる。こいつのほうが俺より神様向きだな。……学生か。大した青春じゃなかったが、それでも懐かしいもんだなあ……。


 そんなことを考えていたら、不意に目の前の人魂が点滅し始めた。


「おい、どうやらお前はそろそろ転生するらしい。聞きたいことがあるなら今のうちだぞ」

「もう少し神様と話がしたかったですけど……僕が転生する世界ってどんなところなんでしょうか」

「いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界になるな」

「ファンタジーですか……正直もう子供じゃないですし、荷が重いですね」


 おいおい、学生はまだ子供だろ。どこまでも冷静で夢の無い奴だ。


「まあちょちょいと革命起こして、ファンタジー世界を終わらせてサイエンスファンタジーに塗り替えてやりますよ。これがホントのファイナルファンタジー……なんちゃって」


 そういうと目の前の人魂は体を縮ませて、おどけて見せた。


「なんだ、お前も案外そういう子供っぽいところあるんだな……まあ、頑張ってこいよ」

「はい、それでは。……ありがとうございました」


 そう言うと人魂は青い光につつまれて消えていった。たった一人、人魂が消えただけで次元の狭間は前にも増して殺風景になったような気がする。


 目の前にはどこまでも真っ白な空間が広がっている。そうして俺は真っ白な中に寝っ転がり、まるで音の無い空間の音を聞くようにして――体から力を抜いた。


  





























 

 そのまま五分か十分か、もしかしたら数時間たっていたかもしれないが――日本に住んでいた頃を思い出していると、光の玉が現れた。それは光を一層増しながらみるみるうちに形を変えていくと、そこには学生帽に着崩した学ラン、そしてやたらガタイのいい学生風の男がいた。


「オッス」

「……」


 男はあぐらをかきながら片手を挙げてそう言うと、もう片方の手でサンドイッチを抑え、食べていた。こいつは間違いない……間違いなくガラが悪い。


「ここはどこなんスか?」

「えーと、ここは次元の狭間です」

「次元の狭間ァ?」


 やべえ……怖え。でも仕事はやらなきゃいけないからさっさと状況を説明するか。


「はい。そして私は神です」

「なんだァ?新手のギャグか何かか?」


 ああ自分でもこの自己紹介が変なのは分かってるよ! でも他に説明のしようがないんだよ! 


「まァしょうがねえからあんたが神さんだってこと、信じてやるよ」

「あれ? さっきの奴といい結構すんなり信じてくれるんだな」

「一応これでも敬虔なキリスト教徒ッて奴だからなァ」


 ぜ、全然見えねえ……。確かに着崩してる割りにカッチリした雰囲気はあるが、その態度を見るに神を信じるような男には全く見えないのだ。


「っていうかいいのか?キリスト教っててっきり、神はイェス・キリストただ一人! ……って感じかと思ってたけど」

「バーカ。そういう連中もいるにはいるがよォ、世の中には他にも色んな神さんを信じてる奴がいンだよ。そういう奴らを認めねェと戦争が起こるだろうが」


 男は眉間に皺を寄せながら言った。表情はこちらが思わず顔を伏せたくなるほど恐ろしいが言っている内容は思ったより全うに聞こえる。


「へえ、意外とまともなこと言うんだな」

「失礼な神さんだなァオイ……ところでわざわざこんなとこに呼んだ用件はなンだ?」

「ああ、簡単に説明すると、お前は死んだんだ」


 そういうと男はカッと目を見開いた。手からポロッとサンドイッチがこぼれ落ちる。


「オイオイ、俺ァあんなんで死んじまったのか……」


 どうやらさっきの奴同様、こいつの死因も馬鹿馬鹿しいらしい。ってかさっきの奴もだけど死んだこと自体にもっとショック受けろよ。


「それで、お前はこれから別の世界で転生することになる」

「転生ッ!?」


 おっ、今度はビックリしてくれたか。やっぱりこれが神様やってて一番気持ちいい瞬間の一つだな。


「ッてことは……キリスト教じゃなくて仏教にしときゃァ良かったッ!」

「そっちかよ!?」


 思わず典型的なツッコミポーズまでとってしまった。しかし体格のいい男が頭を抱えて震えながら天を仰いでいる姿はなかなかコミカルだ。


「それじゃあ仕事なので、お名前と住んでいた国を教えてください」

「切り替え早ェなオイ……名前は黒岩清太郎(くろいわせいたろう)、国は日本だ」


 やっぱり日本人か……ということはまあ間違いないだろう。


「一応聞くけど、お前三田ってやつ知ってるよな?」

「三田ァ!? 知ってるも何もあいつにぶつかって気絶させちまったンだよ」


 あれ……知っているしぶつかったのは確からしいがそれで死んだ訳ではないらしい。


「その後どうなったんだ?」

「それは……その、なンだ」


 何やら言い辛そうにしている。……ってまあそうか。友人の三田を気絶させてしまい、しかも恐らく三田はその時点で死んでいるのだからこの後彼にとって辛いことがあったということが想像に難くない。


「救急車呼ぼうとして急いで喰ってたサンドイッチ飲み込んだら……喉詰まらせちまッてなァ」

「それでその後は?」

「後もクソもねェ、それで終わりだよ」


 つまり、サンドイッチで窒息死といった感じか。……ヤバイ笑いが堪えられない。


「ぷぷぷっ」

「笑うなゴラァァァァアー!」


 急に顔を上げ大声を張り上げたせいで学生帽が吹っ飛んでいった。


「クソ……。で、三田が神さんを知ってるッてことは……そうか、アイツも死んじまったンだな」

「ああ。そしてあいつからお前に伝言を預かってる」


 そういうと男は体を乗り出して来た。


「本当か!? その伝言ッてェのは何だ!」

「僕は別の世界で元気にやってますってさ」

「そンだけかよ……薄情な野郎だぜ。でもまァアイツならどこでも上手くやンだろ」


 言い捨てるように言った割りには満足そうな顔をしている。男のツンデレって奴か?


「それで、最後に一つだけ、これから転生するお前の願いを叶えてやる。お前に使いきれないほどの財産を与えることもできるし、最高の武器を与えることもできる。お前は何を願う?」

「はァ? なんだそりァ、これから生まれる0歳児に武器なんか持たせても意味ねェだろうが」


 グッ……またしても図星だ。こいつら、変なところで鋭いな。


「そンなら向こうで三田に会って一言謝りてェなあ。アイツが死んだのは俺のせいだからなァ」

「向こうの世界で三田に会って一言謝る、か。なら三田と同じ世界に転生させてやる。ただそこからは自力で頑張ってあいつに会えよ」

「ッたりめェよ。地の果てまででも追いかけてやる」


 こんなガチムチ男に追いかけられたら怖いじゃすまない。……ヤンデレ美少女にでも転生させれば少しはマシになるか。

 そんなことを考えていたら、そのガチムチ男が点滅し始めた。


「もう時間が無さそうだ。……そうだ、三田は革命を起こしてファンタジー世界をサイエンスファンタジーにする、とか言ってたぞ」

「はははッ、アイツらしいなァ。それならさっさと合流して手伝ってやるか。……神さん、ありがとうよ」


 ありがとうか。生前こんな怖そうな奴に会ったら避けて歩いてただろうに、今はこいつに対して親しみを覚えている自分がいる。


「……なァ神さんよ。転生するってどんな気分だ?」

「転生か?そうだな、退屈だしお前みたいな怖い奴が来るしでもうコリゴリだよ」


 そういって肩をすくめておどけて見せる。


「神さん、アンタ三田に似てるぜ。――それじゃァ、あばよ」


 そういうと男は青い光につつまれて消えていった。次元の狭間は再び静けさと寂しさを取り戻し、無限の広さを更に広くさせたようだ。俺は一つ深呼吸をした。

初投稿です。リアルが退屈で寂しかったので書いてみました。ここまで読んでくれて嬉しい! 恥ずかしい! でもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章力が高いです! ギャグも面白いです! とにかく面白いです!! [一言] 僕も投稿し始めたばかりですが、お互い頑張りましょう! 僕の作品も見てくれると嬉しいです(笑)
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