晴明……伯松の声
晴明は、初めて会ったはずの大男を見上げ、考え込む。
と言っても、
「背が高くて良いなぁ……あの小野篁に見下ろされるのは、ムカムカするし……今から伸びませんかね? 子竜どの」
『いや、私は分かりません。孔明どのは当時の文官でも際立って長身でしたよ』
「良いなぁ……」
「えっと、かなり抜けてる?」
子麟の一言に、真顔で、
「よく言われます。十二神将の皆……特に騰蛇や天空は、お前のようにとろくさい主はいないと」
「でも、慕われてるんですね」
「そうでしょうか……相互依存でしょう。好意はありますが……」
冷静に、それでいてあっさりと答える姿に、
「先程会ったのですが……もしかして、孔明さまと同じ位の身長の、無表情の方ですか?」
「長身は騰蛇だと思います。白虎達四神は代々変わるのですが、他の8柱は、交代で休んでおります。一応休んで戻ってくれます」
「……ねぇ? 君。ものすっごく不器用だね」
子麟を不思議そうに見る。
「無器用……えっと、子麟どののお父さん程ではないと思うのですが……」
ふにふにとくすぐられ、気持ち良さそうにわきわきと尻尾を動かしている、威厳も何もない父である。
子麟は見ない振りをして続ける。
「ねぇ? ここにいるのって、何で?」
「ここはすっぽりと、私が入ると出てこれないようになっていて……」
「君の力なら出られるじゃないか」
「そんな訳は……昔からずっと試して……」
「違うでしょ。君は出る気がなかったんだ。待っていたから。その待ち人が誰かは覚えてなくても……」
子麟の言葉に晴明は、
「私は1000年ですが……妻子は覚えていますし……」
「私のこと、覚えてないの? 聳弧。私のことは角端だと言っていたじゃないか」
「聳弧……」
聳弧は麒麟の一種で、青い色をまとう。
赤い色は炎駒、白は索冥、黒が角端、そしてその総称であり黄色をまとう霊獣が麒麟なのである。
「人のことを腹黒、策士と言ってたけど、聳弧は何? 策略もできずに、ここであの変態に会うのが億劫だって引きこもってるの? まぁ、最近まで龍花を守ってくれてたのはありがたいけど、それよりもあのクズをぶっ潰す策略を作ればいいじゃないか。昔の聳弧は父上の傍にいることにあれこれ言う馬鹿を、その顔でやるか? って言う位滅多うちにしてたよね? 特に父上の命令を聞かず、勝手に動き回る魏文長を潰す策略を遺して逝く位だものね? 父上が大好きで……表向きはいい子ちゃんだったけど、裏では恐れられてたじゃないか」
「私は……」
「じゃぁ、これならどうだ! 幼常おじさんが失策して、家の父も父上も退却! 位も下げられたんだけど……」
「ぶっ潰す……」
晴明の声が低くなる。
「あいっつっ! 絶対にやると思ったんだ! 自分の知識をひけらかして、自慢して! あいつは父上のされることを、きっと邪魔すると思ったんだ! 私が生きてる間に、失脚させておくべきだった! それに、尊敬する子龍将軍に傷をつけるとは、死ね!」
「おいおい、聳弧……本性、孔明さまにばれてるから……」
「……あっ」
口を閉ざし、孔明をちらっと見上げる。
唖然とする孔明。
「えっと、聳弧って何?」
「伯松と私たちの内緒の名前です。伯松は、自分の字を気に入っていたので、青々とした松の葉をイメージして。紫蘭は炎駒です。暗号のやり取りもしてましたから。で、聳弧? ここに出たいんじゃないの?」
「……出たかった。けど、1000年一緒にいた神将と離れるのは……それに、ここを空には……」
「……ここにお前を閉じ込めたのは、小野篁だったら?」
白龍が問いかける。
「転生の輪に入るべき人間を、この社……屋敷に押し込めたとしたら? どうだろうな」
「……ふーん。こっちでは閻魔だったかな? その部下の再度の失態……くるね」
「まぁなぁ……このちびも昔の記憶を完全に取り戻してはいない。意図的に消された可能性もある……」
「いや、白龍。聳弧は完璧主義者のわりに抜けてるから、その辺は覚えてないと思う」
子麟の言葉に、むむーっと、
「私は、記憶力悪くない!」
「でも、私たちを忘れてたじゃないか……よーし。聳弧。小野篁に仕返しするから、手伝って」
「えっ? どんなこと? 一応それなりに術は使えても、封じられてて……」
「神将を呼ぶの。聳弧の仲間でしょ、でね?」
子麟は顔を寄せこそこそと話始めたのだった。




