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晴明のペットになっています……。

「何か食べられますか? 子龍しりゅうどの」

『……あの、お手、お代わりさせないで下さい……』

「言うか、お前がやっているんだろう、子龍」


 白竜はくりゅうは腕を組み、ため息をつく。

 晴明せいめいは、小さい龍のままの子龍を面白がっている。

 どうみても晴明は、動物が好きらしい。

 本人は嫌われていると思っているらしいが、この庭には今は隠れているが何故か、生きた鳥や猫、犬に……。


『うぎゃぁぁぁ!』


 子龍が、ビュンっと晴明の衣の袖に隠れる。

 再び空を飛んで戻ってきたのは、白虎びゃっこである。

 地面に穴が開く程、盛大に叩きつけられた白虎だが、


「イテテテテ……騰蛇とうだ、俺を殺す気か……」


と言いつつも、起きあがりうーんと伸びをして、毛並みを整え始める。


「今やるな! 暑苦しい!」

「いや、この美しい俺の毛並みが……」

「もう一度、川に行って泳いでこんかぁぁ!」


 掴み、投げようと手を伸ばすと、


「ちょっと待った!『客人の先触れにいってこんかぁ!』って、騰蛇に投げられたんだ! 客人が来るんだ!」

「客人? ならば、私たちは帰るか? 子龍」

「いや、何か、先日の子龍どのをちっさくした少年と、子龍どの位の長身の兄さんが来てる。名前は聞かなかった」


ひょいっと手を避けて逃げ出した白虎は、姿を人間に戻す。


「もうすぐ来るんじゃねぇ?」


 その声と同時に、


「失礼致します」


ハッキリとした声に、子龍は顔をだし、


『あ、子麟しりん! 上の子です。子麟!』


飛んでいこうとするが失速し、べしょっと落ちる寸前に晴明がすくいあげる。


「危ないですよ。飛ぶ練習もしないで、ちょこまかしても駄目でしょう。はい、だっこ」

「おい。子龍はペットじゃねぇぞ?」

「膝がいいですか?」

「おい、聞けや」


 渋い顔をすると、青龍せいりゅう朱雀すざくに案内された二人が現れる。


「ようこそ、お越し下さいました」


 立ち上がった晴明が頭を下げる。


「私は安倍晴明あべのせいめいと申します。中国の神仙、諸葛孔明しょかつこうめいさまですね?」


 顔をあげ微笑むと、孔明こうめいは固くなった。


「ど、どうされましたか?」

「孔明さま?」


 孔明の傍にいた子麟は、首をかしげる。


「……は、伯松はくしょう……?」


 言葉がこぼれる。


「伯松! 生きて……いや、ここに……」

「伯松と言うのは……」


 困惑したように周囲をみる。

 ペットのように抱かれたままの子龍は、晴明を見上げ、


『伯松と言うのは、孔明殿の長男です』

「……諸葛孔明殿の息子はせんあざな思遠しえんどのでは……」


首をかしげ、


『孔明殿は女の子がおります。その子が姫です。伯松は孫呉そんごの宰相、諸葛子瑜しょかつしゆ殿の次男で、養子に迎えたのです。殿……劉玄徳りゅうげんとくさまの姫……後主こうしゅ劉公嗣りゅうこうしさまの姉が奥方です。思遠は、遅くに生まれた妾との間の子供で……本当に可哀想ですが、出来た兄が数えで3才で逝ってしまい、忙しい孔明どのが余り見守る暇もなく逝った為に、何かいいことが起こると、民衆の間から『諸葛の若さまのお陰だ』と、言う感じで……』

「思遠どのは大変でしたでしょうね……」

「いえ、ワガママなガキでした」


晴明からみたら、少年……子供にしか見えない子麟は頭を下げる。


「初めまして、趙子龍の長男子麟と申します。母と妹が……本当にありがとうございます。で、思遠ですが……可哀想と言うべきではありません。諸葛家の嫡男の器ではなかったと言うことです。孔明さまが短い間に成したこと……それは粗っぽいものだった。孔明さまが軍師の才能がないなどと後世では言われますが、長安への道を作っていき、天然の要塞に近い四川より、戦いに赴く為の要所を探していたのです。国ができてすぐ……勢いのある時に戦場で足場を固め、そして国力を高める……孔明さまが行ったのは、国の初期段階に行うものです。その後は生きていた私たちの責任……姜伯約きょうはくやくは国の財政を考えず戦場に……私たちは止めることができず……中央に戻ってみれば暗愚あんぐな君主が、宦官かんがんと遊び回り、見て成長しているにも拘らず、後主の娘を妻にしていた思遠は何の手も打っていませんでした……父と孔明さまが作ろうとした国はこんなものかと、私も弟も悔やみました」


 唇を噛む。


「それに、先主せんしゅ……劉玄徳さまの為に戦い抜いたはずの父は、かなり位も低く、その差に恨んでいたこともあります」

『いや、私は、位よりも……』

「父上は! いつもそればかりだ! 地道に戦い続けた父上に、何を寄越したんですか! 死んでから取って付けたように……『順平侯じゅんぺいこう』! しかも、私は良く解らなかったですが、先主が漢中王かんちゅうおうになられた時に、前後左右の将軍位は、関聖帝君かんせいていくん黄漢升こうかんしょうどの、馬孟起ばもうきどの、張益徳ちょうえきとくどので、父上は翊軍将軍よくぐんしょうぐん! あの魏文長ぎぶんちょうよりも下ではありませんか!」


 ぐわっ!


食って掛かる。


「父上は悲しくなかったのですか? あれだけ必死に努力されて、その結果が翊軍将軍! 恨みたくなかったのですか!」

『えっと……まだまだ努力が足りないなぁ……とか? でも、可愛い妻子がいるから良いやと思った』


 父親ののんきな一言に絶句する。


「あの時はまだ母上が生きていて、ボロボロと泣かれたの知らないんですかぁぁ!」

『えっ? 桃桃タオタオが? あぁ、じゃぁ、長安に一騎がけして、潰してきたら……』

「その前に、私とお前がつぶれるわ!」


 白竜は突っ込む。


『だよね……それに、情けないなぁと思っても、仕方ないかと思ったよ。あの頃にはもうすでに殿は、私の意見を聞き入れてくれなかった……』


 子供の竜だが、諦めたように呟く。


『殿にとっては、私はもう必要がなかったと言うことだよ。役立たずってこと。で、拾って下さった孔明どのや参謀殿によって働けた。それが悲しいとかはないけど、順平侯はいらないよね』

「子龍どの……」


 孔明は絶句する。

 普段物静かな側近の一言に……。


『大丈夫ですよ。私は、分をわきまえているつもりです。欲も、権力も欲したら、魏文長のような男になります。ついでに関聖帝君。髭剃れ! ウザイ! 鬱陶しい! 暑苦しい! どっか行け!』


 その軽口に、孔明も晴明も子麟も噴き出した。


「所で、孔明どの。この安倍晴明が伯松……と言うのは?」


 白竜が示す。


「私にはどうみても、天狐てんこの血を引いた、力の塊にしか見えないのだが?」

「伯松なんだ! どうみても……私が伯松を見間違えたりしない!」


 孔明は言い切ったのだった。

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