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安倍晴明……封じられし狐

 さてこちらは、日本の階層……京の都を再現している。


 一条戻り橋よりしばらく歩き、神社ではなく邸の佇まいの空間に安倍晴明あべのせいめいは封じられている。


 これは、いやがうえにも、命令と言うか晴明があの世に行くと思ったとたんに、魂はすっ飛ばされ、ここに封じられた。


 拒否とか了承とかもなく、魂は吸い込まれるようにここに入ってしまったのだから仕方がない。

 幾度か出ようと思ったが、感心する程綺麗に隙間もなく出られないのだ。

 いや、先日のように桃桃タオタオ夫婦や、ここで匿っていた賢子かたいこは入ってこれたし出られた。

 つまり、安倍晴明専用のネズミ取り……。


「黒いゴのつくものよりましだが、ネズミを捕る狐が捕まるとは……」


 それに、100年や200年ならまだましだが、もう1000年は過ぎている。

……らしい。


 ここから、現代を見ると、オリンピックで大騒ぎである。


「走ったり飛んだり……楽しそうだな」


 水を張ったたらいを見ている。

 晴明は柔道や体操がお気に入りらしい。


「おーい、晴明……又だ!」


 赤ん坊を高い高いするような格好で歩いてくるのは、白虎びゃっこ

 赤ん坊は玄武げんぶである。


「自分でせよ。お前も恋人がおるだろうに。子供が生まれたら世話をするのだ」

「晴明ー! 頼む!」

「頼むではないわ。全く。玄武。そなたの父親はいい父親だ。こんな男ではないぞ」


 言いながら世話をする……はっきり言って、1000年前から繰り返し繰り返し、特に四神の血族は代替わりする度に赤ん坊かよちよち歩き……良くて現在の青龍せいりゅう朱雀すざく程度の歳の子供がやって来る。

 他の神将は人が産み出した神である為、晴明が定期的に交代で休ませる事で魔物や怨霊、生き霊の怨念を祓う為に力を蓄えられる。

 現在は先日入れ替わったが、一番の実力者、騰蛇とうだが戻ってきたばかりである。


「まぁ、私も1000年もおれば、老齢ではあるが、珍しいものを見たな」

「ん? 何が?」

桃子とうこどのの夫君だ」

「あぁ。本物の龍族。白竜王の息子だ。俺は若いし、色は一緒でも虎だからな、でも聞いたことがある。白竜王が、正妃さまが初めて産んだ卵を落っことしたって」

「……落っことした?」


 硬直する晴明にあっさりと、


「あぁ。『ウオォォォ! わしの子ー!』って喜んで、卵を引っつかんで空を飛んでたら落としたんだと。で、周囲はヒィィィって真っ青。白竜王は嫁にボッコボコにされて慌てて総出で探しまくって、見つかったら人間の赤ん坊として育てられてるのが見つかって、あの白い馬も虹龍こうりゅうだって聞いた」

「虹龍?」

「ん? 今は虹の原理は解明されているが、昔は虹は雨の後に去っていく龍……と言われて、虹龍と言われてたんだ。中国の昔話で、虹龍が地上に降りて女性との間に子供を儲けてって話がある」

「はぁ……それはそれは」

「それに、ドジな虹龍の話もあって、水を飲む為に地上に降りて、人の家の裏の水甕みずがめで飲んでいると、その家の主に蓋を閉ざされて出られなくなって……そうしたら、家の子がふたを開けて出られたとか……馬鹿だよなぁ」

「うるっさいわ!」


突然姿を見せた白馬が、白虎を蹴り飛ばした。

 吹っ飛んだ白虎を見もせず、


「あぁ、先日は……」

「突然のおとない、申し訳ない」


白馬は、人間の姿に身を変えて拝礼をする。

 主が主だからか、白竜も端正で優雅な身のこなしである。


「いえ、お会いしたいと思っていたのですが、私はここより出られませんので……わざわざお越し頂き、ありがとうございます」


 玄武のおしめを変えていた晴明は、手を清める。


「何かございましたか?」

「じ、実は……ほら、子龍しりゅう。顔を出せ」


 白竜の衣の間から、ニュッと頭が出てくる。


『も、申し訳ございません……』


 モゾモゾ出てきたのは、小さくひょろっとした生命体。


「蛇か?」

「違うわ! この若造が!」


 白竜は必死に空を飛んでいるつもり……モモンガのように空中滑空しつつ、だんだん高度が下がっている小さい龍を受け止め、


「大丈夫か?」

『飛べた! 四つ足で歩くのも大変だったが、何とか!』


嬉しそうな声に白虎は、


「飛べてねえ……もがいているようにしか……ウオォォォ! すみません!」

「無駄口は叩くな!」


蹴りが再び決まり、白虎が再度飛んでいくのを見送った晴明は、


「子龍どの。どうされました?」

『あの! 実は……私は、苦手で……』

「苦手? 何がです?」


項垂れる龍……しかも、トカゲではなくちんまりとした本物である。

 少々、晴明も好奇心がわき、触りたくなってしまう。


「あんたも桃桃と一緒か……」


 呆れつつ、白竜は子龍を抱かせる。

 よしよしと撫でていると、


『娘が、飼いたいと言い出したのです……』

「賢子?」

『あ、龍花ロンファと名前を……そうしたら今日、出掛けると……息子たちと出掛けたのですが、帰ってくるより前に、届いたんです……』

「何がです?」


たてがみを撫でつつ、爪を確認し、フニフニと楽しむ晴明の前に、


「オラァァ! 何度も蹴るな!」


と虎が飛び出し、


『ぎゃぁぁぁ! 助けて、助けて! 私は生き物、駄目なんです!』


パニックに陥る子龍はぐるぐると逃げ惑い、最後に背中に必死にすがり付く。


『家に、家に白虎が! 子供がぁぁ! 親がここにいる!』

「いや、多分ご自宅にいるのはホワイトタイガーで、これは一応四神の血族です」

『でも虎ー!……もうダメだ……家にも帰れない……相談に来たのに……』


 コテンっと倒れこむ。

 本人は本気で怯えているのだが、倒れるさまはちんまりとした……以下同文。


「子龍! 貴様! 白虎の血族とはいえ、子龍を怯えさせるとは! 反省してこい!」


 白竜は虎の首の後ろをひっつかみ、力任せに投げ飛ばした。




 で、虎が落ちた先は一条戻り橋で、晴明の命令を待っている他の神将……特に水で遊んでいた青龍と朱雀の上に落ちてきたのを騰蛇が再度蹴りとばし、川底に叩きつけられ気絶したのは別の話しである。

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