周倉により連れてこられた獣を見て……
伝説により産み出された武将、周倉が先触の後に訪れるのだが、頭の上に肩に、両腕に乗せた生き物に子龍は唖然とする。
「そ、それは……」
「いえ、紫蘭坊っちゃんの可愛がっている白虎の子供なのですが、こちらのお嬢さんが家で飼いたいと……」
「白虎……四神の……?」
「いえ、普通に人界のホワイトタイガーの子供で、最初はこの季が可愛いとおっしゃられていたのですが、上の兄弟もついてくると……」
額を押さえる。
「えと、息子たちは……」
「お嬢さんが『お兄様?飼って良い?』と言われると……」
「……帰りなさいと言えませんな。ですが、娘や妻に危害は……」
「まだ小さいので、甘噛みですが、今のうちにちゃんとしつけをしておくと良いと思います」
「困った……」
子龍は呟く。
妻の桃桃は興味津々に見つめている。
「奥方、抱かれますかな? 一番大人しいのは、これです」
抱かされるのは、ひょろっとした痩せぎみの子供の虎。
ちょっと大きい猫位である。
「一番上の伯です。これを制御すれば、他の三匹は大丈夫です」
「伯……、先、季と言われたな? 他の二頭は仲、叔とか?」
「よくお分かりで。紫蘭さまが付けられたのです」
「ネーミングセンスが……」
言葉を止める。
悪いとは言わないようにする。
犬猿之仲の関聖帝君とやりあっても、余計な喧嘩は吹っ掛けないようにするのが子龍の鉄則である。
恐る恐るだが抱いた桃桃は、綺麗な毛並みを撫でて、
「わぁ……艶々ですわ」
「伯はそれでも賢い子ですので、大丈夫かと……」
「えと、だが……」
「多分、白竜殿もうまく行くかと。赤兎も大丈夫でしたので……」
周倉は穏やかに笑う。
髭もじゃの男だが愚直なまでに生真面目な、人が産み出した神仙である。
が、すたたっと走ってきた白竜が、
「邸に入れるな。私が自由にできなくなる」
「白竜どのなら……」
「駄目なのは、主だ!」
「は?」
振り返ると、引きぎみに立っている子龍。
「貴方?」
「す、済まない! 私は……生き物が苦手で……」
真っ青な顔になると、そのまま崩れるように倒れる。
「貴方? 貴方!」
「見るな!」
白竜の声に、目の前には次第に収縮していく子龍は、ちまっと細長い生き物に変化する。
「貴方? キャァァ!」
「あぁ……これで離婚だ」
顔を背けた白竜の横で、
「龍ですわ! えっ? 爪! 爪、何本ですか? キャァァ! 龍! 触れるなんて! 夢ー!」
白竜の背中に白虎の子供を乗せて、夫だった生物を抱き上げる。
「キャァァ! たてがみフワフワ、鱗は固いのかと思っていたのに、フニフニ……角も小さい。まぁぁ! ちっちゃい爪は……五本! カメレオンとか、とかげさんみたいですわ」
白竜が引く程、舞い上がっている桃桃である。
「旦那さまは大丈夫でしょうか? でも、だっこしていたいですわぁぁ」
「いや、一応、生まれがこれで、逆に犬に追いかけられて苦手なんだ。他の生き物にも怯えられ、逆襲を受けて……」
「生まれ?」
「子龍は生粋の龍だ。ハーフではない……あ、一応、本人は知らなかったんだ! 別れるとか……」
「まぁぁ! 何でですか? こんなに可愛いのに……普段もとっても素敵でかっこいいですけど、この姿も可愛いですわ」
「普通、旦那が人間じゃないってショックじゃないのか?」
ため息をつく馬に、桃桃は複雑に微笑む。
「人間の方が恐ろしいこともあるのです。それに、旦那さまは優しい方。龍であっても何も変わりませんわ……旦那さま? 眠ったふりはしなくて大丈夫ですよ?」
「気がついて……」
「貴方が何でも、大丈夫です。でも、龍だったなんて何て素敵! 爪をもう一回!」
「桃桃! 私はペットではなく……」
ウニウニと逃げようともがくが、桃桃は、
「可愛いですわ! どうしましょう!」
「いやいや……桃桃。主に一応威厳を持たせてやってくれ。主」
庇おうと近づく白竜の背中の虎を見て、小さい龍は慌てて嫁の首に巻き付き、
「嫌だぁぁ! 虎がぁぁ! 生き物……噛まれる! 追いかけられる! 遊ばれるぅぅ!」
「……周倉……あぁぁ! ちっこいの置き去りで逃げた! うおぉぉ! やめんぁぁぁ! 人の足に登るな! 背中に爪を立てるなぁぁ!」
「貴方? 大丈夫ですよ? ほーら、おちびちゃんいらっしゃいな?」
「ぎゃぁぁ!」
子龍と白竜には阿鼻叫喚の場となったのだが、桃桃には動物好きの極致……龍をだっこできたという幸せに身もだえしていたのだった。




