晴明の屋敷には子供だらけです。
「申し訳ございません。先触をお送りしておりました。桃子でございます」
門前で声をかける。
すると、門が開かれ、お目目クリクリの幼児が姿を見せる。
「ようこそお越し下さいました。藤原桃子さま、ご夫君の趙子龍将軍、そして、白竜どの。私は、あ……」
ぽんっと煙が出て、姿が変わり、こぎつねになる。
しかも珍しいことに、尻尾が二本。
しかし、二本目はまだ短く可愛らしい。
『あ、あぁ! ご、ごめんなさい! いえ、も、申し訳ありません!』
身を縮めペコペコ頭を下げるこぎつねに、桃桃は膝をつき、
「大丈夫ですよ。私は桃子と申します。貴方のお名前は?」
『あ、あの、あの……蓮と申します』
「まぁ、とても素敵な名前」
『あの……と、とろくさくて、兄弟や幼馴染みに、まだ泥の中にいるのかって……二本めの尻尾もこんなで……』
「まぁ、蓮は泥の中で、じっと栄養を蓄えて、そしてとても美しい花を咲かせるものなの。私は聞いたのは二千年前の遺跡から発掘された蓮の種を植えてみると、二千年の眠りから覚めて、花を開かせたのですって。その子と同じように頑張っているのだもの、大丈夫よ?」
『本当ですか? わ、私も頑張ります!』
手を握ってくれる女人に、えへっと可愛らしく笑う。
こぎつねと桃桃の可愛らしさに、ほのぼのしていた子龍だが、目の前に現れた細身の青年におやっと目を見開く。
瞳は鋭く、日本人は基本的に中央が黒でその周囲は茶色の光彩が、彼は金色。
中央の黒目も、猫のように縦長になっている。
しかし、かなりの能力者のようである。
自分の友であり主となっている孔明は、世間では有名な能力者と呼ばれているが、実際は知略よりも戦場よりも、政略を重視した内政官としての才能が有名である。
しかし目の前の青年は、純粋に体が能力の器で、全てが力で満たされた存在である。
「初めまして。ようこそお越し下さいました。趙子龍将軍。そして、桃子どの」
「晴明さま。お久しぶりでございます。人生を捨てて、消滅しようとやさぐれておりまして……ご挨拶にも伺わず、申し訳ありません」
「いや、実は私の方が貴方に会いに行きたかったのだが、あの男が全て邪魔をしおってな。抹殺してくれようと思っておったのだが……本当に、偶然にも……」
微笑むと可愛らしい。
そうだ、と、拝礼をする。
「申し訳ありません。私は、趙子龍と申します。桃桃……桃子が本当に助けて頂きありがとうございます」
「いえ、彼女の父の為時どのは、友人だったのですよ。私は、40を過ぎてから知られるようになりました。この瞳、そして、母が狐でしたので」
「あぁ、有名な。でも、私の仕えていた、殿の祖先は竜の子だったので。日本では、稲荷信仰と言って、豊作、金運を祈るとか。こちらの髭よりも、十分素晴らしいかと思います。それに、貴方も神だと」
首をすくめる。
「一応魔除、厄除の神です。それと、先程、通られた一条戻り橋にいた式神の一人が来たのですよ。青龍」
「はい!」
姿を見せたのは、着物姿にリュックサックを背負った、青い瞳と青い髪のツインテールの女の子。
しかし、ベショっと華麗に転びそうになるのを、飛び出した深紅の瞳に明るい赤い髪の少年が助ける。
「青龍!」
だが、少女は、
「着いてこないで! お仕事に来たんだから!」
「って、ドジして転んで、説明不足で、何度も戻るお前の子守りをしているんだろうが」
「……今日はちゃんと出来たもん!」
「今日はだろ?」
「朱雀なんてキライ!」
プイッと顔を背ける。
ショックを受ける少年に、晴明は、
「朱雀、過保護もいいけれど、心配しているんだと言いなさい」
「心配してない! もういい!」
頬を膨らませ姿を消した少年。
苦笑し、晴明は、
「申し訳ありません。四神は基本的に方角の神ですので、私の元にいるのは、その神の親族になります。青龍も朱雀も……玄武に至っては……」
「おわぁぁぁ! 晴明さま!」
純白の髪と銀の瞳の青年が、何かを抱いて走ってくる。
「玄武がぁぁ! 何か臭う!」
「自分で面倒を見よ、白虎。客人が参っておるのだ」
「でも、ボタボタと……」
赤ん坊がお漏らしをしたらしい。
桃桃が、
「あ、取り替えますわ。おむつとかございますか?」
「あ、えっと、とってくる!」
走っていった男に、ため息をつき、
「申し訳ない。この赤ん坊が玄武なのだが大人しい子で……代わりに騒々しいのが……」
「うぎゃぁぁ! 廊下が濡れてる!」
「白虎! おむつを渡したら掃除」
「くっそぉ……料理は好きだが、掃除はキライだ!」
「えと、手伝いましょうか?」
妻が赤ん坊の世話をしているのにと思った子龍に、
「青龍? この方は子龍どの。朱雀と遊んできなさい。仲直りをしなければな?」
「……はい、先生。初めまして。青龍です。お兄さん。よろしくお願い致します」
華奢な幼い少女に、
「……娘が欲しかった」
と呟く子龍に、からかうように、
「子龍どのに似た、ですか?」
「違いますよ。嫁に似た子がいいです! 可愛いでしょうね。あぁ、青龍どの。私は趙子龍と言います。よろしくね? じゃぁ、一緒に行こうか?」
子龍に手を差し出された青龍は、えへっと嬉しそうに笑ったのだった。




