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狐の子……狐の童子

 桃子とうこ……中国の三国時代の有名な部将、趙子龍ちょうしりゅうの妻である桃桃タオタオと解った彼女は、夫に頼み、階層の違う日本の神域に連れていって貰う。


 その神域は、桃子だった時代のみやこにそっくりで、白竜はくりゅうに乗り、向かっていた。


「一条戻り橋の近くにお屋敷がありますの」

「一条戻り橋?」

「はい。左京さきょうの一条に橋があります。その近くです」

「では、逆ではないのかな?」


 羅城門らじょうもんと言う門を通り、教王護国寺きょうおうごこくじと言う寺院を右に、大きな通りをまっすぐ進む。

 縦横を碁盤の目のように道が広がる、真正面遠くに立派な門が見えると右に曲がろうとする妻に、子龍は問いかける。

 桃桃は振り返り、


「貴方さま。右京うきょう、左京は、羅城門から向いてではないのです。この立派な門は朱雀門すざくもんと言うのです。その奥に宮廷があり、みかどが住まわれます。でも、時々失火で、帝のお住まいの内裏だいりが焼けてしまうこともあって、その時は里内裏さとだいりと言われて、一時的に有力貴族の屋敷に住まわれることがあるのです。あ、右京左京は、宮廷、内裏から、羅城門を向いて左右なのです。ですので、私たちは羅城門から入ってきていますので、右に行くので正しいのです」

「朱雀門……もしかして、京の中央にあるのは不思議だと思ったのだが、内裏から南だからと言うことか……」

「はい」


 右に折れ、内裏を回るとしばらく進み、桃桃は、


「貴方、ここで一度、その橋を渡って頂けませんか?」

「ん? あぁ、構わないが……」


 言われた通り渡り進むと、鬱蒼とした柳の木々の手前に小さな橋が見えた。


「ここは?」

「一条戻り橋です。貴方さま。下ろして下さいませ。この橋の下には、神様がいらっしゃるのです。ロンちゃんの上に乗っていては、神様に失礼ですので……」

『だが、桃桃? そなたの方が上なのでは?』


 白竜は不思議そうである。


「あの、こちらにおられる神様は、安倍晴明あべのせいめいさまにお仕えする式神しきがみなのです。陰陽いんようの神であり、方角の神なのです。一時は私を守って下さっていたのですわ。お礼をお伝えしないと……」

「では、声を……」

「いえ、声を出さずに静かに心でお礼をいいながら渡るのです。そうすることで、伝わるのですわ」

「そうなのか……」


 子龍は降りると、桃桃を抱き下ろし、白竜の手綱を握り、もう片方の手で妻の手を握りながら橋を渡る。

と、


コーン……


石か何かが音をたてたような気がして、ぎょっとするが、声をあげる事なく渡る。

 桃桃は渡り終えると、振り返り頭を下げると夫を見上げ微笑んだ。


「貴方さま。ありがとうございます。ご挨拶をさせて頂けて嬉しいです。皆様には本当にご迷惑をおかけしましたので……」

「そうだったのか……私ももっときちんとお礼をお伝えすれば良かった」

「大丈夫ですわ、お優しい方々です」


 桃桃は言うが、白竜はボソッと、


『主。この下の神は、人が産み出した神だが、中国から渡り、日本で力をつけたもので、十二神将じゅうにしんしょうとも呼ばれている。戦いに特化したり、防御に特化した人の使役する神だ。特に人の心が、信仰が力をつけたかなりの強さだ。主に喧嘩を売ってやると言っていた者もいる』

「げっ!」

『基本的に、桃桃は可愛い姫だとお気に入りらしい。桃桃を泣かせた主を襲おうかと言っている』

「……関平かんぺいや息子たち位なら、何とかなるが……」


ちらっと嫁を見る。

 桃桃は、どれだけ様々な人々に愛されてきたのだろう……。

 長い間探せなかった自分が一番悪いが、その分覚悟しなくてはならないのだろう。


「貴方さま? あちらです」


 示された場所は、質素な門構え。


「あちらか?」

「もう少し向こうです」

「では、白竜に乗って行こう」


 しばらく、ゆっくりと白竜に乗り進むと、想像以上に広い区画に回りに塀を囲まれた場所があり、中には鬱蒼とした森のようなものが見える。


「こちらです」

「では……」


 白竜から降りると、再び抱き下ろし、門前に立った。


 子龍よりも800年後に有名になる能力者……陰陽師おんみょうじ安倍晴明とはどういう人か……表舞台にたたない子龍にとって、『神』として祀られるようになった『人』に興味があった。

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