表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア  作者: 村咲 遼
真侑良の恋……
25/44

後悔……そして消失

 忘れていた……。




 大事に思っている……その思いは、胸の中に仕舞っていてもただの種にもならない。

 言葉にして、相手に思いを伝えることで、芽を出して花が咲くのだと……。

 積もりに積もった言葉の種は、こごり、よどんで憎しみや哀しみ、怒りに変わる。

 咲かせた愛の花には、栄養であるこちらも言葉であったりスキンシップであったり、労りであったり、書簡や贈り物でもいい、そっと贈るべきだった。


 喜ぶかは解らない。

 けれど、伝えることは、相手を思いやること……大切だと信じて貰うこと……。


 忘れていた。

 だからこんなにも悲しいのだ。




桃桃タオタオ……済まない……。大切にすると約束したのに……赦してくれ。謝っても許して貰えぬのは解っている。ただの自己満足だ……でも、それでも聞いて欲しかった。置いていかれたと哀しかった。ただ、私はそなたに笑っていて欲しかったのに……」


 涙が子龍しりゅうの頬を伝う。


 その一滴が桃子とうこの頬に落ちると、瞳が開かれた。

 その瞳は労わるようであり、哀しげに陰っているようにも見えた。


「桃桃……」


 一度目を閉じ開いた桃子は、感情を失したように淡々と告げる。


『悪夢ヲ発見!』

「桃子どの?」


 スルッと身を翻した無表情の、瞳にも意識のない人形のような顔は、ぎこちなく、


『悪夢……ヲ全テ戴ケマスカ? ソウスレバ、貴方ハ悪夢ヲ見ルコトハナクナリ、平穏ニ過ゴセマス。サァ、全テ下サイ』

「悪夢?」

『ハイ。貴方ノ奥方ノオ願イデス。本当ハモット早ク任務遂行完了デアッタノニ……数百年モ拘束サレルトハ思ワナカッタ』


呟く口調は何故か苛立たしげで、不機嫌そのもの。


『貴方ノ心カラ悪夢ヲ頂キマス。丁度、弱ッテイタ上ニ、オカシナモノヲくちニイレラレ、不快デス。悪夢ヲ……貴方ノ奥方ノ記憶ヲ頂キマス』

「妻の記憶は悪夢ではない!」


 子龍は叫ぶ。


「看取れなかった、傍にいられなかった、言葉にできなかった……後悔はあるが、妻といられて幸福だった! 後悔はない! ただ、謝って、もう一度傍にいて欲しいと伝えたいだけだ。嫌だと言われようと、最後には必ず、言わせて見せる。昔のように『仕方ありませんね……貴方は』と溜め息を吐かれても、必ず共にいるのだと!」

『ソレハ貴方ノ言葉。奥方ノ本心ハ嫌ダト言ッテイタラ?』

「それでも諦めるものか!」

『愚カダナ。ソレガ、コノ娘ヲ1200年モ追イ回シタ男ガシテキタ事ト、同ジダト思ワナイノカ?』

「なっ!」


 一瞬息を呑む。

 畳み掛けるように、


『ソナタハ、自分ガソレホド高尚ナ人間ナノカ? アノ男ニハ、アレコレイッテイタヨウダガ、自分ガ言エルノカ? 胸ヲ張リ言イ返セルカ?』

「……っ!」

『人間ハ矛盾シタイキモノダ。心ガ壊レルホド悩ンデイテモ、平気ダト微笑ム。本当ニ苦シクトモ、助ケテ欲シイト思ッテモ家族ニモ友人ニモ、誰ニモ相談ガ出来ナイ。辛イト思ウノハ人ソレゾレ。感ジ方モ違ウ……心ニ振リ下ロサレタ傷ハ、誰ニモ解ラナイ……。ドレダケ……冷タイ布団ノ中デ夫ヲ思ッテ泣イテモ……隣ハ冷タイママ……イツモ通リノ朝ハ来ル』


哀しげで苦しげで、優しげな微笑み。


『モウ一度、モウ一度ト言ウノハ、強イ人ノ言エルコト。弱イ者ハ、タダ終ワリを望ムモノ。挑戦ナド考エル事も出来ナイ! チョットシタ事デ傷ツイテ、孤独ヲ思イ知ラサレルダケ! ソレノドコガ悪イ? 我ハ涙グム人々ノ哀シミヲかてニシテ、人々ハ哀シミヲ悪夢ヲ我ニ与エルコトデ、心ヲ軽クデキル!』

「だが!」

『黙レ! 聞キタクナイ! 今更ダト思ワヌカ?』


 桃子は目を細める。


『再見……私ノ糧ニナレ!』

「桃子さん!」


 背後から腕が伸びる。

 関平かんぺいである。

 振り払う時に、


『ソナタノ悪夢ヲ……』


と、手のひらを額に当てる。

 関平はがっくりと倒れる。

 桃子は目を細め、うっとりと艶然と微笑む。


『久シブリニ上等ナ悪夢ヲ頂イタ……デハナ? 後デ、モウ一度』


と、走り出すと窓から逃げ去ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ