第2話 謁見~Braves is an audience~
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【勇者召喚魔方陣】
勇者を召喚するための古より伝わる魔方陣。
その発動方法は召喚の1年前より毎日日の出る時と日の沈むときに人間の血を捧げ、魔力をつぎ込むこと。
かつて神が作りし魔方陣。
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「(神が作りし魔方陣!?……くそ!余計わからなくなった。……まてよ、この変なやつ下にも書いてあるぞ……なになに【人間には再現不可能であり、正しき時ならば代償は無しで召喚できる】……つまり、正しい時期じゃないということか。俺らが召喚されたのは……つぅ!頭がっ…)」
謎のポップアップを読み終えると士は頭痛に襲われた。それは何故なのだろうか。士を襲った頭痛はほんの数秒で治まったが、士は冷や汗をかいていた。
「(……大体わかってきた…俺らはあれによって召喚とやらをされたんだろうな。…くそ、よく考えればラノベやらの定番じゃねぇか)」
士は後ろに居る騎士風の男をちらりと見る。
「なんだ?」
騎士風の男は重々しい声で言う。
「トイレって何処かなぁと」
士は騎士風の男にそう答える。一人で考える時間が欲しい。その上での言葉だったが、
「陛下を待たせるなど言語道断だ。我慢しろ」
と言われたため、それはできなかった。
そして日本人の感覚からしたら広すぎる城内を歩き続けること数分後。士達は豪奢な装飾のされた大きな扉の前に到着した。
「ここが【謁見の間】です。
勇者様方は、ここから中に入っていただき二本目の線の所で右膝をつき、頭を下げてください」
ドレスの少女がそう説明する。
そして、有無を言うような時間すらなく、扉が開かれた。扉から見えた範囲では両サイドに華美な礼装に身を包んだ青年から老年まで様々な年齢の者達と赤いカーペット。そして、一番奥の数段高いところには金と赤を基調とした玉座が二つ。
その一つには髭を生やした金髪の豚……それほどまでに肥えた男が座っているが、もう一つの椅子には誰も座っていない。
そこまで観察したところで、後ろの騎士達から促され士と共に召喚されたと思われる少年達が謁見の間へ入っていく。士も一応それにしたがって中に入っていく。
「(跪く……か。それにしても…アイツら静かだな。いや、静かというよりは現状を把握出来ていないからか)」
そんな事を考えながら士は歩き続ける。
そして、前を歩いていた少年達が少し躊躇いぎこちない動きで跪くのを確認するが、士はそれにならうことはなかった。
静寂。
十数秒が過ぎても跪く気配のない士を見て、両脇の者たちがざわめきはじめる。
「陛下の御前だ!跪かぬか!不敬だぞ!」
その時、国王の脇にいた一人の男が士に向かって怒鳴り声を上げるが士は全く聞く耳を持たない。その様子に周りの者たちも口々に「跪け」と言い、前で跪いている少年達も士をちらりと見やる。
だが、士も考えなしに、反抗心からこの態度をとっているわけではない。
「(さて、予想通りといえばその通りの状況か…こっからが本番だな)」
士は一度息を吐き、声を上げる。
「少々、礼を失していませんか、皆さん」
できるだけ、丁寧に、できるだけ自分の情報を与えずに。士は言葉を並べる。
「我々は、現在何が起こっているか理解していないのです。
いきなり見も知らぬ場所に連れてこられ、突然人と会えなど。理解できない。さらにその上知らぬ人間に跪けなど…。
せめて説明を受けてからでないと敬うかどうかも考えられません」
士はそう言うと最初に声を上げた男を見て
「貴方はいきなり言われてできますか?できませんよね?」
と問う。だが、答えなど求めていない。彼が何かを口にする前に段の上の椅子に座る豚に訊く。
「ということで、説明をしていただけますか?その上で判断しますので」
士の言葉を聞き、豚は一瞬眉を潜めるがすぐに顔を戻し口を開く。
「良いだろう。皆も静まれ。
彼の言うとおりだ」
「では自己紹介といこうではないか、勇者殿。
ワシの名はビリング・ハゲン・クチマキ・シューメリア。シューメリア聖王国の国王である!」
「宰相よ、説明を」
豚改め国王ビリングは自身の斜め後ろに立っている金髪の蛇のような印象をうける男に声を掛けた。その男は前に出ると士達を見て語り始めた。
この世界に蔓延る危険について。
それを纏めると【現在悪魔達とモンスターによる侵略を受けている】【その首領である魔王を倒さなければ世界は滅びてしまう】【その魔王は強大である】【そこで異界より勇者を呼ぶという結論に至った】【世界のリーダーたる聖王国はかつて神より賜りし魔方陣で召喚を行った】【貴方達は勇者だ。だから魔王を倒してくれ】【こちらの都合で申し訳ないが元の世界に帰っても元の世界では居なかったことになっているため貴方方は元の生活をすることはできず、まず前提として帰ることもできない】【お詫びとして魔王を倒したら爵位を与える】とのことだった。
「家に帰れない!?そんな!」
一人の少女がこの話を聞いて涙を流したが少年達は皆でその少女を慰める。
「それが現状ですか」
士は国王に問う。
「そうだ。
我が国を救えるのだ、これ以上ない誉れだろう、勇者達よ」
王は脂肪だらけの顔でどや顔をさらしながら尊大に言いはなった。
「(……我が国か…もはや世界がどうとかじゃないな。隠してるつもりかも知れないが勇者を道具と見ているようにしか思えない。……なるほど、これが噂の悪徳召喚というやつか)」
士は心のなかでそう結論をだした。