第23話
「帝国って……あの帝国ですの?」
「あの邪教信仰をしている酷い国って言われてる?」
士の言葉にそう反応したのは聖と美織だ。
言葉のニュアンスから考えるに、聖王国から悪く教わっているようだが、心配する程悪影響を受けている訳では無さそうだ。
それにしても、邪教信仰か、、、と士は遠目になる。
「まあ、その帝国だな。
ただ、言わせてもらうと帝国は別に邪教徒の国でも無いし、お前らが聞いたような悪行ばかりの国でもないぞ?」
それに……
「邪教というなら、この国の国教である聖光神教だろう」
と考えるものの、口には出さない。
そんなことを言えばほぼ確実にそう思う理由を訊かれるだろう。流石にまだ純粋な優花たちにこの国ひいては聖光神教がやってきたことを教えるのは気が引ける。
それほどまでにこの国は後ろめたいことが多すぎた。
「でも、どうしてそんなことを知っているんですか?」
美織が首を傾げながらそんなことを言った。
それを聞いた士は失礼かもしれないが馬鹿ではないな、と思いつつ口を開いた。
「『全ての知識は我がもとに集い 全ての智慧は我が物となる』」
「え?」
「『故に我は叡智の賢者となりえん』」
「ヒントだよ。
知りたいなら……いや、識りたいならこの国の書庫にでも行くといいよ」
士はそう言うと、右足で軽く地面を叩いた。
その瞬間に、周りの風景が一変する。
つい先程までの日本風の庭園から、薔薇などが植えられた西洋風の庭園へと風景が変わる。
そして、士は再び地面を叩きテーブルと椅子、ティーカップを生み出した。
「まあ、とりあえず座ってくれ。
詳しくは話せないけど……ある程度は教えないといけないからな」
◇◆◇◆◇
「まあ、こんなところか」
士が教えたのは3つ。
この世界の……というより、帝国と聖王国の歴史。
聖光神教のなりたち。
そして、例の暗号文。
「随分と教えられたのと違うわね」
「当たり前だろ。自国に都合の悪いことは教えず、捏造した歴史を堂々と騙る。そんなのは元の世界でもやられてただろ。特に近くの国なんか」
改めて話を聞き、葵はこめかみに手をやった。
「特に宗教国家であるここは全て神の御心とやらにそってやりたい放題だしな。まあ、ここに召喚されて残念ってことだ」
「でも、なんで私達だけにそれを話したんです?夕崎くんとかにも……」
「話して信じるか?あいつが。有り得ないだろ。
どうせ、『君は親切にしてくれた人をなんて言うんだ!?』とかなんとか言うだけだ。ああいう馬鹿に関わっても面倒なだけだ」
「うわぁ……予想つきますね」
「それに半端にカリスマがあるから更に質が悪い」
「自分を信じて疑わず、カリスマがあるが大局を見れない。本当に質が悪いですね」
「予想だが、元の世界でもいろいろやらかしてるだろうしな。まあ、実家が権力でもみ消してたんだろうが」
「見てきたかの様に言うわね……」
士と優花は歯に衣着せぬ……というより、嫌悪感を隠すこと無く勇者(笑)を評価する。しかも、的を得ているだけに元の世界からの友人であるところの葵たちも反論ができないところが、なんとも言えない。
「まあ、とりあえず話は終わり……なんだが、一つ問題がある」
「なんです?」
「俺はとりあえず帝国に行く。これは決定事項だ。そして、お前らも行くことはほぼ確定している。だが、夕崎。あいつをどうするかというのが問題だ。はっきり言って、あいつを帝国に連れて行っても面倒なのは変わりない。なにより……あいつ、勇者じゃないしな」
「は?」
そして、士は話の終わりにとんでもない爆弾を落とした。




