第18話ꙩ密談
「……爺さん」
「なんですかな?」
「なんで、俺の服を作るなんて言ったんだ?」
更に別室に移動し、オフェアノに採寸をされている途中、士は彼に訊いた。
オフェアノは寸法を紙に書くのを止めると、士を見た。
「爺さんなら、俺の立場くらい予想はつくだろ?」
「そうですな。
ただ、それを含めても私は貴殿の服を造りたかった。この理由だけでは不足ですかな?」
「個人的な意見を言わせてもらえば不足だな。
ああ、それにしても外の音が全く聞こえないな。それに虫なんかもいないようだし……。採寸をこんな部屋でやる必要はあるのか?」
「さあ、どうでしょうか?
ああ、それと理由なら他にもいくつかありますが……最も大きなものとしては国外にツテがあるというものでしょうか」
「なるほど、それは帝国にか?」
「それはなんとも」
オフェアノはメジャーで士の体を測りながら、紙にデザインをし、先ほどの部屋から持ってきた既製品を士に合わせてはまたデザインをし直すということを繰り返している。
「暇だな。
爺さん、なんか話さないか?できたらでいいが」
「かまいませんよ」
「そうか、なら……さっきの話の続きになるが……なんで俺なんだ?勇者の服を作ったというほうが箔がつくと思うんだが」
「勇者というなら貴殿も勇者のはずですが」
「……確かにそうだな。けど、そういうことじゃない。爺さん、アンタならわかるだろ?」
「貴殿がこの城でよく思われてないということがですかな?」
「そうだ。そこまでわかってて俺のやつを作るなんて普通じゃない」
「ふむ、確かにそうかもしれませんな。
ただ、それを踏まえても貴殿の服を作りたいと思ったから、私はそうしたのです。
それに、彼女が言っていた意味もわかりました」
「彼女?」
「この国で唯一私が服を仕立てた女性です。貴殿も会ったことがあるでしょう。
ところで、貴殿はこの世界についてご存知ですかな」
「ああ、知ってる。
それも……かなり正確に。様々な国から見た歴史もな」
「なるほど。
………よし。もう大丈夫です。後は細かいことについての擦りあわせですが……」
「色は黒をベースに。できれば戦闘も可能にしてくれ。
あとは任せる」
「かしこまりました。
ああ、それと最後に1つ」
オフェアノは紙に士のオーダーを書き、それを机に置くと、部屋を出ようと扉に向かっている士に声を掛けた。
「『草木も眠る双月失われし夜 奪われし叡智より喚ばれし者を奪回せん』」
「なんかの詩か?」
「その様なモノです。ただ、準備をお忘れなきよう」
「……それも俺の服を作ると言った理由の1つか。
わかった。準備をしておこう」
士はそう言い、部屋から出た。
その脳裏にオフェアノの言葉から導き出されたあることと、彼のステータスを刻み込みながら。
「(二ヶ月後の深夜二時、か)」
「はてさて、どうなることやら」
◇◇◇◇◇
「そうか、伝えたか」
「はい。しかし、あれだけで本当にわかったのか」
「大丈夫だ。アイツならわかるさ。
あの御方に似ているしな」
「貴女はあの御方に会ったことがあるのでしたな」
「ああ。それと、アイツがどんな服にしたのか教えてもらえるか」
「かまいませんよ。戦闘も可能なモノで色も黒ということしか注文されていませんが」
「なるほど、戦闘も可能なモノか。
平和なパーティーにそんなものを着ようとするとは、つくづく奴は軍人のようだな」
「軍人ですか。あながち、間違いでもないかもしれませんな」
「ということは、爺も気付いたか」
「ええ、伊達に数百年と生きてはおりません。
彼は、少なくとも十人は殺めておりましょう」
「ああ。他の奴らとは匂いも立ち振る舞いも違った。
アイツは必要ならば躊躇無く殺すだろうよ」
「勇者の故郷は平和だと聞いていたのですがね」
「それは間違いでは無かろうよ。
現に、他の勇者は全員生温い。あの金ピカなど特にな。要するにアイツだけが特殊ということだろう」
「平和な世界で殺しをしなければいけない生まれということでしょうか?」
「ハハ、そんな事を言うとは爺も耄碌したか?
そんな訳無かろう。アイツは十分に良い生まれだろうよ。
おっと、かなり長く話したようだな。また連絡する」
「了解しました」