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第12話 赤目が斬る

 高槻葵は目の前で行われていることを見て戦慄していた。

 これほどまでだったとは……と。同時に喜びを噛み締める。はじめて自分より上だった人間がこれほどの高みに居るのだと。


 白崎優花は笑みを浮かべる。

 それは愉悦かはたまた優越感からくる笑みか。

 ただ……どちらにしても彼が本気でやっているということは大いに関係するだろう。


 ユリスは唇を噛みながら目の前を見る。

 まさか…本当だったとは。我々は大きな勘違いと下らない気持ちから最も優れた者を手に入れることが困難になっているのではないかと。



 ◇◇◇◇◇


 時は突然の襲撃を受けた直後に遡る。

 悠々と歩いてくる金髪の女を士は見ていた。もちろん、ただ見ているだけではない。いつでも迎撃、または攻撃ができるようにしている。


「防いだようだな。ふむ…予想以上だ」


 金髪の女──アンリ・ニュクス・フォン・ランパートは口角をあげながら士達の方へ向かってくる。


「将軍!いきなりなんですか!」


 そんなアンリにユリスは声をあらげる。

 士はともかく、優秀である葵や零治が危険に晒されたことに腹を立てているのだろう。だが、そろそろこの時点でわかるべきではないだろうか。士が教えられてもいないのに魔術を使え、さらに相当の速さで飛んできた氷塊を避けさせるなど、他の勇者よりも優秀だということに。


「勇者とやらを確認したまでだ、殿下」

「それがなぜ二人を危険に晒すような方法で行われるのですか!」

「二人?」

「ええ!避けたから良かったものの」

「殿下、私が狙ったのは三人だが?その言い方だと一人はどうでもいいという風に聴こえるのだが」

「それがどうかしたの?」

「ああ…そういうことか」


 会話をする内にアンリはユリスの言葉の意図を察する。

 そんな中、士は未だ警戒を続けていた。


「それで、一体何故あんな方法で?」


 ユリスは問う。

 もし彼らが避けられなければ大切な戦力を失うのだ。一人はどうでも良いとしてもそれが他の者だった場合、さらに悪い。しかも、利用しやすそうな謙也がそうなった場合、都合が悪い。

 そんなことを考えながらユリスはいかにも「勇者様達になにかあったら…およよ(裏声)」という態度をとっている。


「一番簡単で早いからだ。

 それよりも勇者の技量を見なければなにもできない。だからやらせてもらうぞ」


 アンリは簡単に答えると自身の意見を言う。

 ちなみに彼女が考える訓練内容はまず殺し合い。次に各自にあわせた者を付けての鍛練。そして殺し合い。メニューに着いてこれなければスペシャルコース。といった具合である。


「ちょ……将軍!

 一体なにをするつもりですか!」

「なに、簡単な手合わせだ。

 そうだな……そこの金ぴか。貴様からだ」


 アンリは手に金ぴか──霊装を持ったまま動かない謙也を指差す。


「?……はやくしろ。それとも私が相手では不足か?」

「い、いやそういう訳では……ただ、戦う必要はあるんですか?」

「話を聞いていなかったのか?貴様は。

 勇者として現時点でどの程度の実力をもっているのか分からなければ何もできないからそれを知るためにやると言ったんだ。何度も言わせるな」

「それでも戦う必要はないじゃないですか。

 訓練と言うなら素振りや筋トレで済むはずです」

「はぁ……貴様は何を言っている。

 おい、そこの赤目!」


 アンリは謙也の反応に苛つき半分呆れ半分といった様子だ。

 そして、彼女はため息を吐くと赤目──士へと声を掛けた。


「なんですか?痴女」

「痴女とは私のことか?……まあ、いい。貴様はどう思う」

「なにについてでしょうか?

 訓練についてですか?ならば、貴女の言うことのほうが正しいでしょう。

 訓練というのがただの見栄を張るためのものではなく、戦闘訓練なのだとしたら……ですが」


 士は丁寧に答える。

 その答えにアンリは満足そうに頷くと謙也を見る。


「赤目も言った通り我々が行うのは戦闘訓練だ。

 まあ……貴様が素振りだけして実戦で戦えるというのなら止めはしないがな。

 ただ…覚悟はしておけ」


 アンリは最後の一言と共に謙也にだけ向けて軽く殺気を放つ。そして同時に彼女の頭に向けて木刀による刺突が放たれた。が、それは突然現れた氷の壁によって阻まれる。


「なんだ……赤目」

「……殺気を感じたもので」

「ほう、貴様はこれを感じたと……中々優秀だな」

「そりゃ、どうも。

 ……それと、夕崎。ただ捏ねないでさっさと戦ったほうがいいと思うぞ」


 士はバックステップで距離を取ってから謙也へとすすめる。


「ケンヤ様、お願いします」


 ユリスも謙也へ頼む。

 そんなユリスを見て謙也はまだ納得がいかなそうだったが、渋々了承した。







 そして、まあ結論から言うと、謙也は手も足も出ずに負けた。謙也は霊装を使用し、アンリは木剣というハンデありで……だ。しかも謙也は固有能力まで使用したにも関わらず負けた。それはもう完膚なきまでに。


 さらに言っておくと聖、美織、優花、零治、葵も負けた。聖と美織、優花は純粋な前衛ではないので当たり前とも思えるが零治と葵も手も足も出ずに負けている。


 こうして士の番へと回ってきた。訓練場の真ん中で士とアンリが向き合う。士の手には木刀。アンリの手にはずっと腰の鞘に納まっていた細身の片手剣がある。


「なんで、それ抜いてるんだよ…」

「貴様にはこれでないと不足だと判断したからだ。貴様もそんなものではなく霊装を使ったらどうだ?」

「生憎と王女様に使うなと言われたんでね」

「関係ない。使っていいぞ」

「そうか…なら後で使わせてもらうよ」

「あくまでもそれで戦うと?」

「いや、他のものを使わせてもらうさ。

 来いよ…【髭切】」


 士は【伝承具召喚】を使用して茨木童子を斬ったとされる刀【髭切】を召喚する。眩い光と共に士の手のなかに赤い柄の刀がおさまる。


「来い……赤目!」


 アンリはその様子を見て軽く驚くがすぐに凛とした声音でそう告げる。一方士は下らないことを考えていた。


「赤目赤目ってさっきから……なら。こう言ったほうがいいのか…」


 士は髭切を顔の横で構え、口にする。


「……葬る」


 その言葉と共に士は一気に加速。0から100へと一気にスピードを上げアンリへと突撃する。


 最早模擬戦とは言えない戦いが始まった。

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