prologue
皆さんこんにちわ。
はじめましての方ははじめまして。
玉鋼バンブーです。
さあ、四作目。書いてしまいました。
「人って奴はどうしてこうも愚かなものかな」
16、7歳くらいの少年が旧校舎の屋上の小屋の上で寝そべりながら呟いた。階下より聞こえる生徒達の喧騒と騒々しい音楽。それに混じって聞こえる怒声と肉を叩く音。普通なら音楽のうるささで聞こえないであろうその音を彼ははっきりと聞いていた。
彼は脇に置いてあった木刀の入った袋とリュックサックを持ち、立ち上がるとふかしていた新世代タバコと呼ばれるタバコの火を消し、全く無駄を感じさせない動きで床へと降り立った。
そのまま、彼は扉を開け階段を下りて行く。それにともない音楽も暴力の音もさらに大きく鮮明に聞こえてくる。
彼は音楽などが聞こえる教室を目指し旧校舎三階を歩く。
「懲りない奴等だ」
彼は音楽室と書かれた教室の前に立ち呟く。
二ヶ月前はレイプで今度は初心に帰って暴力か、彼は言葉には出さず心のなかでため息混じりに呟く。
そして、音楽室の扉に手を掛けようとして……止めた。その代わりに若干蝶番の脆くなった扉を蹴破る。
すると中に居た者達は皆驚いた顔で扉のあった場所を見る。そして、顔が青ざめる。
音楽室の中はひどい有り様だった。
オクタゴンと言ってわかるだろうか。どこから持ってきたのか知らないが金網を八角形に固定しオクタゴンを作り、その中で一人の男が蹲り、二人がそれを見下ろしていた。
「くだらねぇ、本当にくだらねぇ」
彼はその様子を見て言葉を発する。
そして、彼は躊躇いなく中へ入ると机に座り両脇に女を侍らせていた男の前に立つ。
「テメェら、また下らねぇことしてんのな。
わちゃわちゃうるせぇんだよ」
「それによって集ってアイツ殴って楽しいか?
格闘技がしてぇんなら俺が相手になってやるからアイツに手出すんじゃねぇよ」
彼は射抜くような視線で男を見る。
「べ、別にお前に関係……ひっ!…てめぇら行くぞ!」
男は何かを言いかけるが彼の更に強くなった視線を受け、仲間に声を掛けいそいそと音楽室を後にする。
彼はその様子を見てからオクタゴンの中に入る。
「大丈夫か?」
血を流し、顔は涙と鼻水で汚れている少年に彼は声を掛ける。
「なんで、ぼっどばやぐ助げないんだよ!」
しかし、彼に帰ってきたのは「大丈夫」や「結構痛い」、「ありがとう」などの言葉ではなく責めるような言葉だった。
「……悪かったな」
彼はそれだけ言うと倒れている少年に背を向けオクタゴンから出る。そして、オクタゴンに立て掛けておいた木刀の入った袋とリュックサックを手に取り音楽室を後にした。
「……顔だけ出して帰るか」
そう言いながら彼は音楽室の近くの階段を下り、武道系の部活が集まる武道棟へと向かう。
だが、彼が自らの所属する部活へ現れることは無かった。
不意に現れた紋様とそれに伴った閃光によって。
こうして彼──神居士はこの世界から消滅した。
◇◇◇◇◇
【語録】
・新世代タバコ…ニコチンやタール等の有害物質が無くなり、ハーブの様に薫りや清涼感を楽しむようになったもの。葉は従来の物とは異なるが旧世代のものと同じくキューバ産のものが最高級とされる。また、このタバコの開発により喫煙許可年齢が15歳に引き下げられた(同時に酒も)。
・オクタゴン…八角形のファイティングリング。UFCで用いられている。
・神居士…漆黒の髪と血のように赫い瞳を持つ少年。17歳の高校三年生。