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未開島  作者: スマート
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序章 「日常の大切さ」

 2か月にも及ぶ長い夏休みの真っ只中、私は暇さえあれば海の見える堤防(ていぼう)へと足を運び、始終何をすることも無くただ海を見て過ごしていた。 


雲一つない空を見ていると、まるでもう一つの海を見ているかのように錯覚(さっかく)してしまう時がある。ペンギンが海を飛んでいるようだと表現する事があるが、こうして空へと顔を向ければ鳥が海を自由に泳いでいるようにも見えるのだ。


波の無い透き通った海を、自由自在に飛び回りどこへでも好きな所へ泳いでいける。私はそんな何物にもとらわれない生き方に憧れていた。


学校に通う事もなければ、社会という集団の中で精神をすり減らすこともない。本能だけがものを言い、強かったり賢かったりするものが生き残っていく自由な世界。きっとそこでは「法」はなく、地上で出来る全ての事が認められているのだ。


変わらない自然の営みを見ていると、大学の勉強なんてちっぽけなものに思えてくる。レポートを書いたりテスト勉強をこなしたり、時間に追われる生活をしてきた私はこの何もしない時間を大切にしている。


何故人間に生まれてしまったのかとか、何故人間は仕事、勉強をしなければならないのとか、大人の理不尽な強制に心が折れてしまいそうになった時、私は変わらない海を、透き通る空を心のよりどころにしていた。


目の前に広がる手の届かない「自由」、だがそれを眺めていられるというだけで私はどこか満たされたのだ。


もちろん鳥にだって、魚にだって生きている限り付き纏う危険は数多くあるだろうし、実際私の様にのほほんと日常を空を眺めて過ごす余裕なんてほんの少ししかないだろう。


私を襲う大きな生物は、こうして何の気なしに防波堤に立っている私の背後に並び立つことはない。重い重病に罹ったとしても、近所の病院や隣町の大病院にいけば大抵治ってしまうだろう。


迫りくる「死」の危険に行動を縛られていない、そういう考え方をするならきっと私の方が自由なのかもしれない。でも、だからと言って私は空を、そして海を泳ぐ彼らの事を諦めきれなかった。


鳥になりたい、18歳になった今でこそ落ち着いて来たが当時の私はその夢が本当に叶うと思い込んでしまっていた。私の通う小学校の先生が、ある日成績が落ち悩んでいた生徒に元気づけようと言った台詞、それが私が暴走してしまった原因の一つだと思う。


「努力すれば、夢はきっと叶う」なんて言うから、私は努力すれば、鳥の様に羽ばたく練習を続けていれば鳥になれると信じ込んでしまったのだ。今から思えばそれが余りにも突飛(とっぴ)すぎる論理だという事はわかる、でも当時小学生だった私には人は鳥には成れないという知識さえなかったのだ。


腕に鳥の羽根を模した翼を付けて、丘だった場所から飛び降りた時、私は自分の愚かさと人はどんなに努力をしても鳥には成れないのだと、骨の折れた激痛の中で思い知らされた。


先生もあの時、私の夢を聞いて否定するなりしてくれれば私もこんな目に合わずに済んだのに、というのは流石に虫が良すぎるか。先生はきっと私の子供ながらの夢を頭ごなしに否定したくなかったのだ、「出来ない」という事実をまだ幼なかった私に突きつけるのは、絶望させてしまうのは可哀想だと思ってくれたのかもしれない。


もう顔も薄らとしか覚えていない先生の顔、それでも私の話を決して馬鹿にすることなく笑顔で聞き入ってくれた事は今でも大切な思い出として残っている。あの時のことがあるから、私は今もこうして楽しげに空を眺めていられるのだ。


「あれ、千歳(ちとせ)姉ちゃん、こんな所で何してんの?」


 漁船を追いかけておこぼれをもらおうとカモメの群れが空を移動していくのをぼんやりと眺めていると、唐突に後ろから肩を叩かれたのだ。ふわふわと私自身空に溶け込んでしまいそうになるほど心が緩み切っていた所為で、後ろからの気配に鈍感(どんかん)になってしまっていた。


何事だと跳ね上がった心臓を何とか落ち着けて後ろを振り向くと、そこに立っていたのは日に焼けた小麦色の肌を惜しげもなく晒したノースリーブのシャツと釣り眼がちの顔とボーイッシュな印象を受ける短めの髪、極め付きは本当に女の子かと疑いたくなるような不格好な短パンという恰好の私の良く知る女の子だった。


私の肩がわずかにビクついたのが分かったのか、悪戯が成功したとにやける女の子は生瀬 昴(いくせ すばる)、恰好そのままに近所でも有名な悪ガキだ。


本当は男の子なんじゃないかと誰もが口にする昴の悪戯癖は、泥棒だと言ってご近所の家に忍び込んで態々ご丁寧に足跡だけを付けていったり、散歩中の犬を挑発してみたりと規模が大きいものから小さいものと多々あれど、その殆どが近所の子供を巻き込んだちょっとした事件につながる事が多かった。


おかげで今ではちょっとしたガキ大将という地位まで手に入れてしまった昴は、近所の悪戯好きの子供たちの憧れであり、まじめな子供たちの畏怖(いふ)の対象だったのだ。


「……なんだ、誰かと思ったら(すばる)じゃん、あんたこそどうしてこんなトコにいるのよ」

「そっけねえなぁ、折角姉ちゃん探して此処まで来たってのにさ」


家がそこまで離れていないので何かと言うと私の側にやってきては、こうして小さな悪戯をしてくる昴の事を私はそこまで嫌ってはいない。本人や近所の子供たちがどう思っているのは知らないが、この悪戯を成功させた時に見せる昴の笑顔は私の好きな空に輝く太陽のようで凄く清々しいのだ。


それに私に対する悪戯は、どういうわけかさっきのような程度の低いものに収まっていたし、案外昴は自分の身近な年上、つまり自分を叱りそうな相手には手を出さないのかもしれない。まあ、悪戯を仕掛けた昴をふん捕まえて被害者の家へ誤りに行かせていたのは主に私の役目だったので、そういう理由も背景にはあるのかもしれない。


「それで、何か用なの?」


何時もならこの辺で悪戯してきた昴にデコピンの一発でもお見舞いするところだが、今回は何時も私へじゃれ付いてくる昴がいつになく真剣な顔をしていたので、それは一旦保留して話の続きを促してみた。


どうせ私に頼って来る事と言えば宿題を見てくれとか、どこどこの誰々を怒らせてしまったから一緒についてきてくれないかという下らない事なのだろうが、それを逆手に日頃の私のストレスを昴に晴らすというのも十分良い手段だろう。


手始めに私の家で眠っている秘蔵のワンピースふりふり仕様を着せて、恥ずかしい写真を撮りまくってご近所中にばら撒いてあげるというのはどうだろうか。ふふふ、私の自由な空の旅への妄想を邪魔した罪を身を持って後悔するがいい。


「ね、姉ちゃん……ちょっと顔が怖いんだけど。ま、いいか…あのさぁ姉ちゃん船出してくれねぇか?」


私の表情の変化を敏感に読み取って来るのは昴の天性とも言える長所だが、いかんせん読み取った相手の感情を知ってもなお自己中心的でいく昴には、宝の持ち腐れだ。


「船を?」

「そう、船だよ。沖までひとっ走り行ってほしいんだ、ねえ頼むよぉ」


それにしても今日は突拍子もない事で驚くことが多い日だ、どこをどう間違ったら船という発想が出てくるのだろうか。昴との付き合いも大概長い方だと思うが未だにこうして理解できない事がある。


空を泳ぐ鳥と同じように自由な魚も大好きな私は、たまたま海に関係する仕事関係をしていた両親の教育方針で、一応船舶免許を持ってはいたが、とったものの私はまだ学生なので使う機会めったにないので言わばペーパーだった。


何処でそんな情報を仕入れて来たのか分からないが、私は大まかな運転は出来るが、風や海の満ち引き等の経験が必要になるベテランの動きまではすることが出来ない。もし何かアクシデントが起きた事を考えれば誰か人を乗せて航海するなどもってのほかだ。それで昴に溺れられでもしたら私は彼女の親御さんに申し訳が立たない。


だから目的が何であれ、無理だと断るつもりで、しかし初めから否定するのも大人げない気がしたので一応話を聞いて考えてみる振りをする。そうした方が昴も諦めがつくだろう。もしくは誰か他の漁師さんに頼むという手もありかも知れない。


「えっとね…千歳姉ちゃんは釣りってしたことあるの?」

「釣り?手ほどき程度なら親戚のおじさんに教わったことがあるけど」

「なら話が早い、この前テレビで見たんだけどさ海峡のマグロって奴、アレを私も釣ってみたいんだよ、ねえ助けてよ、ちとえも~ん!!」

「はぁ?」


なんとも急な話だ、私としてはまた昴の暴走癖が始まったのかとあきれる程度だが、この切羽詰まったテンションから見るにどうせ近所の子供たちに見栄を張って、さっそくマグロでも釣って来ると宣言したのだろう。

ガキ大将の威厳とやらを保つためとはいえ、一々私を頼りにするのはやめてほしい。私は昴のお目付け役であって「ちとえも~ん」なんてコミカルな名前で泣きつかれるような便利キャラでは無い。


まあ確かに私の胸ポケットには、昴の願いを叶えるためのアイテムである船の鍵が収まってはいるのだが……


「あんた船の免許なんて特殊なモノ持ってる私の家の職業理解してるの?」

「あ、うん…まあ、漁師だったよね」


まさか昴、漁師が毎回釣りで魚を取ってきているなんて愉快な勘違いをしているのか?確かにマグロだったりカツオだったりは一本釣りという漁法があるが、メジャーなモノと言えば網漁だろう。


私の家もその類に漏れず、イワシやサンマを大きな網を張っておびき寄せて引き上げるという典型的な漁を行っていた。なのでそれらの魚を一々釣るという事に

自給自足で生活する分しか取らないというのなら、わざわざ魚の多く生息している沖にまで船で出ていく必要がないのだ。


趣味でする一本釣りと、本業の漁師がする漁を一緒にしてもらっては困る。分からなくはない勘違いだが16歳にもなる昴がその辺が分からないというのは、それでも港町の人間かと言いたくなる。


「それに、あんたが期待してるような大物なんて釣った経験はないわよ。それに私の家は網漁だし、持ってる船も釣りの道具なんてついてないから、諦めなさい」

「そ、そんなぁ……お願い、この通り!!お願いしますぜ旦那!」


堤防のコンクリートで固められた荒い地面に抵抗もなく正座して手を前に出して合わせ、祈る様に私に懇願する様を見るのは悪くない。日頃こいつの悪行によって痛んだ私の胃が癒されるというものだ。だが、何やら堤防を通り過ぎていく人の目線が痛い、まるで私がいたいけな少女を無理やり土下座させているというような非道な者を見るかのごとく。

年下の少女に正座させそれを上から見下ろしている私の図というのは、側から見れば私が昴の奇行を強要しているように映るのではないか?


俗に言う「おまわりさんこっちです」風の眼が私の心をがりがりと削っていくのは何故なのか。私は単にこの奇行を繰り返す昴から無茶なお願いをされて、それを断ろうとしただけですよ、はい。

それが何?どういう運命のいたずらでこんなことに?


「あれ、これ私が被害者ですよ」


周囲の厳しい目線に訴えかける様に主張してみるが、返って来るのは犯罪者は皆そういうんだとばかりの冷たい眼。おかしいな…目が熱いよ。



「ああ、もうわかったわよ。マグロ釣りなんて大層な事は出来ないけど、ちょっと沖まで船でのクルージングくらいなら父さんも許してくれると思うし」


仕方ない、別に私もそこまで昴のわがままを頭ごなしに否定する程人間が出来ていないわけではない。決してよそ様の眼が痛かったからとかそう言う理由ではない。


それに大学の勉強で疲れた頭を癒すという事で、偶には気分転換に沖に出て大好きな海の風に当たるのも良いかもしれない。カモメが飛び交い魚が泳ぎ、仄かに香る海の香り。まさに至福の時だ。


だが、それが昴と言う問題児が旅にご一緒するという時点で私の安らぎは半分削れたも同然だろう。だからと言って昴だけに釣竿を押しつけて自分だけ海を眺めているわけにもいかない。一応船の旅という事で免許を持っている私が保護者と言う扱いになるので、それをほっぽり出して年下の子を一人にするのも印象が悪い。


「ただし、ただしよ…あんた一人だけ連れていくなんて私はそんな自分から胃を痛めつける様な事はしたくないから、誰か友達でも連れてきなさい数人ぐらいだったら乗れると思うから」


ならばと私がとったのは、少しでも人数を増やして暴走する昴を多数の手で抑え込んでもらおうというものだった。近所の子供たちに声を掛ければそれなりに人数は集まるだろう。そしてその仲間たちをもってして昴を監視してもらう……これで私の安寧は保たれるはず。


「はぁ……じゃあまあ、その辺の子3人くらい誘って、そうね来週の日曜くらいに出発で良い?それまでに適当な釣り具とか見繕っておくから」


「いよっしゃっ、やっりぃ!」


元気よくガッツポーズを決める昴を見ていると、本当に実は男の子なんじゃないかと疑いたくなる。16歳ともなって身体も女の子らしくは成って来たとは言え、立ち振る舞いは完全に私の知る男子のそれなのだ。

こんな調子で将来大丈夫なのかと彼女の親御さんも心配しているらしく、何かと可愛らしい服を着せようとして来ると昴が愚痴っていた事もある。


確かに、彼女の両親の心配も分からなくはない。自分の愛娘が近所で有名なガキ大将で通っているとあっては頭も抱えたくなるだろう。私ならそうする。


嬉しくて仕方ないのか、昴はさっそく親友にでもそのことを話に行くのだろう、私の事を振り返りもせず一目散に来た道を走って行ってしまったのだった。現金な奴と言うか、目的の為に猪突猛進の人間を見ているのは疲れる。


「まったく、台風みたいなやつ……」


もう薄らと影しか見えなくなった昴を見て、私は今日何度目か分からない溜息をついた。悪戯をしていない時もこうして彼女の無駄に高いテンションには振り回されてばかりだ。あの幼稚園児がそのまま大人になったような怖いもの知らずの行動力は素直に尊敬する。(学ぼうとは思わないけど)


先も言ったと思うが、それでも私は昴の事は嫌いじゃない。腐れ縁だとは言ってもあの娘は私の事をしっかりと「私」として見てくれるし、迷惑だが何かと言うと私の所へ真っ先に来てくれるのは、それだけ信頼されているというのは満更でもない。


あとは、ほんの少し…ほんの少しだけでもいいから落ち着きを持って私と接してくれたらどんなに助かるか。いつかは恋でもして大人しくなるのだとは思うが、あの性格だそれはまたまだまだ遠い未来の事になるのだろう。

ああ、そう言えば結局、驚かされた仕返し出来なかったな……ま、良いか。今度あった時に二倍デコピンでもしてあげよう。


「来週か…おじさん、船貸してくれるかな」


 兎に角今はその時に備えて色々と準備しなければならない。家に帰ったらさっそく父さんと親戚のおじさんに船を貸してもらえるかの交渉をしなければ……


「あと、釣り具も物置から引っ張り出さないと」


気が付けば日が沈め始め、真っ赤な夕日が海を燃やす様に沈み込んでいく光景が見えた。予想以上に昴と長く話し込んでしまったのだろう、あれだけ飛んでいたカモメ達も姿を何処かへと消えててしまった。


そろそろ家に帰らないと、この辺りは夜になれば街灯も何もないので真っ暗になってしまう。家から堤防への道のりは毎日通い慣れたものだが、流石に夜遅くに出歩けば不審者だのと母さんが煩いのでさっさと帰る事に越したことはない。


「あれ…あんなところに島なんてあったったけ?」


その前に、この綺麗な海を写真にとっておこうと、携帯電話を取り出そうとした時、ふと視界の端に妙なものが写った気がして海を見ると、太陽が沈みこんでいく何処までも続く水平線、そこに何かおかしな影があったのだ。


日光が強く海面に反射して陽炎の様になっているせいでその全容は分からないが、海から突き出た三角形型の影は確かに何処かの島のようにも見えたのだ。


無数の小島が点在しているこの辺りにはその時の潮の流れや、風のおかげで見えたり見えなかったりする遠く離れた島がある。でもそれを差し引いても明らかにそこに浮かぶ島は変だった。


普通、そうして現れる島の姿はぼやけ上下さかさまや左右反対に映っているモノが多い。だけど私が見ているモノは多少見えずらいとは言え、岩盤等の細かい地形を見ることが出来る。それは島がさほど遠くでは無く近くになる存在しているという事を表していた。


私が見逃していたのか、いやそれはない。毎日通っているこの堤防の景色を私は頭の中で鮮明に思い出せる。だから感じることが出来た小さな違和感、でもそれは直ぐに来週の準備の事を考えている内に記憶の隅へと消えていった……


                      ・


 堤防からそれほど遠くない、潮風に耐えられるため植えられた松林を抜けた所にある住居が密集した場所に私の住む家は建っていた。


港町と言えばいいのか、海の見渡せる堤防がすぐ近くにある場所に居を構えている家々は殆どが漁師、または海に関することを生業としている者たちだ。


その為あまり人の移り変わりがないこの町は、皆何処かで顔見知りという都会では考えられないような強い結束で結ばれていて、近所付き合いも子供同士、親同士の垣根を越えて様々な親しげな付合いがなされている。


朝は近所の老人たちが空き地で集会を開いたり、昼時には主婦達が井戸端会議と洒落込む姿が見ることが出来る。どこかで誰かが見ているという閉鎖的な側面はあれど、誰もが親友という町の雰囲気は守られているという不思議な安心感を与えてくれる。


平和と言えばそうなのだろう、海や空ほど「自由」というわけでは無いが繰り返される平凡な日常は、それだけで立派な価値がある。


私は少年漫画のような非日常に入り込んだり、劣等感を抱えたまま皆に蔑まれる境遇に順応出来るほど人間が出来ていない。だからこそ思うのだ、この何気なく私が過ごしている日常がもし終わってしまったら、きっと私はその世界で生き残れないのだろう、と。


私は、日常の中で「私」としていれるのだから。


「ふう…やっとついた」


薄暗くなってきた所為で見難くなった、舗装のあまり行き届いていない赤土の道路を星の光を頼りに歩いていた私は、町の明かりが見えた事で意図せず溜息をついてしまった。


辺境の港町でも最近不審者が多く見かけられるという事もあって、予想以上に私自身夜道を歩くのが怖くなっていたらしい。慣れた道なら夜でも難なく帰れるが、そこに不審者なり痴漢なりが現れてしまえば、私ではどうする事も出来ない。


小走りに周りに音を立てず町の中を進み、私の苗字でもある「島咲」の表札の前で立ち止まれば、やっと家に帰って来れたという安心感が私の身体を満たしていくのを感じてた。


張りつめていた空気が解かれたような錯覚にとらわれ、即座に腰が抜けそうになったが、家の前まで来て尻餅をついてしまっては明日は近所中の笑いものになると自分を鼓舞して踏みとどまり、ふらつく足で門を開けたのだった。


「ただいま!」





オリジナル作品を書くのは久しぶりなので、出来ればご意見ご感想をお聞かせください。

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