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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第五章~家庭の事情~
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6.BGM

 軽めのフードコーナーに行くと祓はおもむろにボストンバッグから三段重ねの重箱を取り出した。


「どうぞ…」


 未だに霊のことを考えている今村に祓は恐る恐る重箱を差し出す。


「あ、弁当?悪いね…」


 今村は重箱を一段一段降ろしていく。そして祓を入れて写真を撮った。


「よし。じゃ、いただきます。」

「はい。」


 今村は弁当に手を付けていく。それを見ながら祓も少しずつ食べながら今村と話をし始める。


「…そう言えばこれって月美さんは見てるんですか…?」


 祓が思った率直な疑問だ。先ほど「死神の大鎌」を使っているので見られているのではないかと怖がりながら思っていたのだ。


(…そして話をすることで怪談話を止めてほしい…)


 こっちが本音だったりもする。今村は食事の手と脳内一人百物語を止めて祓の問いに答える。


「いんや。見てない。呪具使ってない・・・・・・・しな。」

「…?『死神の大鎌』は…」

「アレは呪具じゃない。…説明いる?」

「…お願いします。」


 今村は了承して祓の前に半透明のスクリーンを出した。


「えーとそこに載ってるのは呪具じゃない。俺の体から出したもの。」


 祓は一覧を見ていく。「呪刀」、「カースローブ」、「死神の大鎌」、「絶刀絶牙」、「グレイプニル」などが載っておりどれも強力なもののようだ。


「牙だったり毛だったりな…あ、一応言っとくけどアレだ。俺昔狐っぽい感じのやつだったから毛って言っても変なものじゃないぞ。」


(…狐?)


「…まぁ今も髪の毛を振り回してるけど…」


 そして話が終わると今村は祓お手製の弁当に手を付けていく。全て一級品で美味しく、普通なら夢中になって食べるが、今村は頭の一部がどうしても怪談になっているので祓はテレパスを止めることにした。


「…それで月美さんみたいに呪具に取り込まれるのって…」

「あ、それはもう無理。俺の神核が出来上がり始めたからな。そうなると概念が凝り固まって変更が難しくなる。…ほら、雷の例えだしたじゃん。言うなれば雷って概念に落ちる前に螺旋回転して落ちるとか条件をプラスするみたいなもんだよ。」

「…そうですか。」


(つまり私が死んでも一緒じゃない…ってことか…)


「因みにあと一押しで基礎構成が出来る。」


(生きるか死ぬか確率7:3って所かな~)


 これを祓が聞いていたらどう思っただろうか。因みにこの計画は今村以外に月美しか知らないし、月美も今村が死ぬ恐れがあるとは知らない。

 今村は死ぬ気はないので伝える必要もないし、仮に死んでも別にいっか位のスタンスなので言ってないのだ。


 因みに呪具の中には「呪氣」を込めれば半永久的に動くものがあるため、心置きなく今村は死ねると思っている。


(でも死ぬ気はないけどね~詐欺したくないから誰にも言わないけど。)


「うん。美味しかった。ご馳走様。」

「…その…」


 今村がある程度食べ終わって祓の分を残して食事を終了させると祓が何か言いたそうにじっと今村を見ている。


「ん?」

「あの…い…今は恋人同士じゃないですか…」

「そだね。」


 今村が軽く答え、気付くと祓が今村の箸をじっと見ていた。


(…もしかして…)


「あ、あーんって…」


 祓は顔を真っ赤にして催促した。今村はしばし逡巡する。


(そこまでしなくても…でも態々言ってくれたんだし…うーん…)


 今村も自身の箸に目を落とし少し沈黙が流れると今村は決心して焦げ目ひとつない卵焼きを箸で取って祓の口に運んだ。

 辺りから舌打ちのBGMが流れる。男性なら思わず参加したくなる雄々しく良いメロディだ。


「あむ。」


 祓はそれを食べて嬉しそうに顔を緩める。辺りのメロディが再び蘇る。序でに演奏者の隣にいる女性たちが演奏者に熱烈な気合ビンタを入れたり、激励こごとを言ったりしている。

 一部では負けられないと食べさせ合っている所がいてそこでも別のメロディが奏でられる。


「せ…先生もどうぞ…」


 叱咤激励を受けることができた人々以外がラストスパートに入る。叱咤激励を受けた人々はファンこいびと感謝しゃざいの言葉で忙しいため参加できない。

 因みに先程上げた一部地域では寧ろキスしたりして空気を悪化させるのに貢献している。


 祓は緊張していてその辺を聞いていない。今村もマイナスの空気が入って来ているのは分かっているがそれどころじゃない。目の前に祓が差し出す箸が唐揚げを伴って迫って来ている。


(…これ…姉貴に見つかったらお仕舞だな…今は興味なくしてくれてるみたいだからよかったものの…)


 アーラムの苦労も知らない今村はブラコンだと思う姉(今村は結構無視してきたため氷山の一角しか知らない)が見たらどう思うだろうか…アレは光速で動くから逃げられないし…などと思いながら差し出されたなら仕方ない。と腹をくくって祓が差し出す唐揚げを口で受け取る。


「ど…どうですか…?」

「美味しいよ?」


 今村の口に唐揚げを運ぶため、前傾姿勢になり結果上目遣いになりつつ今村を見上げる祓。今村は実際に美味しいから何の躊躇いもなく正直に答えた。

 そして舌打ちのメロディはクライマックスを迎え、これで終了した。


 その後祓の分が残っているのを祓は箸をじっと見て食べ始めたのを見て今村ははっとした。


(あ、俺の唾液って今何かな…良かった…今日は媚薬か…猛毒だったら大変なことになってた…)


 3日で入れ替わる自身の体液の効果。基本何らかの効果を持つものの中で今日は一番薬効に害のない媚薬だったためほっとする。

 こんな状況になるとは思っていなかったため気にもしていなかったが自身の毒についての解毒薬はあるとはいえ、一歩間違えれば危ない目に遭うところだったな…と深く反省した。


(ま、媚薬なら神核で無効化できるし大丈夫だろ。)


 そして二人は空気の悪くなったフードコーナーを後にする。

 因みにこの日の売り上げは客が少ない割に上々だったという。また、調味料をけちって少なめにしているにも拘らず味が濃いという噂が立って味付けを更に薄くしたところ大不評となり、後日潰れた。




 それはさて置き、祓は周りを見て男女二人きりの道行く人の多くが何らかの形で触れ合っているのに気付いた。


「…ん?」


 今村は祓の様子がおかしいことに気付く。そして祓の視線を辿ると恋人つなぎをしている手にぶつかった。


(あぁ…あの組み方は指を挟んで折るって教えたのに何でそんな状態でうろうろしてるのか不思議って感じかな…)


 物騒なことと怪談のことしか考えていない今村は横を歩く祓に声を掛けた。


「あー…あれは恋人繋ぎって言って恋人同士がするやつで戦闘用じゃないぞ。」

「…別にそんな物騒なこと考えてませんよ…」

「因みに今俺ら恋人だけどやってみる?」


 もちろん冗談だけど…と今村の口から出る前に祓が目を開いていた。


「あ?」


 何事かと今村は言葉を切る。


「いいんですか?」

「…折るなよ?」

「折りませんよ!」


 祓は恐る恐る今村の手に指を絡める。そしてどんなことを思っているのか気になって見てみたが未だに怪談が流れていたので即座に打ち切る。


(…他人に触れられるの大っ嫌いなんだが…まぁ自分から言い出したんだし、左手だからいいか…)


 BGMが聞こえてきそうなことを考えながら百物語を終えると百一番目の怪談の化物が黒い霧を伴って目の前に出現して来たのでまず手の届く足を切り落として次にバランスを崩したところに「死神の大鎌」を一閃。


「あらよっと」


 そして祓の手を引きながら離さずに化物を屠る。化物は霧を晴らす前に死に絶え、今村は満足して怯える祓の方を見た。


「はい大丈夫だから安心して帰ろうな。」

「は…はい。」


 自分を目の前で守ってくれた人に熱っぽい視線を向けながら祓は頷いた。


 因みに帰り道、祓が手を離すことはなく、BGMが絶えることはなかった。

 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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