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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第五章~家庭の事情~
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3.再議

「…と言うことで、こんな状況になりました。」


 今村は相馬にもう一度説明した。

 相馬は一度祓から聞いた話なのだが、一応齟齬がないかなどを確認するためにもう一度聞いてそれから言った。


「質問なんですけど、月美さんはどうなんですか?」


 空気が凍った。その原因となる祓は相馬を睨み殺さんとばかりに睨みつける。今村は一つ溜息をついて月美を召喚した。


「…どうしたのですか?マスター」

「説明するために呼んだ。…まず、月美は死んでる。」


 その言葉を聞くと相馬が唇を噛み、血が出る。


「…すみません。僕が屑だったばかりに…」

「えぇ、謝って済む問題じゃありませんけどね。」


 月美は容赦がなかった。相馬は許されるわけがないと知りつつそれでも頭を下げるが、今村が話が進まないと止めさせた。


「で、話を戻すと、月美が死んでるのにこの場にいるのは呪具の所為。呪具の力の発露に伴う現象として現れている。」


 ここまではいいか?と周りを見て小野以外は何とかなりそうだったので続ける。


「まぁ簡単に言ったら、雷が落ちるだろ?雷が落ちるという現象に伴って雷鳴が轟く。雷自体が起きるのに雷鳴はいらないけど二つはセットで起きる。」


 全員が分からないと言った風なので今村は少しだけ頭がよくなる薬を飲ませた。


「それを俺に当て嵌めると雷が呪具で雷鳴が月美。」

「…それがどうしたんですか?」


 賢くなるお薬ウィズダムウォーターを飲んで何となく言いたいことがわかった3人はそれを言った意味が分からなくて代表として相馬が今村に尋ねる。


「…じゃあ轟音を鳴らすと雷って言えるか?」

「?言えませんが…それが何か…」

「そう。唯の大きな音であれば雷鳴とは言わない。…つまり雷が落ちていないのに大きな音が鳴ったとしてもそれは雷鳴ではない。それを俺の場合に当て嵌めると、呪具が使えないのに月美を呼ぶことはできない。」

「…最初からそう言ってくれればいいのでは…?」

「ん~何か思い付いたから言ってみたくなった。」


 無駄に長い説明となった今村の言葉に少しだけ呆れる祓。自分が恋人になれるかどうかが掛かっているので気が気でないのだ。


「要するに俺の自宅の部屋には全能力使用不可の結界が張ってあるから月美は呼べない。」

「…そうなんですか。」

「うん。傀儡も無理。大体からして俺の一家って人間の割におかしいから人じゃないってバレる可能性があるしな。」


 今村は軽く笑った。実は原因に今村が若干関与しているのだがそれは面に出さない。表層心理にも出さない。


「…ところで私は何のために呼ばれたのでしょうか?今の説明で済むなら私がここに来た意味は…」

「特にないな。さっきの説明で納得しないだろうし実演もしようか?って思ってたけどなんか面倒になって『ウィズダムウォーター』使ったから。」

「…とりあえずお茶を淹れますね。」


 用件がないとのことだったので月美は出来ることをやって、話し合いの準備を済ませると今村の後ろに控えた。


「…で、偽の恋人大作戦なんだが……そう言えば何で祓ここに居るんだ?」


 今村の問いに祓は答えに窮した。正直に言えばおそらく呪いに阻まれて今村に通じない。ならば何と言えばいいのか。


「…小野さんが…可哀想でしたので…」


 好意を全く伝えないとして言える言葉がこれしか見当たらなかったので、祓は苦り切った表情でそうとだけ答えた。


 ―――全く…顔に出るくらい俺の恋人役やりたくないなら言わなければいいのに

…ってかそんなにこいつら仲いいのか?いつの間に…―――


「ちが…」


 祓は今村の思考を読んで自分の思っている意図以上に不味いことになったと思い慌てて否定しようとするが、テレパスを使っていることがバレそうになっている最近ではそんなことを言い出せない。

 結果唇を噛み、黙るしかなかった。


 ―――全く…これは助け舟を出すか。俺が命の恩ってのと小野の方がいいっていうことを全面に出せば俺の所為ってことになって両者に遺憾は残らんだろう―――


 これには祓の心が捻じ曲がる気がした。胸が押し潰され、呼吸が止まる思いになる。


(嫌だ…私より小野さんが良いなんて嫌…嫌…『我が願い聞き届けたまえ』…『ディザイア』発動。)


 祓の心をどす黒い何かが占めていき、祓は能力を発動させた。


 今回の代償は「のちなる災い」それで祓は小野の強制退場を願った。その時、授業終了の鐘が鳴り響き、その後、校内放送が入った。


「2-4小野小町さん。2-4小野小町さん。至急職員室まで…繰り返します2-4小野小町さん2-4小野小町さん。至急職員室まで…」

「…?なんだろ…ちょっと待ってて。」


 小野は「幻夜の館」から出て行って職員室に向かった。そして数分後、帰って来た。


「…何だったんだ…?」

「うぅ…」


 小野は半泣きで今村を見る。


「…この前の物理の小テストが悪すぎるから補習って…毎回合格点とるまでって…」

「…そうか。」


 ―――そこまで悪いのか…確かあの物理の先生よほど悪くないと補習とかしないって情報が入ってた気がするんだが…―――


「因みに何点だったんだ?」

「ろ…」


(60台か…おかしいな。そんなに悪くないが…)


 今村が疑問に思う中、小野は続けた。


「六点…」

「はぁっ!?単純な暗記で合格点越えれるレベルだったろ!?」

「うん…でも最初のところで公式忘れて…なら新しい公式作ろうって…で、出来なくて最後の方の答えをばーって書こうとしたら時間切れで…」


(…新しい公式作ろうって…こいつ…滅茶苦茶だな…)


 今村が苦笑いする中小野の思考を祓は読んでいた。


 ―――うぅ…せっかく今村と同じクラスになったからいいとこ見せたくて頑張ったのに…こんなチャンス不意にしちゃうよぉ…―――


(…ごめんなさい…)


 本気で悔しがっている小野を見て罪悪感を覚える祓。だが、六点をとった事実と祓は関係ないので微妙な気持ちだ。


「…流石にアレだ。…うん。頑張れ。そんな状態で恋人役頼むほど俺も鬼じゃない。」

「うぅぅぅ…」

「…これで私が恋人役決定ですね。」


 祓はここで笑顔を浮かべることが出来ればいいのに…と思いつつうまく表情に出来ずに無表情にそう言った。


「…いや、でも…」

「五月蠅い。」


 相馬が何か言いたそうにしているが祓はバッサリ切り捨てた。それでも尚相馬は何か言いたそうだったが今村が軽く睨む。


「…悪いが相馬。お前が祓に口答えするのを認めるのは俺が今作ってる世界を生きてからだ。」

「…はい。」


 不承不承ながら相馬は頷いた。祓は相馬が自分のことを本気で好きになったこと、前回の失敗の所為で様々な感情が渦巻いていること、そういったこと全てを鬱陶しく思いながら今村の方を見る。


「…はぁ。嫌なら下りてもいいが…乗るならしっかり最後まで頼むぞ?」

「はい。」


(…寧ろ一生お願いしたいのですけどね。)


 ―――じゃあとりあえずデートプランから考えるか…それとも親についての注意事項からか…?―――


 祓は今村の思考を読みながらこれから待ち受ける時間に思いを馳せつつ月美が淹れたお茶に手を伸ばした。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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