1.面倒なことになった
「…ちっ。」
「と言うことでお前に嫁が出来る!」
今村が「幻夜の館」から帰って来たところで家に帰ると珍しく一家が全員そろっており、開口一番そう告げた。
「結構可愛い子だぞ?喜べ!」
「…あぁよ。」
(めんどっ!一応俺の部屋を魔改造してるから新しく家を持つまでここに居る予定だったが…失踪してやろうかな?)
そう思ったが一応育てられた恩はあるので高校卒業までは言うことを聞いて、高校卒業と共に育児にかかった金を全額返して、あとプラス手間暇金と感謝の分を足した金を置いて失踪しようとしていた計画を思い出して止めた。
「…はぁ…もうそんな歳ね~この子気に入らないけど…まぁいっこうに彼女も作らないんだから仕方ないわね~…」
(…ん?彼女を連れて来ればいいんだな?)
母親の一言にそういうことなら…と今村はやる気を出した。
「彼女連れてきてやるよ。」
今村は歪んだ笑みを浮かべて自室に帰って行った。
翌日。
「小野。ちょっと面かせ。」
「へ?」
教室に着くなり今村は小野を連れて人気のない場所に移動した。
「…何?」
「貸し一つあったよな?」
「え…うん…」
「ちょっと彼女になってもらうからな。命に比べれば安い物だろ?」
今村は歪んだ笑みを浮かべつつ小野にそう言った。小野は少し固まると次いで大声を上げる。
「はぁあぁぁぁぁっ!?」
「まぁ分かる。俺みたいなのと…」
(何で!?こんなに良い話があっていいの!?夢?え…えぇっ!?)
「…聞いてるか?」
興奮状態に陥った小野の正気を疑う今村。小野は中々正気に戻ってくれなかった。
「も…もも勿論いいわよ?その…お礼を兼ねてね!それで結婚とかは…」
「…聞いてなかったな?」
今村はもう一度説明をした。
「…成程。私と本当に付き合うわけじゃないのね…」
「そこまで行ったら酷すぎるだろ…二回くらい命助けても足りんぞ?」
今村は苦笑するが小野は少し納得いかない。酷いなんてとんでもない勘違いだと思いつつ都合がいいので指摘しないで今村の次の行動を促す。
「とりあえず、『錯視錯覚』式神符」
今村は紙を教室の方に飛ばして小野に「幻夜の館」に向かうように言った。小野に否はなかった。
(…あ、来た…!?)
祓はいつもの様に今村を待っていた。そこで聞き逃せないテレパスが入る。
―――まさか今村と付き合える日が本当に来るとは…夢みたいだよぉ~えへえへ…助けてもらった上にこんな良いことがあるっていいのかなぁ…―――
「はぁっ!?せ…先生っ!?」
その直後に今村の歪んだ笑みが視界に入ると共に情報が流れて来た。それで祓は全てを知り、安心する。
(良かった…。…でもそれなら私がいるのに…私の方が色んなお世話になってるし、何より先生のことがずっと好きなのに…そうだ。)
「よぉ祓。」
「お早うございます先生。…そちらの方は?」
「小野。ちょっと色々あってここに来てる。じゃ、部屋に引きこもってるから。」
何故だか居心地悪そうな小野を連れて今村は祓のすぐそばを通り抜けようとする。しかし、祓が呼び止めた。
「何をされるおつもりですか?」
「ん?これからについての会議的なもの。」
「ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
そこで今村は不審に思う。何故か今回祓が引き下がらないのか分からないのだ。祓は今村の表情と心情を見て失敗したことを悟る。
「あ…いえ。何でもないです…」
そこで更に今村の不信感が煽られた。自分が訝しんだ直後に祓は引き下がったのだ。不思議に思わないわけがない。
―――まさかテレパスとか使ってんじゃねぇだろうな…―――
祓はこれだけの事で真相に辿り着いた今村を前に面には何も出さなかったものの内心冷や汗をかき続けた。
―――じゃあアレだな。怪しいなら実際に燻り出してみよう。―――
突然無言になり祓と対峙する今村の横で小野はわたわたしている。見方によっては互いに見つめ合っているともとれるのだ。
そんなことに気付かない今村は自身の中で考える祓が最も嫌がりそうなことを考えた。
―――これは今仮に読んでたとしても見た瞬間不快な顔を作るはず…身構えても無駄だ…―――
(っ…バレたら嫌われる…嫌…嫌ですよぉ…)
そして準備が完了した。
―――これで読んでなかったら俺馬鹿みてぇだな。まぁいいけど。さて、始めようか。―――
まず今村の頭の中に登場したのは祓と今村だった。ベッドが備え付けてあるホテルのような部屋の高い場所から二人を見下ろす視線となってそれが頭の中に流れている。
(…?ここから何が…まさか!私が先生を殺すとかそんなことを考えて私の心を引き裂こうと…)
祓は自身が今村を傷つける姿を見せられるのではないか、それで明確に敵認識されて嫌われることまで見せて精神的に追い込むのではないかと考えた。
確かに嫌われることを考えると祓は少なからず顔に出るだろう。…しかしその心配は必要なかった。
突如思考の中にいる今村と祓は服を脱ぎ始め、二人で体を寄せ合ったのだ。
(…へ?え…え~と…)
そして抱き合いながら備え付きのベッドに二人で入ると…今村の思考が切れた。
―――気持ち悪っ!俺の裸とか駄目だ死ねる!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…あぁ吐きそうだ…死にたい死にたい死にたい死にたい…俺の全身図とか見ただけで呪いレベル…で、まぁそれは置いといて、後で吐けばいいし、祓は…――――
当然何もない。困惑している。
―――フム。これだけ気持ち悪い物を見せたとなれば顔に出ていないとおかしいしな…目の前で俺の顔があるという事実だけでも俺は死ねるレベルだと思うが…―――
(…幸せですけど。寝起きにこの顔があるととても安心できますし…)
―――困惑した顔も俺がずっと見てたことを考えればおかしくない。―――
祓の心情など全く知らない今村は勝手に分析して決断する。
―――読んでなさそうだな。俺という存在とヤろうとしている所を見たとなれば発狂しそうになって騒がないとおかしいもん。あぁ心配して損した。あんなこと考えるとか気持ち悪い気持ち悪い…死ねばいいのに。―――
そこまで言われるとムッとする祓。いくら今村自身のこととはいえ、今村のことを貶されると面白くないのだ。
ましてや死ねばいいなど絶対に口にして欲しくもないし、考えて欲しくもない。一度失いそうになった時の絶望感など二度と感じたくはないのだ。
「…まぁいいや。折角だし祓も連れて行くか。三人寄れば文殊の知恵とも言うし。」
「…はい…」
「え?ちょ…ちょっと今村ぁ…この人にバラすの?」
「…う~ん…一応女性として客観的な意見とか聞きたいし…」
なんだかんだで祓も会議に参加することになり、皆で「幻夜の館」に入って行った。
ここまでありがとうございました!
何かごめんなさい。突然謝りたくなったので謝っておきます。




