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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
章間4
93/644

ちょっとした日常の話 その1

「え?何か来たなこりゃ…」


 今村の通信木が不意に鳴り響き、今村は一瞬顔を顰めて通話を開始した。


『やっほー生き返ってたなら言ってよ~』

「あぁ…えーと誰だっけ?」


 声に聞き覚えはなかった。男の声だということは分かったがそれ以上の情報は望めなさそうだ。


『あ~覚えてないか…技術班班長だったロベルトだよ。』

「あ!ロベルトね!変態サディストの!」

『正直サディストはそっちだと思うけどね。…まぁその辺は置いといてさ、君俺に竜の子供預けてたの覚えてる?』


 男の言葉に今村はしばし沈黙して考えた。


「あー…うん。確か…えーと…」

『覚えてないねその反応…彼女泣くよ?』

「あれ?メス?龍に性別とかあったっけ?」

『…あ~その辺は彼女に直接訊いて。で、本題はそっちじゃないんだよ。』


 じゃあ何でその話からしてきたのか…と思わないでもなかったが今村は大人しく話を進めることにした。正直前世の柵とか鬱陶しいのだ。


『ちょっと全力でチートの子を作ったんだけどさ~』

「どん位の?」

『第二世界の神になった俺を頑張ったら殺せちゃうくらい。』


 今村が今いる世界ゲネシス・ムンドゥスは第三世界。つまり第二世界より下位の世界だ。当然能力が劣る。そんな第二世界の神を殺せるとなればこちらの世界にいる人からすれば驚くに値するものだろう。

 そんなことを聞いた今村は笑った。


「へ~馬鹿みたい。お前神なのに殺されるようなことしてるのかよ。」

『いや悪乗りしちゃってね~大体君が勝手に死ぬのが悪い【白刃鬼はくじんき】なんておっそろしい奥義作ってね~』

「別にいいだろ。どうせ死ぬんなら派手に逝ったって…で、それがどうしたんだ?」


 特に前世の事は気にしていないつもりなので今村はさっさと話を終えようと先を促す。


『でさ~やっぱりバランスとらないといけないからさ、生まれが悲惨になってね。大変なんだよ。ほんっと神を恨んで殺しに来るレベルまで世界を恨んでるの。』

「そうか。じゃ俺はお前の葬式を開けばいいんだな?」


 面倒臭いな~と思いながら今村は話を終えようとする。が、当然それで話を終える相手ではない。


『ちょっと待った!前世じゃ一緒にゲーム作った仲じゃないか!どうにかしてよ~』

「てめぇの自業自得だろ。大体お前は姫好きだから依怙贔屓した相手もどうせ姫なんだろ?」

『うっ…』


 図星をつかれた第二世界の神が呻く。今村は溜息交じりに答えた。


「俺が王女とか公女とか嫌いなの知ってるだろ?面倒臭いんだよ色々…」


 その時部屋の隅で何かを取り落す音が聞こえた。今村は一時通信木を切る。


「どうした~?」

「い…いえ…なんでもないです…」


 実験の見学という名目で今村を見ていた祓が休憩するなら…と淹れて来たお茶を取り落したのだ。


(…私はもう公女じゃないから大丈夫…私はもう除籍してるし…)


 祓は自身にそう言い聞かせてお茶を入れ直しにまた出て行った。そして今村は通信を再開する。


「で、なんだっけ?」

『ちょっと戸渡りしてさ~こっちに来て助けてくれない?』

「てめぇでやれや。」

『それがね~王族特製の呪いの所為で俺も手が出なくなったんだよ…』

「マジで馬鹿だな…」


 今村は大きな溜息をついてそう言った。


「分かった…とりあえず今は世界改変とかしてるからそれが終わってからな。」

『召喚はこっち持ちでやるから準備が出来たら言って。』

「あいよ~」


 それで今村は通信を切った。


「あ、話終わりました?」

「ん?誰が喋っていいとか言った?」


 訓練という名の拷問中の相馬が今村に口を出してきた。真人間プロジェクトで『正しいお辞儀の仕方』と『挨拶の重要さ』や『礼儀1000種』とかのビデオを頭の中に強制で流し込まれつつ空気椅子中だ。


「追加で『坊さんの説教・説法完全版』も脳内メモリーに入れておこう。」

「はい!俺あの話好きなんですよね…人の為に生きる…何て素晴らしい言葉なんでしょうね…」


 最近ちょっと壊れ気味かな…と思わないでもないがまぁ細かいことは良いとした。


「で、お気に入りの5時間を過ごすのもいいんですけど祓さんの事で少し先生に言いたいのですが…」


 今村は何故持っているのか分からない説教完全版を相馬の頭の中に流し込む機械に設置しながら話を促す。


「何だ?」

「笑顔は幸福を呼ぶじゃないですか。それに本人も笑うことで幸せになる…それなのに彼女が笑ったところを見たことがないんです。これは寂しいことだと思いませんか…?」


 なんかおかしなことを言っているな…と思ったが相馬の目は真剣だった。


「苦しい過去があったんだと思います。その所為で笑うことを忘れているのではないか…そう思うんですよね。ですから多少無理にでも笑わせた方がいいのではないか、笑うことを思い出させるという意味でもやって欲しいんです。」

「…まぁ…別にいいけど…さて、笑うね…俺一定以上の感情がない交ぜになると勝手に笑いだすからな~笑うしかないし。」


 軽く悲しいことを言って今村は笑った。そこに祓がお茶を淹れ直して戻って来た。


「…?どうかしました?」


 祓は帰って来るなり自分の顔に注目され、不思議に思うと何かあったのかと相馬の心を覗いてみる。

 そして後悔した。


 次に今村の心を読んでみる。すると議題は自身が笑えるかどうかだったことについてと知り、とりあえず何かされれば笑おうと試みる。


「…よし、相馬なんか面白い話をしろ!」


 今村の命令に相馬は即頷いた。

 そして後悔した。説法が始まったのだ。


「感謝の意を以て人に接し、自身が今までどれだけの人に支えられてきたのかを考えてまた助け合いの輪を広げていくことが…」

「…もういい。」

「…ですが…まだ笑ってませんよ…?」

「…そんな話で笑えるか!ちゃんちゃらおかしいわ!って笑いなら起きるかもしれねぇが真剣に言ってる姿を笑うほど祓は俺に毒されてない!」


(…つまり私はまだ先生色に染まってないんだ…)


 あさっての方向に解釈して祓は落ち込んだ。そんな状態を見て今村は話に浸かれたんだろうな~と言った気分になる。


「…僕が知っている話で一番興味深く面白い話だったのですが…話術が足りませんでしたかね…」


 真面目くさった状態でそう呟く相馬に今村は何も言えなかった。相馬は気を取り直して次の方法に移った。


「…ならばいっそ実力勝負にでましょう。祓さんをくすぐって下さい先生!」

「…いきなり拷問に出るか…まだ精神が悪い方向に向かってるみたいだな…追加で『人はなぜ生きるのか』も入れておこう…」

「む?新しい話ですね…興味深い…」


 更に加速する洗脳計画。それと並行して「擽る」でいきなり拷問を思い浮かべる少し困った人の今村は微妙な顔をして「呪具招来」を使い、黒いレザーグローブを手にはめた。


 ―――これちょっと問題あるしな~あんまり気が進まないでも一回起動すれば勝手に動くし―――


「…それなんですか?」


 祓はテレパスで読みながら一応質問する。今村は擽るための道具とだけ答えて手袋を収納するかどうか悩んだ。


「…そうですね。私も笑い方を忘れて久しいのでお願いします。」

「…わかった。」


 今村は「呪具発剄」を行い、起動した。因みに月美は見られると何か嫌な予感がしたので起こさない。


 そして今村は祓の体に触れる。…が、効果が薄い。くすぐったくもなさそうだったので今村は顔を顰めて思った。


 ―――モード弱じゃ無理そうだな…でもな~最強まであるけど中からセクハラになりそうだし…うーん…それに一回起動したら外部からの刺激で勝手に強くなっていくから使いたくない。下手に暴れられると最強モードになって責任をとることに…―――


 その言葉を聞いて祓は少し抵抗してみた。すると肌の表面をなぞるだけだった今村の指が移動し始める。


「あ、おい止めろ。」

「…効かないんですが…」

「これ以上は不味くなるんだよ…」

「…ではそうしてください。」


 祓が抵抗を開始、今村の指は太腿などに行き始め、そして擽るという行為から少し逸脱し始めた。


「祓。これ以上の抵抗は止めろ。一回止めないと俺も操れない。」

「っふぅ…だ…だいじょ…ぶです…ぅん…」

「マジで不味いだろこれ…」


 周りを見ると相馬は新しい話に聞き入っているのか目を閉じて深く頷いたり感嘆の溜息などを漏らしていて周りの状況に気付いていない。


「あ~もう…」

「ひゃっ…し…しぇんしぇえっ!」


 大分逸脱した行動により、祓の呂律が怪しくなっていく。それでも抵抗をやめない祓のスカートの中に右手が伸び、左手が祓の誇る豊かな双丘に伸びた所で今村は思い切った。


「『αモード』!おっらぁっ!」


 無理やり呪具の力を捻じ伏せて今村は祓から離れた。


「っはぁ…あー…世界改変を大規模でやってるからこれは使いたくなかったが…仕方ない。祓。悪いが俺は今日使い物にならんから寝る。後は任せた。」

「はぁ…はぁ…ぅうん…わ…わきゃりましゅた…」


 上気する祓をほっぽり出して今村は逃げるようにその場を後にした。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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