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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第四章~新しい客~
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21.失敗

 ルカと今村が寝てラバーが怯えていたその頃、祓たちの班はすでに就寝していた。


「…くっ…誰も見てないし…いいか。」


 見張りの相馬を除いて。こちらはルカと違ってまだ襲撃の時に確実に反射的に起きるほど訓練を積んでいないので交代で見張りを立てることにしていたのだ。


 そんな相馬は森の中でいくら気配察知が出来るとはいえ、真っ暗なのは怖いと今村の教えを無視して焚火をしていた。


「…攻撃性とか好奇心の強い動物が近寄って来るけど…まぁ暗いのより怖くはないな!」


 最近の今村の訓練のおかげで人界の生物よりもはるかに強いとされる地獄人を凌駕する強さを手に入れていた相馬は少々調子に乗っていた。


「…にしても先生怖ぇよな~獣より夜より何より先生が怖い!」


 一人では暇なので交代まで独り言で気を紛らわせることに決めた相馬は途中で独り言にも飽き、自身の妄想を静かに一人で演じ始めた。


「襲い掛かるサーベルライガー!それを颯爽と助ける俺…って無理かな~祓の方が俺より強いし…不意打ちでもされないと…」


 途中で現実に帰り溜息をつく相馬。想い人が強すぎるのも問題だ。

 …因みに相馬は祓があれだけ今村にべったりでも恋愛感情は持っていないと思っている。というより祓は自分に好意があるんじゃないか…とか思っていたりする。


「でも照れ屋だからな…何と言うか…恥ずかしがり屋だし…それに他二人も可愛いからハレムを作りたいのは男として当然だろ!…でも他二人も手を出そうとするから祓は怒る…」


 そんな勘違いの中で相馬は葛藤していた。祓を確実に落とすか、それとも3人同時攻略を頑張るか…


「…何か丁度いいピンチとかないかな~俺が勝てる相手で祓と月美ちゃんが不意を突かれて捕まるとか…」


 そんなことを考えていると相馬の気配探知に複数の人間と思わしき気配がひっかかった。


「…これは…チャンスか…?」


 誰にも聞こえない声でそう呟くと相馬はそこそこ大きな声で辺りの気配の主にも聞こえるようにトイレトイレと言って持ち場から離れた。



















「オキロ。」

「ん…ぅ?っ!」


 薄暗い場所で祓は起きるとすぐに体の自由が利かないことに気付いた。そして隣には月美も捕まっている。月美はすでに起きていたようだ。端正な顔立ちを歪めている。


「これは…?」

「ヤットオキタカ。」


 目の前にいる男たちの格好は「白虎の森」に入る時に見たことがあるものだった。祓は口から相手の正体を零す。


「…原住民の…」


 そしてそれは当たりであり、原住民の男の代表と思われる飾りの一際大きな人物が努めて無表情に答えた。


「オトナシクシテイロ。オマエラハワレラガイチゾクノヨメトナルモノダ。オトナシクシテイレバコロシハシナイ。」


 その言葉を言っている間に祓の頭の中にこれからどうなるのかがぼんやりとしたイメージで流れてくる。それは祓にとって…いや、大方の女性にとって到底受け入れられるものではなかった。


「っ!『我が願い聞き届け給へ』…」


 祓はそんな状況から逃げようと固有能力を発動させ、逃げようとする。…しかし、発動しなかった。


「何で…?」

「…何故か分かりませんがここでは魔法が使えないようです。」

「ココハシンイキダカラナ。マホウナドトイウジャホウハツカエナイ。」


 困惑する祓に月美が苦々しげにそう説明し、部族の代表の男がそう言うと、男たちは下卑た笑いを始めた。祓は歯噛みする。


「オトナシクワレラヲウケイレ…」

「そこまでだ!」


 そんな時だった。薄暗い場所に光が少しだけ入ってくる。そこから来たのは相馬だった。


「…よくも俺の仲間に手を出したな!」


 相馬は怒りの表情を浮かべながら外に近い男たちを倒して室内に入ってくる。外は夜が白み始めたくらいの時間のようだ。


 ―――これで俺はヒーロー!ククク…見てろよ~!―――


 怒りの表情に反した下心が祓の中にテレパスで流れてくる。魔力が不安定で精度は高くないがそれ位は分かるようだった。


(さいってい…)


 それで祓は全ての真相を知る。今村の教えを無視して敵を呼び寄せ、挙句それを知らせずに逃亡までしたということだ。


「このっ!」


 ―――あれ?おかしいな…体がうまく動かない…―――


 それにここの特性すら分かっていないようだった。そんな心底見下げられた相馬に部族の代表と思われる男が立ちはだかる。


「トマラナケレバコノオンナヲコロス。」


 乱暴に起こされて月美は苦悶の顔を作る。その美しい顔のすぐ下―――首筋に男はナイフを当てた。

 それを見て相馬は啖呵を切る。


「やれるものならやってみろ!」


 言い終わると同時に相馬は走り出す。相馬はいつものスピードが出せると思って月美の首にナイフが刺さる前に男を倒そうとした。

 だが…間に合わなかった。


「…へ?」

「ケイコクハシタ。」


 相馬の間の抜けた声が響く中、月美の首から大量の血が迸る。


「イマダ。コウソク。」


 魔の抜けた顔をしたままの相馬を大勢の男たちが取り押さえる。


「…あれ?おかしいぞ…?何でだ…?」


 相馬は混乱して捕まるのにろくな抵抗もしていない。部族の代表と思われる男は相馬を見て下卑た笑みを浮かべている。


「オマエハオンナノドレイダ。」


 そして男たちは相馬に蹴りを入れる。今村が遠目から見ても分かるほど鍛えられた下半身が発する強烈な蹴りだ。


「ぐっ!がぁっ!」


 いかに鍛えたとしても力が入っていなければ意味がない。相馬はまだ混乱している状態でそれをもろに喰らい血を吐く。祓はそんな相馬の事よりも月美の方が気にかかった。

 ただでさえ精度が低いテレパスから聞こえる月美の思考の声がかなり弱々しいのだ。


 ―――あぁ…私…終わるんだ…―――


 感じられる「氣」も弱くなっていく。祓は「キュアモーラル」を全力で施せば治るその怪我を前に動くことが出来ない。


 ―――これからご主人様に恩返しを始めようと思っていたのに…あの屑男の所為でっ…―――


 月美は部族の男から色々と話を聞いていたらしい。見張りはどうしたのか。何故居場所がわかったのか。そんなことを聞いて相馬が最悪なことをした結果捕まったことを理解したらしい。

 月美の思考は相馬への恨み言でいっぱいだったが、いつしか走馬灯で埋め尽くされ…そして暗転した。


「…『氣』が…消えた…」

「何でだ…?こっからうまくいって…俺がヒーローになって…」


 呆然とする二人。それと対照的に部族の男たちのボルテージは上がっていく。


「キョウハワレラガシンジュウヲマモルコトガデキ!シンジュウハワレラニホウビヲクダサッタ!ココニウタゲヲカイサイシヨウ!」


 相馬が開いた建物の扉が全開になり、篝火が焚かれる。


「…ちっ…最悪…」


 そんな時だった。建物内の空気が一瞬で変わり、炎の熱とは別に空間が歪んで見え始めた。


「『千変特化異化探知』解除…」


 黒い「氣」を纏ったその体は進むたびに空間を侵食し、近くにいる者を蝕んでいく。


「…あー…最悪。ほんっと最悪。皆死ねばいいのに…」


 その言葉を聞いたものの中には本当に息絶える者がいる。


「…さて、とりあえず…君らには死んでもらおうか。」


 今村は感情の欠落した顔でその場にいる部族にそう言って手を翳した。




 ここまでありがとうございました!


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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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