20.探索
「あっ!もふり損ねた!」
戻りながら今村はそのことに気付いた。…が、崩壊しかけた世界に子猫たちがいるのでまぁいいか…と思い直すことにする。
「さてさて…どっちが勝つかね…」
弟子4人には閉鎖空間の時間に合わせた時計を渡しているので待ち合わせ時間が分からないということはない。
現在は11時47分。戻るには早い時間だが今村が捜索するわけでもないのでいいことにして合流地点に戻っておく。
「…あ、先生。」
合流地点に戻ると全員が戻って来ており、その中の一人…相馬が縛られて打ち捨てられていた。
「…何事だ?」
とりあえず訊いてみる。すると月美が淡々と話をしてくれた。要するに相馬がいいところを見せようと無駄に張り切ってルカの邪魔をして何回かラバーが死にかけたらしい。
それでルカが月美と祓にヘルプを求めた所、相馬はなおのこと無駄に張り切って3人の連携を破壊しまくって何回か危うい目にあったらしい。
「…馬鹿か。」
今村は吐き捨てるように言った。
「あー…相馬。お前午後から祓と月美の言うことを聞かなかったら衆道地獄に強制転移。」
「そんなっ!」
愕然とする相馬。因みに相馬は一度落ちたらどうなるか知りたくなり今村に頼んで衆道地獄を見学した。
感想はまさに地獄絵図だった。絶対に落ちたくない物だと相馬は震えながら語ったという。
それはさておき、お昼の時間なので女性陣が作った料理を食べてから行動に移ることにする。この間にも今村だけが優遇されて男性二人は大変不満気にしていた。
今村にしてみれば手はローブで足りているので邪魔としか思っていないのも不満に拍車をかける。
(…いっつもチヤホヤされて全く嬉しそうじゃないし…それなら俺にも分けて欲しい!やっぱり今回の試練で良い所見せないと…)
(…こんだけ好意持たれてて全く気付いてないって…この人マジか?)
「はぁ…じゃあまぁ手分けして探そうか。」
ラバーから出現ポイントなどの説明を受けた後今村は弟子たちにそう言った。
正直、今村としては崩壊した世界を改造した自世界に帰って子猫たちをもふりたいのだが、一応弟子のテストなので探すだけ探すことにしている。
だがモチベーションは低く、手には昨日道中読んでいた本の次巻を持っている。さっき「ワープホール」で買って来たのだ。
「通信木一つ渡しとくから見つけたら通信木で知らせろ。じゃ、とりあえず一日探して翌日の昼にまた集合な。」
「えぇっ!」
「…班分け変えません…?」
1日と聞いて月美と祓が露骨に嫌な顔をする。対して相馬とルカは喜んだ。
―――相馬と一緒の班はそんなに嫌か…でもまぁちょっと馬鹿でエロいだけの基本真面目だしそこまで問題はないと思うが…―――
(ちょっとじゃないんですよ…)
今村がいない間の訓練のことを思い出し溜息をつく祓。何度潰しても復活するその様子はいっそ諦めた方が早いか…?と祓に思わしめたほどだ。
ただ、祓は隙を見せたら今村に相馬とくっ付けられて今村の恋愛対象外にされるのが分かっていたので抵抗を続けた。他の2人も同様だ。
「…先生と相馬を一緒にしてくれません?」
祓は相馬が今村の前でふざけることがないのでそう提案した。
―――腐ったか…?―――
それに対する反応は無言。及びこの思考だった。
―――ちょっと距離を置いておくか…―――
勝手な妄想で引かれた祓は今村の返事の前に相馬と月美を伴い行動に移した。世界に残ったたった一人の拠り所である今村に距離を置かれるなど祓にとっては拷問に等しい。
「あ、おい注意はしっかりして置けよ?」
急に動き出した祓たちを見て注意喚起しておく今村。祓はすぐにサーベルライガーを捕まえることを決めて出発した。
「…そう言えばこの調査って前にも来てるんだよな?」
「…え?えぇはい…よく御存じですね…」
ルカが先頭で進んでいる間に今村はラバーにサーベルライガー嫁の探りを入れておく。
「まぁ原住民の反応を見れば誰でもわかるだろ。」
「それもそうですね。」
それもそうかとラバーも頷く。
「そん時の首尾はどうだったんだ?」
「帝国の上級兵の方々が休暇の狩り代わりに受けてくださってですね。大きなメスライガーを捕獲できましたよ!…ただそれが凶暴で凶暴で…検査どころじゃないんです…それで新しい個体をということになりまして…」
テンションをだんだん下げていくラバー。今村は更に詮索していく。
「ふーん…じゃあ新しい個体を捕まえたら元々捕まえた個体はどうする気だ?」
「…そうですね…おそらくメスがいれば元いた個体は解放…オスだと人工繁殖に踏み切ると思います。」
「…見つからないが…サーベルライガーってあとどれくらいいるんだ?」
「おそらく300頭を切っているのではないかと…ですから保護しなければ絶滅してしまうんです…」
(多く見積もってるな…こいつら駄目だ…)
今村はその他にも色々な話を聞いてみたがとりあえず保護されれば手厚い対応はされそうだったので無理に逃がすことはないか…と決め、本を読みだした。ラバーは進む距離にもう会話どころじゃなくなりそれを無視し、ルカは真剣に探している。
探索は日が暮れるまで行われた。
「…さて、ルカ!」
「はい!今日はここまでにしておきますね!」
今村の呼びかけだけで何が言いたいのか分かったルカ。すぐに野営の準備をする。
「はいここでテスト。俺は手伝わないから一人で野営準備。」
「…いやですね~流石に何回もやらされてますし失敗はないですよ~」
ルカはやだな~と言う笑みを浮かべつつさくさくテントを張ったり夕飯の準備をしたりしていく。
「これで終わりですっ!さぁご飯食べましょー!」
「…まぁ流石に大丈夫か。」
全てを終えてルカが自慢げに今村の方にやって来る。辺りは真っ暗で顔も見れないが今村は別に見ようと思えば紫外線も赤外線も見れるので問題ない。
現在は魔力がこの辺りおかしいので、魔力視は使わずにそういう目で見ている。
「お…おい…焚火を…」
ルカも今村特製のお薬の効果で気合を入れれば赤外線も紫外線も見れるので問題ないがラバーは不安気によたよたしている。
「ブブーッ!焚火を敵地の真ん中で行うとか自殺行為です!特にこんな光もない所でやると目立ちますよ!ほら!」
ルカが遠くに見える光を指す。結構遠くにあるそれは小さな光源だが暗闇の中ではよく目立っていた。
「…多分最初に来てた原住民の方々が狩りをしているんでしょうが!別に食料もありますし、動物を引き寄せる必要もないので光は要りません!」
「…サーベルライガーを引き寄せるんじゃ…」
「夜は寝るんです!戦いません!」
ルカはきっぱり言った。そして今村はそんな口論を見ながらルカが作った食事を食べる。流石にこの状態で本を読むのは何か違う気がしたので止めた。
「えへへ…おししょーさまぁ~」
ルカも食べ終わって今村の横に寝袋を敷く。袋で区切られているが袋自体は密着させている。…といっても今村は自身の寝袋の外部を防弾、防刃、防炎、防水、耐衝撃、耐熱の頑丈なものにしているのでくっついているのに気付かない。
ただ何となくルカの顔が近いな…位は分かるが特に気にしていない。
「オイ…見張りは…」
「要りません。私もお師匠様も本気で寝ることはないですから敵襲が来ればすぐに気付きます。それに寝袋は並大抵の攻撃を通しません。」
ルカは断言したがそんな性能の寝袋は普通考えられないし、万一起きなかったらどうするのか…とラバーは不安な夜を過ごすことになりそうだった。




