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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第四章~新しい客~
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19.サーベルライガー

 とりあえず無言で今村は合流した。祓は思考を読んで失敗したと気付いて次からの行動で挽回しようと試みる。


「ではここから二手に分かれて捜索しましょう。私と月美さん。あとそれ以外でどうですか?」


(…まぁ無難な所だが…あの部族のことを考えると流石にお荷物ラバーのことを守りながら「サーベルライガー」の保護ってキツイな…)


 弟子自体の手助けは行わないつもりだが、ラバーと言うお荷物の事が少々気にかかる今村。だが個人的に一人でいないと「サーベルライガー」をもふることは難しい。今村は少し葛藤した。


(…折衷案として午前中もふり倒して午後から本格捜査させるか…)


 方針を固めると今村は弟子に指示を出すことに決める。


「…じゃ、午前中は軽く周囲の警戒をする位で、午後から本格的な捜査にしておこう。午前中の警戒については祓の言ったグループで、午後は祓、相馬、月美とルカ、俺、ラバーのグループで探索だな。」


 結構真顔で言っており、心を読んでいる祓以外の4人は真剣な顔で頷くが祓はもふることしか頭にない今村をほっこりして見ている。


「と言うことで解散!」


 言い終わるや否や今村は消えた。



















「…ってことでハロー子猫ちゃん達!」


 開始1分。今村は「白虎の森」の中央地点辺りで「サーベルライガー」に遭遇した。


「GRRRRRU…」

「あ、別に狩りに来たわけじゃねぇよ。安心しな」


 白く立派なたてがみ、全長4メートルにもなる雪のように白く黒い線の入った筋肉質な体。一メートル程ある牙を剥き出しにして威嚇してくる雄々しい姿を見て今村は呑気に声を掛けながら近づいて行く。

 サーベルライガーは生物としての格の違いを本能で把握し、最初に唸った以外に行動を起こさない。


「…ガキ…ね。」


 それでもなぜ逃げないのか少し首を傾げたところで今村は茂みの奥に4匹の牙が大きな白い毛に少しだけ黒い線が入った子猫のような生物が寝ていたのを見つける。


「…『千辺特化せんぺんとっか異化探知』」


 今村は少しも動かないそれを見て少し考え、辺りを探知してみた。が、思ったものは見つからない。今村は立派な鬣を持つサーベルライガーに訊いてみる。


「…お前…メスは?」

「…GURR…」

「…連れ去られた…か。こいつらこのままじゃ衰弱死するな…はぁ…あいつら馬鹿か…えーと…」


 とりあえず今村は「魔合成物質」と呼んでいるオリジナルの不思議物質を水に溶かして子猫たちに飲ませていく。


「…ギリ飲む力は残ってたか。」


 即興で哺乳瓶を作り飲ませていくと子猫たちは一気に飲み始めた。それを親はオロオロしながら見ている。敵意はないが何をされているのか分からずどうしたらいいのかわからないのだろう。


「ん~…さて、どうすっかな~あのアホ殴って依頼失敗にしておくのがいいか…どうせ女湯で一回命捨ててるんだし…」


 ローブで4匹の子猫にミルク(?)を飲ませつつ今村は考える。とりあえずもふるのは後回しだ。


「『配素氣流はいすきる』…これで衰弱死はないかな~」


 生命力も流し込んでおく。すると子猫たちの飲む力が上がった。ミルクは別に減らないのが不気味だが子猫は気にしないようだ。


「で、依頼破棄にしろ受理にしろ…問題はメス無しで俺が帰るとこいつら死ぬよな…」

「GURRR…GAO!]


 今村の呟きにサーベルライガー親が反応した。どうやら元気になった子供たちを見て何か決めたらしい。


「え?ここにいても育てるのがもう無理だから連れてってだと?う~ん…今アレが来てるからな~お前の嫁捕まえた奴。」

「GYAO!」

「殺せるけど…一応弟子がいてな~」


 今村はサーベルライガーと世間話をしつつここに至るまでの経緯を説明した。


「みゃー」

「にゃー」

「ぎゃおー」

「はぐはぐ…」


 因みに子猫たちはお腹いっぱいになって生命力も流し込まれて元気になり、危なくないように設定した今村のローブにじゃれついている。


「GAO…GAO!」

「まぁ…全員じゃなかったら連れていけるけどな。」

「…GARRRR?」

「まぁ確かにお前が行くなら子供たちは預かれるが…それなら全員捕まった方が早くないか?」

「GAO!」

「子供たちはまだ若いのにじろじろ検査されるのは可哀想だってねぇ…」


 今村とサーベルライガー親は協議中だ。


「…でも多分お前の嫁検査されてるから一匹は子供がいないと怪しまれると思うぞ。」

「GURRRRU…」

「ふ~む…どうしたもんかねぇ…」


 今村が考えていると子猫の一匹が今村とサーベルライガーの親の間に出て来て鳴いた。


「ぎゃお!」

「GURR?」

「ぎゃおぎゃお!」

「!GURRRURU!]

「…うん…まぁ…妹たちを差し出す位なら僕が行きますってか…殊勝な心持ちだが…」


 今村は未だにローブにじゃれついている他の子猫を見る。


「みゃー?(行けば?)」

「にゃー!(行ってらっしゃい!)」

「…はぐはぐ…」


 因みに括弧内が人間の言葉に訳したもので最後の奴に至っては少しちら見した後、大したことなさそうにローブの方に甘噛みを続ける。


「…妹たち…中々に酷いな…」


 これに関してはちょっと理解できない言葉で喋っておく今村。その場のサーベルライガーたちの視線を集めるが気にしない。


「にゃーにゃう!」

「みゃ~!」

「…こいつマザコンなのか…」


 更に子猫妹たちからの密告。子猫長男は落ち込みに拍車がかかった。


「…まぁいいや。とりあえずこいつら預かっとけばいいんだな?」

「GA…GAU…」


 サーベルライガー親も何か微妙そうな顔で頷いた。


「…で、それはそれとして弟子が来た時は野生動物が抵抗なしに捕まるのはおかしいから抵抗してもいいよ。」

「GAU?]

「うん。全力で。子供を守るんだから当たり前じゃん。」

「GAO?」

「強いのは知ってるよ。そうじゃないと試練にならないじゃん。殺す気でやっていいよ。殺される直前にはこれで引っ下げるし。」


 ローブの一部をひらひら上に上げて見せる今村。子猫はジャンプしてそれに猫パンチをしてくる。ピンク色の肉球が柔らかそうだ。


「…さてさて…いつ来るかは知らん。頑張って見つからなかったら放っとくからまぁ逃げるなら逃げてもいいよ。」

「GAOGYA?」

「うーん…逃がしてやっても構わんが…正直お前も歳だし新しいところでやっていくほど元気はないだろ?それに一回負けて嫁を連れて行かれたのはそっちの問題だしな…」

「GAO…」

「うん。まぁ…残酷な言い方をするならそうだな。でもアレだ。老後狩りとかしないでも餌はくれるだろうし、これ以上襲ってくるやつはいないって考えれば少しはプラスじゃね?」


 ちょっと厳しいこと言ったかな~と思った今村は慰めてみる。だが、子猫妹たちが親に言いたいことがあるようで今村から少し離れた。


「みゃーみゃみゃー(水浴びもあんまりしてないから洗ってもらったら~?)」

「にゃ~(臭いよ~?)」

「ふしゅっ!」


 妹子猫たちが父親に心無い言葉をぶつけ、その内一匹がくしゃみした。親はしょんぼりしている。


「GYA…」

「…まぁアレだ。どんまい!」

「ぎゃお!」

「にゃ~!」

「ふべっ」


 長男子猫が妹を叱ろうと飛び掛かって反撃を受けて撃沈した。


「GR…GRARRR!」

「…まぁそうだな。とりあえずじゃあな。『我が世よ開け』」


 親がショックから立ち直るとあんまり長居しても変だしそろそろ戻ってはどうかと提案して来たので今村は子猫(長男除く)を自世界の中に入れておいた。中ではスライムが子猫と戯れ始めているだろう。


「…ま、見つからなかったら子猫は返すし『魔合成物質』は…う~ん…ここじゃ何か魔力の通りが悪いから俺以外じゃ使えんか…やっぱり親子ともども俺の世界で保護してやるよ。勝ったら保護で負けたら捕まるってルールで弱肉強食の摂理に従ってやってみな~」


 今村はサーベルライガー親にそう言ってその場から去って行った。



 

 ここまでありがとうございました!


 因みにサーベルライガー親は晩婚で人間で言うところの60近くですかね。因みに歳の差婚で嫁さんは30半ばくらいです。

 生き残りがこの二個体しかいなかったので仕方なかったと嫁さんは語ります。


 子供たちは2~3歳くらいです。何となく話の内容は分かっていますが特に思うところはない様子。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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