3章 帰界
今日は他に2話入れますが、この話以外本編に関係ない説明みたいなものです。興味のある方はどうぞ。
「…仁は行ったのか。」
今村が異世界に行くという情報をアーラムから貰って仕事を一区切りつけて誰もいなくなっていた「幻夜の館」に来ていたチャーンドは一人呟いた。
「…急すぎるだろうが…全く…」
昔のことを思い出しつつ苦笑しているとアーラムがこの場に現れた。
「…何しに来たんだ?」
「ん?いつ帰って来るかわからないけどその時に兄ぃを驚かせようと思ってね~『カーレリッヒ』」
アーラムはそう言って「幻夜の館」のリフォームを開始した。そんなアーラムを見ながらチャーンドが口を開いた。
「…仁に掛けられた呪いの解析が済んだんだが。」
「…へぇ…もう済ませてあったと思ってたんだけど…」
買い被ってたかな?と言わんばかりにアーラムはチャーンドの方を見た。チャーンドは苦々しげにアーラムに言う。
「…『憎禍辟嫌』。あれの改悪版だな?効果は対象に対する一切の好意を遮断それに改竄…何故そんなことを…」
「姉ぇが言うには悪い虫が一切つかないようにだって。酷いよね?ホントは兄ぃのこと嫌いなんじゃないかな?」
アーラムは薄く笑ってチャーンドの問いに対する解答を言ってのけた。絶句するチャーンドにアーラムは続けて言う。
「…兄ぃが調合した薬だから兄ぃは気付いてない…と言うか気付けない。悪辣な技だよね~」
「何でテメェは知っていて治せるのに放って置いてるんだ!?」
チャーンドの頭に藍色のトラの耳が生え、犬歯が伸び、尾が生える。そしてアーラムの方を睨みつけた。
「…だってそれ位超えられる相手じゃないと兄ぃと最後までいられないじゃん…半端な奴はもう近づけない…もう兄ぃを裏切る奴は…」
チャーンドの殺気よりも大きな殺気を押し殺しながらも放つアーラム。チャーンドはそれで我に返るといつもの美少女と間違うばかりの美少年姿に戻った。
「…これ以上…か、あいつは俺らの事も信じてないんだろうな…」
「…だろうね。今やってることも償いぐらいにしか思ってないんだろうし。…ってえぇ?」
いきなりアーラムは頓狂な声を上げた。訝しげにチャーンドがアーラムの方を見る。チャーンドが何か言う前にアーラムは言った。
「兄ぃもう帰って来るって!行った先から連絡入った!」
「…行ってまだ10分も経ってないと思うんだが…」
そんなことを言っていると目の前の空間に急に黒い穴が開いた。そして中から今村が出て来る。
「よぉ…出迎えか?」
今村がひょいっと中から出て来て次々と色々な人物が出て来た。最後に別世界の女神を引き摺り出すと今村は解散の旨を伝え女神の首に繋がっているロープを持ったままアーラム達の方へやって来た。
「よ!別世界の女神捕獲して来た。代わりに守護石置いてきたけどその後どうなってるか調べれる?」
「え…あ…うん。できるよ?『カーレリッヒ』…」
戸惑いながらアーラムは能力を発動。今村は一度部屋に戻って異世界に行った代わりにこの世界で動かそうと思っていた傀儡を停止してへらへら笑いながら戻って来て二人に酒でも飲もうかと言った。
その言葉に祓が反応して「幻夜の館」で宴会となった。
参加者はアーラム、今村、チャーンド、祓、女神、ルカとなって神用の色々な酒と人用の酒、それにつまみが準備された。
「…で、何でこんなに早い帰りだったの…?」
アーラムはしばらく会えないつもりだったんだけどなというニュアンスを込めて今村に尋ねる。
「帰ってこなかった方がよかったか?」
「っ!そんなことない!寧ろずっといて欲しいけど!」
アーラムは必死で首を振る。今村の方は軽く笑って酒を飲んだ。
「あー…まぁあっち本がなかった。文化レベルが雑魚過ぎてよ~」
大人しく酒を舐めている女神を見ながら今村はそう言った。そして視線を戻すと今回の異世界についての話をしてみる。アーラムとチャーンドはその話を聞いて表情には出さなかったものの心中苦々しく思う。
(…また兄ぃが裏切られて…兄ぃが永遠に誰も信じなくなったらどうするんだよ…)
軽く泣きそうになるアーラム。ついでに自身を軽んじる傾向が顕著になって来ている今村に釘をさすことにした。
「…兄ぃ。あんまり危ないことしない方がいいよ?魂が劣化してるんだから次、転生できない確率が…」
「はっは!上等!消えてなくなればいい!」
アーラムの発言に何故か食い気味で楽しげに答える今村。相当酒が進んでの言葉だがそれでもアーラムの表情は凍りつく。場の雰囲気は最悪となったが今村は何も感じていないようだ。
「正直あと『エクセラーレ』に行って魔導研究済ませてあと『クランカーシス』行って呪式研究して『武技』とか言うところ見つけて行って『白礼刀法』完成させてあと…あ、あれ?結構死ねない。」
途中で今村はその結果に至った。
「…まだ気になってる小説の終わりも見てないし…チャーンドにハーレムを作らせる計画もまだ…おい、何気に死ねないな…あと数百年ぐらい頑張らないと…」
「…ちょっと最後の方に本人も知らない気になる事が聞こえたんだが…」
チャーンドが軽く抗議するのを無視して考え込み始める。そして場の雰囲気が妙なのに気付くが。…が、今はそれどころじゃないか。と思い直して思考を垂れ流しに考察を開始。
「…ルカと祓ぐらいしか近くにいないんだが…まぁいいか。祓の方は生粋の一夫一妻制で育っているから別の奴の嫁にした方がいいか…「嫌です!」…ルカの方はまぁ…色々アレな部分はあるが黙ってりゃ可愛いんだしチャーンドも騙されてくれるかな…「私はお師匠様と!」…後…女神…?」
色々抗議されている気もするが今村は呪いで聞こえていない。そして首輪をはめられている女神を見た。
「…行けるか…?」
「どこに行くつもりだ…」
「…厳しいかな…正直可愛げが全くない…顔だけで愛せるようなやつじゃないことは一応知ってるからな…あ!そこであの薬の出番かククククク…」
暗い笑みを浮かべ楽しそうにそれはもう本当に楽しそうに思考を垂れ流す今村。そんな考えを聞かされていたルカが耐えられなくなって立ち上がり今村の真ん前に座って顔を近づけた。
「女神を性欲で堕としてククククク…んおっ!?」
楽しそうにしていた今村がようやく目の前で口を一心にみつめて顔を近づけてくるルカに気付いた。
「何やってぇっ!」
顔を下げようとするが両手でがっちり掴まれた。今村はそれならばとルカの顔をローブで固定してやる。
「うみゅっ!何するんですか!」
「こっちの台詞じゃ!」
「悪い事ばっかり言う口は私の口で防ぐんです!」
酔っているようだ。
「わけ分からんわぁっ!ってかこんなときばっかりテメェは『円武術』うまく使いやがるなぁっ!」
普通ならすぐに跳ね除けられるところを自身発案の「円武術」と酔いが邪魔をして跳ね除けられない。ついでに横にいる祓も何やら妙な気配を漂わせているので警戒して力の分散が酷い。
「そうか…嫌なこと言う先生の口は私の口でふさげばいいんだ…」
「変なことに納得するなぁっ!」
今村は抵抗を続けながら祓に突っ込む。そんな折にチャーンドがぼそっと呟いた。
「…珍しいな。酒が入った仁は自身から行くのが多いのに…」
「そこまで酔ってガホォッ!」
抵抗していたルカが消えて口の中に一升瓶が突っ込まれた。その一升瓶があったところにはルカが訳も分からずに座っている。
「先生ぇ…?もっと飲みましょうねぇ…『我が願い聞き届けたまえ』…」
「ん!?僕の『カーレリッヒ』の細かいバージョンみたいなのだ!何でこんな奴が…?」
(そんなことはどうでもいいから助けろ!)
明らかに酔っている祓は目を蕩けさせて今村の口を見て自身の桜色をした唇を指でなぞった。そして笑う。ルカは何やら手紙のようなものを読んで何か書いている。誰も今村を助けてくれなさそうだ。
そしてその1時間後、異世界で兵隊の鍛え直しをしていたタナトスと寧々が帰って来た頃には全員が正座させられていた。
「オラ。反省しろこら。お。タナトスお帰り。」
「…え~と…?何があって…?」
「僕何にもしてない…」
タナトスが現れたので緊張した雰囲気が切れてアーラムが声を発する。今村はそちらを軽く睨んで短く言った。
「何か言ったかコラ?」
「何にも言ってません!」
「…まぁ…いいとして、それより向こうとこっちの時間軸が違うからこっちへの問いは間に合わないみたいだから報告だけにするってよ。」
正座のまま敬礼するアーラムを尻目にタナトスは苦笑して席に着いて手酒をしようとして寧々に酒を注がれる。今村はそれを見て監視を止めてテーブルに戻った。
「あぁご苦労さん。…じゃあ反省したみたいだし。飲み直すぞ!」
「まだ飲むの!?」
この宴会は日を跨いで行われた。
ここまでありがとうございます!
この後女神とルカは閉鎖空間の中に入れられます。今村はそこにしばらく週3で通います。




