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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
X章 ???
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蛇の前足

前回の宣言通りです。原神姉妹(妹)編の前ということで……

 男は光も、闇でさえも存在しない空間の概念がない場所を逃げていた。


「……こういう時は何を言ってもフラグになるからな……」

「そうだね。」


 男が意識した瞬間、この場に光が生まれる。それと同時に響いて来た脳髄を蕩かしそうな美声に振り向くとそこにいたのは世界最強と化した彼を以てしても気絶しそうになるほどの可憐な笑顔をしている正の原神が1柱、【可憐なる美】ことミニアンだった。


「はい、仁。逃げたからちゅーだよ?」

「くっ!」


 仁と呼ばれた男。今村は短く息を吐いて術式を組み上げて逃げる。現在は結婚式をして3年が経過しようとしているところであり、未だに彼は彼女たちに手を出していない。それに痺れを切らした彼女たちの行動は過熱の一方で冷めることを知らず、今村は冷却期間を置くために逃げていたのだ。


(追いかける恋に憧れてるだけ。捕まえたら飽きる何て言ったのは誰だ!)


 今村はその意見に飛びついた自分の意思を棚に上げて逃走を続ける。この意見に同調して相手が求めることに応じ続けた結果、減ったのが末端含めて5柱。増えたのはもう数えていないので知らない。知らなければそこにないのと主観的には同義なので放置しているのだ。


「これ以上増えるとかマジ無理……」


 これ以上増えられたら絶望しかない。逃げ出せるギリギリの範囲は今なんだ! そう決断し、少し今村が所有する世界でのお祭り騒ぎのようなことが開催され、浮かれポンチと化した嫁の隙を突いて逃亡したのが今の状況だ。


(もっと良い相手が出て来るから待てと言いたい……! いやもう最悪俺の方で創造するから……虚無の力使わせろ……)


 声を大にして言いたい自分の考え。しかし、それは彼女たちにとって最大の禁句だ。口に出せば最悪笑顔のまま集団で性的に蹂躪されかねない。


「ね~何で逃げるの? 子作りしてって言っただけなのに……」

「不死者になってたまるか!」

「……なってくれないと困るんだけど。」


 思考に意識を割いていると急に目の前から今村に浮かれた隙を突かれた元幼馴染の瑠璃が降ってくる。後ろにはミニアン。世界で最も可愛い僕っ子コンビが揃うがその目は獲物を前にして舌なめずりをする肉食獣のそれだ。


(くっ……顔がいいからって調子に乗りやがって……ぶち殺すかこいつら。)


 感情を凍らせる。殺戮モード、負の神の顕現に入り邪魔者を排除しようとする彼に対して2柱はにっこり笑って告げた。


「君が望むのなら僕のことを殺してもいいよ?」

「仁が、どうしても殺したいなら仕方ない……」

「サイコパスどもめ……」


 正の神の慈愛の微笑みを受けて今村は強制的に正常化させられる。彼女たちの神愛、絶対なる無償の愛によるプラスの波動を受けて今村のマイナスに対してプラスマイナスの中和が起きたのだ。これによって明確な殺意を持った状態で自らが手を下さなければ相手を殺すことが出来なくなる。


(……はぁ、このやり取りはもう面倒だからいいや……それに、あの建物から離れて時間さえ稼げれば……)


 色々と考えつつ脱力させられた今村は恨めしげに2柱の滅世の美少女達に告げる。


「自分は死んで良いのに俺が死んだらダメとかズルいよなお前ら……」

「僕が死んでも君は死なせない。それは絶対だ。許さない。君を傷つける者は例え君自身だとしても僕は絶対に許さない。」

「死のうが消滅しようが俺の勝手だろうに……」

「いや、もう僕らは伴侶だからね。口出しできるんだよ!」


 笑顔で見せつけて来る婚姻届。何億枚破ったことだろうか。それでも得意げに見せて来る。ノイローゼになりそうだ。彼女たちの部屋には大体額縁に入れられて飾られており、酷い者になると自宅の材料が全て強化された婚姻届になっている。


 今村には悪魔の書類としか思えない。


「じゃあ、ボク今日の子作りは諦めるから添い寝……は、いいよね?それくらいはいいよね。」

「好きにしろよもう……」

「え、好きにしていいのかな?なら僕も参加していいかい?」

「……はぁ……」


 コピーであるその忌々しい書類を燃やして今村は溜息をつく。切実に死にたくなってきた。


「あ~……いろんな場面で死ぬチャンスあったんだけどなぁ……欲張り過ぎた……畜生が……大体原神が俺の事世界の敵にした割に自分たちが手抜きするから……何だテメェら無駄に可愛い顔して憐れみやがって……」

「……言いたいことは後でベッドの上で言うけど。一先ず。頑張って可愛くなるのは無駄じゃないよ? ボク的にはこれでも足りない。仁の一番になってない。」

「僕も、まだ上がいると知ったからね……」


 冷え切っている相川に対して彼女たちは向上心に燃えている。今日も祭りの裏で結婚式の形や正妻の数の決定、序列争いなど今村の見えない場所で色々やっていたのだ。

 やむを得ずハーレムエンドにしたが、誰だって自分のことを一番愛して欲しい。必要だから3000人が入れる後宮を作り上げたが、平等に愛せ等言うはずもない。だいたい皆が自分のことを考えているのだ。今村を間近で見て精神的な成長を遂げている彼女たちなのだからその考えに至るのも仕方ないことで、そのこと自体は今村も見ていて理解している。


(だからこそ、俺が変わると内部分裂起こして自壊するかなと思ったのに……)


 この今村の予想は外れた。自分に影響されたのであれば欲しいものを手に入れさえすれば自分のことは踏み台にして何らかの新しい行動に移るか、この分野には飽きるだろうと思っていた。しかしながら、彼女たちは独占に走った。

 独占……彼に対して自分を一番にするため、もしくは自分の今の立場を守るために彼女たちは相川の様に他者を蹴落とすより先に、自分のやりたいことと似たような考えを持つ者を集め始める。その結果派閥が派閥を呼び、集団で対抗することで場が拮抗していた。

 しかも問題はそこで止まらず、派閥のトップや幹部たちでも同じ考えだからこそ成り代わられるというリスクを恐れて下剋上の牽制のために派閥を越えた横の繋がりも出来ている。今村に対する包囲網は崩壊するどころか自分たちを強化するために数を増やし、日に日に強固になっているのだ。何とか逃げ出したい今村は1年前くらいまでは彼女たちの間隙を突きまくっていたが、効果がないと見て引いてみた。


 1年引いた結果は御覧の有様だ。


 因みに目の前にいるのは巨大派閥の1つである仁愛党の2大頭首だ。瑠璃がトップでミニアンが副大臣、その下に愛政大臣のアマネがいて党のスローガンは「彼に愛を教えよう」となっている。

 この二人だけがここにいるのには一応理由がある。派閥ごとに割り当てられている本日の今村との交際権を持っているからだ。権力者である彼女たちだからこそ独占に近い形になっているが、少ないからこそということで今村は逃げられると踏んでいた。失敗したのだが。


「どうやって俺の居場所を……」

「匂い。」

「愛。」

「……意味が分からん……」


 今後に活かすことが出来るように術式など、もっと分かりやすい答えを期待しているのに彼女たちは平然と今村の常識を破壊する。非常識の塊である今村を以てしても彼女たちの思考はイカレていると思う。


 尤も、本義の狂人である自身には及ばないが。時は来た。何の算段もなく自身が逃げる訳がない。お祭り騒ぎを起こした張本人は彼を唆した相手の名を呼ぶ。


「ライアー!」

「【虚偽迷彩】……はいはーい! この世の嘘を司るライアーくんでーす。いやっほぉい! 美女ばっかりで最高だね! 役得に感謝してボディだッ、じ……」


 登場と共に今村の前にいる滅世の美少女である二柱にセクハラしようとし、瑠璃に殴り飛ばされて壁に埋められるライアー。その、一瞬の隙だった。


「……仁がいなくなってるね。」

「【神行方不知】か……まったく。」


 2柱がそちらに気を取られた時には既にライアーもこの場からいなくなっていた。その代わりのようにこの場に現れたのがアマネだ。


「……ちゃんと帰ってくるんだろうね?」

「えぇ、名も知らないご友人の方に呪いをかけておきましたから……」

「……あ、他の子に知らせてなかったから何か凄いことに……まぁ仁は元気だからいいか……」


 現れたと同時にこの場で何が起きていたのか把握している発言をするアマネ。それもそのはずで、愛政大臣である彼女が今村がこのままではあまりに窮屈だろうということで少し休ませてあげようということで今回の計画を見逃すように正妻衆に通知していたのだ。


「じゃあ、彼がいない間に……少々見せたくない女の争いをしておこうか。」

「立候補数が増えた程度で大きな顔をし始めている野党に御灸を据えましょうか。」


 一行は今村を見送った後、お祭り……正確には多少今村の仕掛けで混乱状態になっているが、元々は任期終了に伴う恋愛衆の選挙で過熱していた場を鎮めに向かうのだった。




 ここまでありがとうございました。本日中に後ろ足も出します。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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