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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
X章 ???
641/644

葬式

「はぁ……これが終わったら、私の旦那様を探すのを手伝ってよ?」

「分かってるって。」


 【可憐なる美】、ミニアンは非常に楽しげな表情で彼女にも勝る美女にそう返した。その姿は純白のドレスに身を包まれており、幸せいっぱいだ。


「……それにしても、あんなののどこがいいのか……全然美しくないし、話聞く限りじゃ屑なのに……」

「【完全なる美】……僕は寛大だからまだ許すけど……口が裂けてもそういう事言ったら駄目だからね?消滅させられるよ?」

「あー怖い怖い……はぁ……追いかけてる間は盲目だからねぇ……後悔すると思うなぁ……」


 やる気をあまり感じない【完全なる美】だが、ミニアンクラスの女神が愛を誓って効果があるレベルの女神たちは殆どが敵対か、新婦としてこの式に参列している。そのため、神格的な問題を考えると彼女に愛を誓うしかなかったのだ。


「……あーあ、仁……ちゃんと準備してくれるかなぁ……?」

「……ハーレム王でも結婚式位は真面目にやるでしょ。」

「……いや、仁なら上下灰色のジャージにサンダルで出席もあり得るから……」


 何で来てもおかしくないのでミニアンは少しだけ憂鬱になった。それに対して【完全なる美】は今更ブルーになるんだ……止めればいいのにと思いつつ花唇を開く。


「……まぁ、式自体がおかしいしね……新郎が最後に一人で入場。新婦が10人。参列者の殆どが新郎の愛人か子どもという……」

「だって、逃げるし。それに僕は良い方だよ?正妻の1柱だし。」

「……名前見ただけで何かの呪文かと思ったくらい長かったわね……」


 それでも幸せそうなミニアンに【完全なる美】は頭の中花畑なんだろうなぁ……と思いつつ二人は式場へと移動した。











「お兄ちゃんはどうだった?」

「ダメです。メイクをしてもらおうとしたら……鏡を割るので……」


 その頃、正妻にはなれなかったものの愛人ではなく側室という妻のポジションを勝ち取った祓やクロノ、それにゲネシス・ムンドゥスの主要メンバーは話し合いをしていた。


「旦那様は~一人で~やるって~言ってるけど~……」

「一応……新婦側で周囲の見張りは立てて、アマネさんとシュティさん方が主な能力を抑えた状態で先生を包囲して逃がさないようにしている状態で控室に一人にしてます……」

「……何か起きないように全員、準備は整えておいて。」


 頷く一同。しかし、話題はすぐに変わる。


「は~……今日は、正妻様方の結婚式じゃ……そしてとうとう明日が……」

「私たち~、側室との結婚式ですね~……」


 その話題をしてしまうとどうしても頬が緩み、夢が膨らむ。


「えへへ……クロノのドレスね、可愛いんだよ?お兄ちゃんが作ってくれたの!ふりふりがいっぱい!」

「それ何回も聞いたわ……明日は今日と違って大勢の人が来るからそれに紛れて逃げられないように今日以上の警戒が……」

「それは今日の結婚式が終わった後、正妻様方が何とかしてくれますよ。」


 今日の結婚式は正妻、終世や滅世クラスの美女が揃うので普通の今村の知り合いでは魅了されて式どころではなくなるのでかなり限定された神々しか来ない。

 だが、明日の彼女たちの結婚式は多くの神々やその眷属、また人間の英雄クラスであれば来るので彼女たちも周囲に対して今村に恥じないお嫁さんになろうと頑張っているのだ。


 例え、当人が逃げようとしていても。だ。


「あ~ひとくんとやっと、やっと結婚だよぉ~……長かったなぁ……次は、初夜からの、夫婦生活の営みを頑張らないとね……!」

「アリス?気が抜けてると逃げられるよ?ここまで来て大詰で逃がすなんて私は嫌だから……」

「……前世の最終局面で洗脳されたイヴに言われたくない……」


 そんな感じでゲネシス・ムンドゥスの面々たちもお花畑を頭の中に広げていた。











「あ~!あ~!あ~!何で、ここまで、頑張るかなぁ……?」


 その頃の今村はライアーと一緒にメイク室にいた。


「ハハハハハッハアッハハハハハッハハハハハハ!ヒャーッハハハハハハハ!ゲホッゲホ……ウヘヘ……エホッアハハ……ハハハハハハ……!フヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 因みにライアーは今村の年貢の納め時を先程から大爆笑している。そろそろイラッと来た今村はライアーを殴って正気に戻らせると化粧道具を受け取った。


「ぷふっ……っと、まだ待って。君が本気で化粧をすると洒落にならない事態が起きるから……」

「ギリギリまで悪あがきしてたせいで時間がないんだよ。どっか行くならさっさとしろ。」

「えほ……うん。じゃあ……結婚、おめでごふっ……おめでとぉっ!」


 最後は蹴り飛ばして今村は溜息をつき、生き残った鏡を前に息を吸い、そしてモードに入る合言葉を呟きながら息を吐いた。


「『χモード』……まぁ、俺みたいなのが相手でも……あいつらが飽きて俺が『虚数大帝』の封印を解除されて使えるようになって全ての記憶をなかったことにするまでの大切にしそうな思い出だからな……流石に、真面目にやりますよ……」


 今村はそう言いつつメイクを行い、そして呟く。


「こうやって見ると、俺もまだ捨てたもんじゃないとか思えてしまう辺りナルシストっぽくてキモいんだよなぁ……死ねばいいのに。死にたかったな。おっと、鏡が魅了されて変な生命体が生まれそうだから急がないと……それに、サプライズの準備もきちんとしておかないとな……」


 そんな不穏な呟きのすぐ後には結婚式の開会を告げる音楽が鳴り響いた。それを受けて神速で今村は道具を扱い始める。












 会場は既に華やか過ぎて普通の世界であれば崩壊しかねない程の神氣が、幸せそうに漂っている。壇上に上がっているのは本日式を挙げる正妻組の10人の終世の美女と滅世の美少女達だ。


「えーそれではこれより新婦……【調理女神】アニス・クィン・ビアクック。【遍くモノを喰らう美姫】アマネ。【言霊の美姫】コトハ・ユノ・メイリダ。【無垢なる美】セイラン・シェーン・フォルメコン。【風神】フォン・アリアン。【雷竜時空神】ペルクナス・ぺルン。【可憐なる美】ミニアン・シェーン・フォルメコン。【清雅なる美】ユリン・ファラ・メディシス。【運命神】ラーラ。【精練された美】ルリ・ユガミと【魔神大帝】イマムラ ヒトシの結婚式を挙行します。新郎、入場!」


 この時点で【完全なる美】は突っ込みを入れたかった。しかし、大人なので突っ込みも入れないで静かに入場してくる扉が開くのを見る。


 そして、盛大な音楽と共に堂々と入場して来た男神に思わず叫んだ。


「あーっ!この方!ミニアン!この方探してたの!何で黙ってたの!?ズルい!」


 だが、ミニアンは【完全なる美】の抗議など耳に入れない。ミニアンは、いやこの会場にいるすべての神が食い入るようにして今村を注視している。


「……ちょっと!この方が入るならこの結婚式に私の名前も入れなさいよ!」

「えぇ……何だこいつ……」


 今村は周囲が言葉もなく自分に注視している中で一人そう呟く。【完全なる美】は抗議した。


「【魔神大帝】の良さは顔じゃないとか嘘吐き!思いっきり顔だよね!」

「……僕は仁のこんな顔初めて見たよ。後、君は誓われる側の神なんだから騒がず静かに僕たちの前途を祝福してよ。」

「ズルい~!ズルいよぉ……絶対、意地でも結婚してやる~……イケメンなら多少暴君でも許されるしツンデレも味があるって言えるのに、黙って隠すなんて……」

「……何なのこいつ。後、ミニアンは中化で弱めたこの顔は見たことあるぞ。……ん?」


 不意に血の香がこちらに渡って来た。今村がその方向、参列者の方を見ると保護してきた生物や娘、そして作品の美女、美少女、美幼女たちが顔から血を出して恍惚な笑みを浮かべている。


「……うっわ。」


 今村はドン引きした。折角、真面目に花嫁をしている彼女たちの一生の思い出がブラッディマリッジでは可哀想だな……そう思って壇上を見ると彼女たちも涎を垂らしていた。そこで首を傾げる。


「……これでいいのか?」

「ひっ、仁……折角、本気出してもらったところ、悪いんだけど……化粧、落として……?じゃないと、今すぐこの会場にいる女の子全員で性的に襲い掛かりそう……ドレス、これ、僕たちが皆で本気で創ったアレだよ?勿体ないし、ね?」

「……怖いんだけど。」


 折角真面目にして、見たくもない鏡を前にしてちゃんとした格好でここに来たのに……と思いつつも結婚はしてしまったものの清くありたいので化粧だけ落とした。


「ふ、ふぅ……もう。普段からビックリするほど格好いいのにそこまで決められたら困るよぉ……」

「……普段はやる気の欠片もないのにどういう風に見えてるんだお前ら……一回頭の中ごと目ん玉を洗浄してもらった方が良いと思う。」

「まぁ、ご馳走様。それで、早く結婚式を進めましょう?」


 今村の呆れ声の呟きなど無視してフォンは早く結婚して夫婦と言う証が欲しいので【完全なる美】にそう促す。だが、彼女は不貞腐れていた。


「ズルいなぁ……処女神の癖に。結婚して。しかも、私に内緒でこんな、格好いいのを……その上私が探してた私の世界の第98回の美コンテ優勝者を……」

「さっさとやるのじゃ……」


 【雷竜時空神】に睨まれて【完全なる美】は軽く身を竦ませ、やる気なさそうに原稿を読む。


「はぁ……ズルいよなぁ……私だって結婚したいなぁ……はい、何かもう言霊で縛りたいらしいので先に誓いの言葉です。今村さん。あなた……正妻としてここにいる面々に加えて私が入ってもいいですかね?」

「えぇ……何を誓わせる気なんだよ……」

「あの、そろそろ真面目にやっていただけないのでしたら……食べますよ……?」


 唯一今村の本気を前にしてもはしたない顔はせず、頬を染めてイケナイ妄想をするだけにとどまっていたアマネが少しだけ神氣を滲ませてそう言うと【完全なる美】は仕方なく原稿を読み上げる。


「えー……それでは、新郎【魔神大帝】イマムラ・ヒトシ。あなたは【調理女神】アニス。【遍くモノを喰らう美神】アマネ。【言霊の美姫】コトハ。【無垢なる美】セイラン。【風神】フォン。【雷竜時空神】ペルクナス。【可憐なる美】ミニアン。【完全なる美】メイシェ。【精練された美】ルリ。【清雅なる美】ユリン。【運命神】ラーラのことを暇な時や気分が向いた時なら愛してあげることを誓いますか?」

「え?何その軽い感じ……」

「誓ってください。」


 強く繰り返され、ここでごねてももう無駄なので今村は頷いてその言葉に応える。


「まぁはい……誓いま「ダメ!」す……?」


 脱力感しかない宣言に今村が同意を示したところでセイランが止めるが、遅かった。【完全なる美】はにやりと笑って深々と腰を折る。


「ありがとうございます。これで私も……正妻だぁ!」

「……何こいつ。え?割とマジで誰?」

「じゃあ皆さん。えーと、いついかなる時も。例え地獄よりもきつい責め苦に遭おうとも何度魂が消滅しても彼のことだけを想い、彼のみを愛することを誓い、仮に破るのであれば永遠の責め苦に遭うことを誓えますか?私は誓えるけどね!覚悟がないものは去れ!」

「え、何でこっちのペナルティは重いの?つーかテンション高いこの方は誰なの?」


 誓われる中で今村だけが取り残される気分だった。


「それでは皆さん。誓いのキスを。……1柱30秒までです。勿論、彼の方から求められている場合は永遠に続行してもらって構いません!ちょっと待ってくださいね。私の本気を魅せてあげます。」

「長くね?それと俺の疑問は無視なんだな。まぁこの式自体俺の意向無視だからもう仕方ないけど……」


 先程までと違いノリノリの【完全なる美】。遅れながらも唯でさえ終世の美に近い尊顔を更に本気で神氣を張り巡らせて準備を整える。


 5分30秒のキスタイムが終わった後は指輪交換だ。何か交ざっている知らない相手ともキスをしてついでとばかりに参列者が並ぼうとし始めたのを進行の邪魔だとして排除する【完全なる美】を見ながら今村は首を傾げる。


「…………何で、こいつとキスを……」

「もっと長くて構わなかったのですが……まぁ、初めての出会いでファーストキスと言うことですし。仕方ないです。指輪交換に移りますが……あ、私のも準備してあります。いつ突発的に出会えるか分からなかったのでね……これを私の手に嵌めてください。」

「……何かメリケンサックみたいになってるんだけど。」


 元々渡された10の様々なリング。1週間後、全ての結婚式が終わった後、最終的に正妻たちの分は全て左手の薬指に付けることになっているが、今日はまだ初日の結婚式なので左手の5本指に付ける。


「では、これから……」

「あーちょっと待て。俺からサプライズだ。」


 その言葉に全員が幸せオーラを消して一瞬で警戒態勢に入る。ある意味信用されているなぁ……と今村は苦笑しつつも何か恥ずかしくなってきたので止めようかと思い、溜息と共にそれを吐き出して術式を起動した。


 それが無生物、しかも小型のモノをこちらに運び込むものであるのを見て少しだけ警戒を緩めた所に壇上にいる10柱たち全員の元に見たこともないような美しい花が舞い降りた。


「……はい。これ、あげる。……まぁ、一応言うならそれぞれをイメージして1から組成した完全オリジナルの花だ。髪の色のまんまとか言って笑うなよ?」


 会場が静まる中で今村は続ける。


「で、花言葉も一応あるんだが……順に、アニスの花は『一途な想いの勝利』。アマネの花は『唐突な愛の成功』。コトハの花は『奥深しき愛の達成』……恥ずかしくなってきたからもういい?」

「ダメ!」

「仁の……あなたの口から、聞きたい……」


 その言葉を受けて今村は頭を掻いて続ける。


「まぁ大したことやってないし、創った時に勝手に生まれた言葉たちだから自分でも調べられるんだけどね……セイランの花は『無垢なる恋の大成』、フォンのは『時を越えた愛』、ペルクナスはない!「殴るぞおんし……」」


 失笑にも似たまばらな笑いが起きるが、今村は冗談と言って続ける。


「ペルクナスは『親愛と情愛』、ミニアンは『純愛の結実』、ルリは『幼馴染の報われる恋』ユリンは『純情なる姫の恋の成就』ラーラは『運命的な出会い』……」


 公開処刑をされる気分で今村は全て言い終えて花を手に涙ぐむ壇上の花嫁たちを見た。


「まぁ、なんだ……おめでとう。君らの勝ちだ。文字通り花を持って、花嫁になってくれ。」


 その言葉に報われたと感じたのか、彼女たちは泣き始めた。そんな光景に会場からも涙の音が聞こえるがその中で唯一不機嫌そうなのが【完全なる美】だ。


「私のがない。」

「……あんたが急に入るのなんか知らねぇよ。つーかいい加減お前誰だか教えてくれねぇの?」


 そんなやり取りがあった後、結婚式は披露宴へと移り、盛大なパーティと共に例外者は書面上だけでなく正式に既婚者になった。


 そんな彼はこの後しばらく続く結婚式週間の中、6回の挙式で約80名の花嫁と結婚することになる。




アズマ「……いやーハッピーエンドだね……ところで父さん、あの花たちなんだけど……」

今村「何? 恥ずかしいからあんまり言及しないで欲しいんだが……」

アズマ「……いや、華凜が言うんだけど……花言葉の図鑑における対象ベクトルをよくよく紐解いてみると父さんに向いて「忘れろ。」……」


今村「ふぅ……アカシックレコードにも俺の自殺の時に介入してきたことを言及しない代わりにアレは秘匿情報になったし、隠蔽工作を更に足したことだしもう大丈夫か……」

ミニアン「ん? 何が大丈夫なの? 後宮のこと?」

今村「……え? 後宮?」

ミニアン「うん。作ったよ。世界ごと。何か昔言ってた電子要塞の彼女がセキュリティを完璧にした上で皆の協力を得て……あれ? どこ行くの~?」

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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