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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
最終章~終わりの幕引き~
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急げ

「……それでは、あちらの『αモード』で『傾世の美』を飲んだような姿をしているのが愛情の。その隣の独り言を呟き続けているのが妬みの。あの女は……普通に女のでいいです。後、時代錯誤の学ランで筋肉質の男は男の。で……あまり時間がないので、手早く、お願いします。」


 3層に入った理性の今村はそう言って上を見る。それに対して愛情の今村はこの場に来た面々に対して全員へ抱擁を始める。


「……何で俺もなんだよ……」

「自己愛さ!それじゃ、初めましての人は初めまして。そうじゃない人たちは久し振り!愛情の仁です。いつも素っ気なくしてごめんね?本当は、君たちのこと大好きだから!」

「ホント!?わーい!」


 安善はその言葉に飛びついて愛情の今村の胸に飛び込む。その勢いに負けて愛情の今村は倒された。


「……あぁ、言い忘れてましたが……私たちの感情の中でそれは強くないので結構貧弱です。丁重に扱ってあげてください。」

「ごめん!ごめんね!?大丈夫!?」

「はは……愛情があれば……大丈夫、さ……」


 そのままガクリという音を立てんばかりに気絶する愛情の。それを見て学ランの今村が鼻で笑った。


「フン。軟派じゃけぇそうなるんじゃ……もっと泰然自若としてだな……」

「……何か、良い波長してる……」


 フォンはその今村にふらふらと歩み寄って話を開始した。それを見て妬みの今村は呪詛を吐く。そんな今村にもイヴが向かった。


「……あぁ……独占感……どこまでも、深く……深く堕ちて行きましょう……?心地よい闇の世界へ……ずっと、一緒ですよ……?」

「毒戦漢なんですけどね……まぁいいでしょう。それより、虚飾「理性ので通しています。」……あぁ、ですが、私にとってそれはあの方だけなので意地でも呼びません。……そして、あまり持たないようです。次に急いでください。」


 イヴが抱き着いている妬みの今村から分離した別の存在が理性の今村にそう促すと、今村は頷いた。


「……あなた方は、行かれないので?」

「うん。クロノもっと下に行く。」

「わ…………私も、です……」

「何か……呼んでる…………?」

「……んみゅ~……着いた~?まだみたいだね~?じゃ~寝るね~?」


 自由な残りの面子、そして気絶したまま担がれているマキアを見て今村は苦笑しつつその場からすぐに次へと移動した。


「走って下さい。次は4層……ん?支配者が何かしたようですね……4層は支配者と自尊心しかいませんが……行かないと面倒なので、行きますよ?」










「ん~……ところで、アズマはどこに行ったんだ?」

「はぁ……はぁっ……」


 疲労困憊の百合と華凜の二人を前にして今村は余裕綽々という状態のまま肩に刀を乗せてそう尋ねる。だが、二人はその問いに答える程の余裕がない。


「……あいつ月美も、何か百合に預けてるっぽいし……これ、俺が蘇ってる時間が長くなると所有権がややこしいことになるからあいつが帰って来ないと困るんだけど……」

「……私の持ち主は、今も、昔も貴方だけです……!」

「あっそ……?何か、外が騒がしいみたいだな。」

「!」


 今村が外の様子に気付いた瞬間、百合はそれを悟られないように華凜と連携を組んで行動に移る。だが、今村はそれを軽くあしらい、笑った。


「あぁ、そういうことか(・・・・・・・)……やるじゃん。」


 そして、とうとう今村に外に、原神や旧神、そしてその眷属たちが集まっていることを悟られた。


「……くっ。ここまで来られて……」

「アズマ……ここまでみたいよ。」


 そう言って今村の前から二人は消える。その直後に、今村の目の前には黒い靄が大量に集まり始めた。それを見て今村はまた嗤った。


「……成程、どうせ消えるなら、化物を消して、相討ちになれ……と。有効活用してくれるねぇ……この俺を。」


 頭を掻いて今村は嗤う。目の前の現象の正体は、既に知っている。


「……【暴食現象】。噂に名高い、世界最強の、現象。世界の終わりと始まりの際に生まれるとかなんとか。」


 特に明確な意思を持たず、ただ溢れてくるそれを眺めながら今村は呟く。その声も、相手は食い潰しているようだ。


「で、ある程度戦って、どちらかが弱ったところに総攻撃っと。やるねぇ……いいと思うぜ。」


 歪んだ笑みのまま今村は何度か頷く。


「アズマは明確な手柄を立てられ、原神どもは失った信仰を取り戻せる。元ウチの連中も、原神に貸しを作れて恩赦を得られる……素晴らしいじゃないか。」


 それに、今村は「ただ、」と付け加えた。


「俺が、その思惑通りに動くと思ってんのかなぁあぁあぁぁぁあぁ?さて、どう出ようかな?無理矢理蘇らせられたから準備は出来ていないが……結界に気付いて指向性を持ち、俺の方に来るまでは若干の時間がある。さぁ、考えようか。取り敢えずは、固まって貰おう。」


 薄く広がりつつ空間ごと食い潰していく【暴食現象】に対して中央に集まるように無理矢理力を捻じ込みながら今村は戦い方を練り始めた。


「まぁ、最期が微妙に不完全燃焼気味だったし、全力尽くして死ねるっていいよね。やったぜ。」









「……急いでください。本体が死ぬことを固めたようです。……4層目はもう切り上げますね。」


 今村の外部環境に従って、心内の今村たちも慌ただしく動いていた。4層の支配者によりマキアが縛り上げられ、虐められて喜んでいること、また自尊心の今村に純粋な目を向けたままのシェンを置いて一行は更に下を目指す。


「いいですか?これから会うのは、本体に最も近い方ですので、くれぐれも粗相をしないでください。」


 外に出ると今村はそう言って柏手かしわでを打った。すると、一瞬で目の前に重厚な木の扉が現れる。


「……最初からそれで移動してたら……」

「柏手は私より高位の方にしかしません。そして、ある程度近くへ出向かなければあの方に申し訳がないので……それより早くお願いします。ここには好奇心の呪神、今村様が……」

「よぉ。」


 案内人の今村が説明するより早く中から普段の今村が現れてその扉を開いて出てきた。


「これは……」

「あーいいから。さっさと次行きな。」


 面倒臭そうに手を振る今村に対して案内人が跪きながら尋ねる。


「少しはお元気に……」

「無理だな。さっさとくたばりたくて仕方ない。疲れた……」

「ダメだよぉ……死んじゃやだ……」


 黒ローブの裾を引きながら涙目で今村を見上げるクロノに今村は面倒臭そうに告げる。


「もう次の階まで侵食して来たアレを何とか出来れば、まぁ……多少はやる気出るんだよな。」

「何とかする!だから!死なないでね!」

「……無理だと思うがなぁ……まぁいいや。虚飾、さっさと次に飛べ。消滅まで後大体20分くらいの作戦を考えたから。その前にこいつらは結界の外に逃がさないとな~……」


 その言葉を受けてクロノ達は内心で今村に外の様子に気付かれたことを理解した。それに対して今村は苦笑する。


「なんだ、知ってたのか……お前らもグルで俺を殺そうと……まぁいいけどね。それならそれで俺の中からさっさといなくなってくれる?ウザいから。」

「ちが……っ!」


 思わず反論しかけてクロノの口を無理矢理塞いだのはシュティだった。彼女は念話でクロノに言う。


(今、大切なのは私たちがどう思われるかじゃない……兄様が、気付かないなら、そのままがいい…………大切なのは、生きてもらうこと……!)

(……そうだね。あと、どうでもいいけど思考は早いんだ……)

(……本っ当に、どうでもいいね……)


「はいはい。バレたからって殺しませんよ。念話はそこまでにしてさっさと下へ行け。虚飾。」

「はい。」


 そう言って案内人はその扉を閉じた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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